子爵令嬢の午後
お茶会シーズン、私の所に来る招待状は減ることを知らなかった。
「○○令嬢?誰なのよ?」
全く知らない令嬢からの招待状は行かないに分類する。招待状の仕分けも大変だ。
「エルリカ様、少し休んだ方が。」
マリエットが心配そうに声をかける。
「やっておかないと招待状なんて増えるばかりだから。」
そう言って適当な理由をつけてマリエットを退室させる。
ダイヤモンド公爵家のお茶会で結局私はガブリエルとは会えなかった。その代わりガブリエルからの手紙で話したい内容を知ることになったのだ。
(貴族派が支援する帝国に反旗を翻そうとする属国のリスト…か。)
敵国である東側諸国と休戦になってから属国同士のいざこざではなく、属国達が帝国に反旗を翻すのが目立つようになった。
普通なら帝国に負けるのでそんなことしようとは思わないが他でもない帝国の人間が属国達を支援して帝国を潰そうと考えているらしい。
ガブリエルのリストの中に並ぶのは単体では勝ち目のない小国の属国が殆どであり、この小国達が協力して帝国と対立するようだった。そしてほんの一部ではあるがそこそこの大きさの国もあった。
(サファイア帝国って見限られすぎじゃない?)
先代の皇帝の時代にはこんな事はなかったらしい。まぁ…その責められるべき無能な前皇帝はもう死んでいるのだが。
イーサン皇帝の唯一偉業といえば有能な皇太子に自ら権力を渡した事だけだろうか。そのほかは好色帝のイメージが強い。
七人の妃がいた事はまだ許せる。世継ぎを作るのは皇帝の仕事だからだ。しかし妾などの婚姻していないのに関係を持った女人の数が3桁に達したあたりから大臣達の様子はおかしくなっていった。
それまでは皇帝の責務だからと目を瞑っていたが自分の娘や妻にも手を出され、大臣達は黙っていられなかったらしい。
それは結局、父に比べ婚約者に一途な姿勢を見せる皇太子に忠誠が集まる結果となった。
「あら?」
ガブリエルからの手紙を読み終わるとその手紙の下に重なっていた招待状に目がいった。
それはオブシディアン子爵家サラからのお茶会への招待状だった。サラなら信用できる。私を嘲笑うようなお茶会ではないだろう。
「オブシディアン家のお茶会は決定ね。」
******
オブシディアン子爵家のお茶会でも私にまとわりつく視線は前と変わらないような気がした。
「本日はお招きいただきありがとうございます、オブシディアン子爵令嬢。」
「来ていただき光栄ですわ、スピネル侯爵令嬢。」
一応、貴族令嬢らしく人前では堅苦しい挨拶を交わす。サラも大人しくしていればちゃんと貴族令嬢に見えるのだが学園にいる時とは違いすぎる。
「学園ではそれはお世話になりました。(勉強教えてくれてありがとう。)」
「無事、子爵令嬢が冬休みを迎えられて良かったですわ。(補習にならなくて良かったわね。)」
主催者であるサラは他にも挨拶をしに来る人たちがいるのでいったん離れ、お茶会が始まったら話そうと思った。
サラと話せる時間は意外と早くやってきた。
「エルリカ…聞いたわよ。」
それは顔面蒼白とも言える表情だった。
「聞いたって何を?」
なかなか後ろめたいことが山ほどあるのでその内のどれかがバレたのか心配になった。
「これよ…。」
サラが差し出したのは一冊の本だった。
「何?」
本に関してやましいことなんてないのだが。その本のジャンルからして恋愛小説のようだった。
「その小説面白いの?」
「いや、おすすめ小説じゃないから!エルリカがこの本に出てるのよ!」
バンッとサラはその本を私に突き出す。
「私が?」
え?私本に出るような人物じゃないし。それに似たような又は同じ名前の登場人物が出てきたとしても偶然で済まされると思うのだが。
パラパラと本をめくる。この恋愛小説は一部の宗派でしか認められていない同性愛の物語で一般には流通していないものだった。
主人公の名前はアリシア・ダイヤモンド。あれ?なんか聞いたことあるような無いような名前が出てきたが先ほども言ったように偶然似てしまったということもあるからここはスルー。
アリシアの設定は公爵家の末娘で皇太子の婚約者…。あれ?似たような人物を知っているのだがフィクションと割り切ってしまえば納得できなくもない。
そしてもう一人の主人公がエルリア・スピネル…。大丈夫、フィクション…そうフィクションよ。エルリアはなかなか特殊な事情を抱えるキャラクターで元々はアリシアと敵対する派閥の公爵令嬢だったが父が罪人として処刑され平民に落とされたがひょんなことからスペンサー家に引き取られ侯爵令嬢に返り咲く。
あー…既視感あるなー。なんか知ってるなーこの登場人物達。
「これ、どう見ても私とアリスのことだって丸分かりじゃ無い。というかなんで私とアリスが恋仲に描かれているのよ。」
内容はアリシアとエルリアは禁断の恋をするのだが同性愛、アリシアは皇太子の婚約者という事もあって二人は結ばれない悲恋のストーリー。
いや、どこに頭ぶつけたらこんなの思いつくの?ってくらいの物語だ。
せめてキャラクターのモデルが誰かわからないくらいには名前を隠す努力をしようよ、この作者は。
「この物語のせいでまるで私とアリスがさも恋仲であるかのようじゃ無い。」
「その噂で持ちきりなのよ、エルリカ知らなかったの?」
ダイヤモンド公爵家のお茶会以降スピネル侯爵邸に篭っていたから噂なんて知らなかった。
「知らなかったわよ。ダイヤモンド公爵家のお茶会以来侯爵邸から出てないもの。」
しかしなんでこんな小説が出回っているんだ。ダイヤモンド公爵家と皇室が正式に否定する事態になったそうだし。
多分ダイヤモンド公爵家のお茶会で私とアリスが仲良くしていたので誤解されたのだろう。休憩室にルイスが迎えに来た時アリスはまだ話があるからと追い返したようになったから余計疑われ、この物語の信憑性をあげていた。
私はその本の作者の名前を見る。
「ゾーィ・フィクション…。」
多分これはペンネームだろうが、ちょっと許せない範囲にいるよ。ゾーィ・フィクション。




