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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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変人小説家の苦悩

「新作の売り上げはなかなかいいですよ、ゾーィ先生!」


「そうでしょう、そうでしょう。」


ここは帝都にある出版社。応接室のソファに腰掛けているのは好事家の間では有名な小説家ゾーィ・フィクション。少し大きめの丸メガネをかけた少女だ。

ゾーィの向かいになるように座っている担当編集者のコーディーはまさかこんな少女が人気小説家になるなんて思ってもいなかった。


「おっと、コーディー君。私は門限の時間だ。さらばっ!」


時計を見て焦ったゾーィは帽子をかぶると足早に応接室を出た。


「あっ…ちょっと先生!」


まだ話していないことがあるのにゾーィは風のように去って行ってしまった。まぁ初めてあった時からあの破天荒さは健在なので今やすっかり慣れてしまったのだが。


「新作について一部クレームが来てるんだけどなぁ。」


しかし奇特な内容を書く変人小説家、まともな人からのクレームなんて朝飯前なのだ。


「ムフフ、やはり新作『二人の姫と愛の華』はベストセラーへ一直線だなぁ。ムフフフフ。」


自分でも気持ち悪いと思っている笑いをこぼしながらゾーィは馬車に乗り込む。

ゾーィ・フィクションことシャルロッテ・ツリーアゲート男爵令嬢…それが彼女だ。


「やっと時代が私に追いついてきましたねぇ!」


何度私の作品が酷評されたことか。しかし諦めずに執筆を続け一般には流通しなかったがコアなファンもついて…やっと認められたのだ。私の作品が。


「今の出版界は腐敗している。世間受けを狙った作品しか無いのだからな。」


貴族社会に流通している本は今までの歴史を綴るものなどがほとんどで娯楽などの小説が極端に少ない。

そんな業界に変革の風を吹かせようと奮闘し三年…やっと実ったのだ。


「やっぱりモデルがいるとリアリティが違うなぁ。」


新作の着想を得たのはダイヤモンド公爵家のお茶会だった。正直行きたくはなかったが公爵家からの招待と言うことで断れなかったのだ。

派閥の貴族全員に声がかかっておりそれは盛大なお茶会だった。そこで見たのはかつては敵対していた令嬢が仲睦まじく腕を組んで歩く姿。


「百合…尊い。」


そこから頭の中には二人の悲恋のストーリーが出来上がった。儚く…美しいそんな物語が。

家に帰って早速ペンを取る。書き始めると止まらなくなり一晩で書き上げてしまった。


「次作は今作の続編もいいなぁ。『悪姫と聖姫』とかかなぁ。」


馬車の移動時間も無駄にはできない。なんといってもモデルが美しいから筆が乗るというものだ。

今まで出してきた作品の中で一番今作が反響がよく売り上げは右肩上がり。私が家の収入のほとんどを占めていることを両親は知らない。


「シャルロッテお嬢様、家に着きましたよ。」


御者が私に家に着いたことを知らせる。


「いつも有難う!さぁ、早く部屋に行ってアイディアを書き留めないと。」


飛び降りるようにして馬車から降りると知らない馬車が二台家の前に留まっていた。


「お客様でも来ているのかな。」


まぁ、お客様なんて関係ない。だって両親へのお客様なのだから娘の私へのお客様ではない。


「さーて、早く部屋に……。」


家に入りそそくさと部屋に入ろうとした時


「シャルロッテ!!」


厳しく叫ぶ母の声にビクッと肩を震わせた。いつもは穏やかで叫ぶような人ではないのだが。


「何〜?私は今すぐ部屋に……。」


「お客様がお見えです。早く応接室に行きなさい!」


穏やかな母をここまで叫ばせるお客様とは一体誰なんだ。しかも私へのお客様だなんて。


「はいはい、どちら様うわぁっ。」


応接室に入るとそこにはアリシアとエルリア…じゃなくってアリスとエルリカ…私がモデルにした人物がうちの応接室のソファに座っていたのだ。


部屋に待機している使用人達もカタカタと震えている。


「はじめましてツリーアゲート男爵令嬢。突然の訪問をお許しください。アリス・ダイヤモンドと申します。」


「同じくはじめまして。エルリカ・スピネルと申します。」


二人はにっこりと微笑みを貼り付けていたがそれが純粋な微笑みではないことは明らかだった。

公爵令嬢と侯爵令嬢がこんな男爵家にまで来る理由。その心当たりは一つしかなかった。


(いやいや…ペンネームでやってるから何処から本名がバレたの!?)


ゾーィ・フィクションの時は変装もしていて誰もシャルロッテ・ツリーアゲートと結びつけられた事はない。


きっと別の用件に違いない。それが何かは分からないが小説の事ではない。……と信じたい。


「シャルロッテ・ツリーアゲートと申します。こんな男爵家になんの御用でしょうか。」


そう言うとエルリカはクスッと笑いをこぼした。右手を口元に添えなかなかに悪役な笑顔になっている。


「心当たりはございませんの?あんなふざけた小説を書いておきながら。」


エルリカは目の前に一冊の本を出す。その本のタイトルは『二人の姫と愛の華』だった。



******



「お嬢様、スピネル侯爵令嬢がお見えです。」


侍女のアンが私に突然の来客の訪問を知らせてくれた。


「エルリカが?」


わざわざ私の家まで訪ねてくるとは。変な小説事件のせいで私とあまり会わないほうがいいと思うのだが。


あの変な小説のせいでダイヤモンド公爵家と皇室が正式に否定する事態にまでなりエルリカも噂を消す為に飛び回っている。

フィクションとしてなら別に許せる範囲の内容だったのだが読者の誰かは知らないがこれはアリス・ダイヤモンドとエルリカ・スピネルの事なのでは?と言う噂を流しやがてその噂は歪曲し、事実のようになってしまった。


そして作者もモデルにした人物を分からなくするくらいの努力はするべきだったと思う。私達の名前をもじっただけではすぐ特定される事などわからなかったのだろうか。


噂が収まるまで私は部屋で謹慎とエルリカとの接触禁止令が出た。……いや、私なにも悪く無いよね?全然悪く無いじゃん、むしろ被害者じゃん!


(ヒドイ!私何も悪く無いのに!)


皇太子の婚約者という立場で私が不貞をしているとか同性愛者だとか噂だとしても印象を下げるような事は命取りだ。そのため大事をとって謹慎というか外出禁止なのだ。


しかし今日、接触禁止令中にも関わらず他の人の目を盗みエルリカが私に会いに来た。

いや、恋人の密会みたいになってるじゃん。という事は今は置いておいて、エルリカが伝えに来た内容はゾーィ・フィクションが誰かわかったから一緒にぶちのめしに行こうとい事だった(要約すると)。


「ヘェ〜。犯人はちゃんと償ってもらわないとね。外出禁止でルーに会えなかった私の貴重な時間を。」



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