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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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紅い女騎士

スカーレット・アルマンディン、彼女の生家は没落スレスレの男爵家だった。

そこの三女であるスカーレットはどこかの貴族家に侍女として働きに出て、どこかの貴族の第二夫人以降の妻とかになるんだろうな…と思えるような人生だった。

一番上の姉と2番目の姉が侍女としての就職が決まりさあ、次は私も!という時期だった。就職先を探して帝都を彷徨っていた。

帝都に来れば就職先なんていくらでもあると思っていたが貴族の中でも帝都に滞在できるほどの財力がある貴族ならこんな田舎の貧乏娘よりもっと教養のある侍女を雇える。

田舎の貧乏娘の教養で侍女が務まるのはやはり田舎の貴族が限界だった。


「はぁ…滞在費用もそろそろ限界かな。」


手の中の硬貨はちゃりちゃりと音を鳴らす。このお金は帝都に滞在できるよう必死にかき集めたお金だ。帝都で就職できればいっぱい稼げると思っていたのに、まず就職すらできないとは。


娼館…という考えも浮かんだが貧乏でも貴族だ。そんなところに身を落とすわけにはいかない。貧乏なくせして人一倍貴族の誇りは強いのだ、アルマンディン家は。


その時、高らかにラッパの音が聞こえた。道端で演奏会でもやっているのかと大通りに出る。騎士団の行進を知らせるラッパの音だった。


人々は道を開け、騎士団を拍手で見送る。


私は滝に打たれたような衝撃を受けた。


(騎士団!!)


殆どが男性だがちらほら女性の騎士もいる。そして第三騎士団に至っては女性が団長として団を率いていた。


騎士団を見終わった後私はもう侍女の募集の用紙なんて捨てていた。騎士団の建物に直行し騎士団に入る申請まで済ませていた。


しかし、その申請は通ることはなかった。受付を担当する者の言葉では、


「君、騎士団に入れるほどの実力あるの?どっからどう見てもただの小娘なんだよねー。まぁ、筋肉つけて出直しなよ。」


だった。


その日滞在費用が尽きた私は泣く泣く実家のある田舎へと帰ったのだ。



「スカーレット、早く就職先を見つけなさい!侍女になれば出会いがあるから行き遅れになることもないのよ。」


母は心配そうに声をかける。しかし私は一心不乱に剣を振り続けた。


「スカーレット、貴女のために言っているのよ。帝都から帰ってきたと思えば急に剣なんて始めて。」


母は知らない。私が侍女になって令嬢のご機嫌取りをするより騎士になりたいなんて。


「ふっ。ふっ。」


家の木に向かって模造刀を振る。ただがむしゃらに剣を振るだけでは上達しないことはわかっていた。しかしうちに剣術の教師を雇う金はない。家庭教師ですら雇えず私達は平民の子に混じって教会で行われる勉強会に出席していたのだ。

時々教会が貧しい人たち向けに炊き出しを行うのだがそれにも私達は平民に混じって食べ物を恵んでもらっていた。冬は食べ物にも困るほどうちの経済環境は厳しい。


「ふっ。はぁ。」


手には豆ができて潰れてはまたできるの繰り返しで、貴族令嬢の中でも珍しくゴツゴツの手に変貌していた。


「スカーレット。」


庭で剣を振り回していると父に呼び止められた。


「はい、何でしょうか。」


今すぐ剣なんてやめて侍女としての他の貴族家に働きに出なさいと言われるのかと覚悟した。


「やるなら、最後までやりなさい。」


そう言った父の後ろから出てきたのは、父の友人のレースアゲート子爵だった。子爵は名高い軍人で剣の使い手と言われた。


「久しぶりだね、スカーレット嬢。剣に興味があると聞いてね。良ければ私が教えてあげよう」


「お久しぶりです、しかし私のために…いいのですか?」


父も子爵も頷いた。父は私のために子爵に頼み込んでくれたのだ。


友人といえど貴重な時間を削っているわけで、授業料などは友人価格になっているだろうがそれでも今のうちには厳しい出費だろう。


なら、絶対に騎士になってお金を稼ぐという決意は強固なものになった。


2年後、一通りの剣術は習得できた私は帝都に行くことにした。私の剣術の授業費で結構な出費をしたというのに両親は帝都の滞在費までも出してくれた。

無事騎士団に入れたら騎士団の寮に入るから滞在費は必要ないのだが騎士団に入るまでの少しの間の滞在費を出してくれた。


「ありがとう、お父様お母様。」


私は馬車に乗り込む。馬車といっても家の馬車ではない。帝都まで荷物を運ぶ馬車の隅に乗せてもらうのだ。


「スカーレット、気をつけてね!」


「頑張るんだぞ。」


馬車が動き出して両親の声はだんだん遠のいていった。それでも言われたことはずっと頭の中で反響していた。


帝都についた私は真っ先に騎士団の建物に行き、入団の申請を済ませた。2年ぶりに会う、受付の人は私とはわかっていないようで女性騎士が増えるかもねー、と喜んでいる。


「おめでとう、入団の申請通ったよ。」


「ありがとうございます。2年前貴方に言われて筋肉をつけて出直しました。」


そう笑顔で言ってやると数秒間固まった後じーっと私の顔を見て記憶を掘り起こし私が2年前の人物と同一人物であることに気づいたようだった。


「あー……あの時の小娘。」


私のつま先から頭のてっぺんまで見て口を開けていた。騎士になるには十分の筋肉をつけ、あの頃の小娘の面影なんてどこにもないんだから。


私は第一騎士団に配属された。まだまだ下っ端だがすごい騎士達と一緒に仕事ができることが嬉しかった。特に団長のリアム・ダイヤモンドは別格だった。若いのに団長を任されている。もともと団長の家系の息子だというがもう少し経験を積んでからその座に就くことが普通だそうだ。


しかし他を圧倒する実力で若くして団長の座についても批判が殆どなかったそうだ。私は団長を尊敬し、敬愛し、この人に一生ついていこうと思った。

やがて敬愛が恋心に変わったのがわかったがその気持ちを押し込めただの部下として接した。男爵家の出である私が代々皇妃…時には皇后も輩出している名門公爵家のご子息である団長の目に留まるはず無かった。留まらないほうが良かった。


好きな人…として目に留まったわけではなかったが団の実力者として団長の目に留まった時は嬉しくて泣き出しそうだった。

私はそれでも忠実な部下を演じ続けた。急に妻の座を狙う女に豹変したく無かったからだ。私は団長のことになると慎重になった。

もうちょっと信頼関係を築いてからの方がいいんじゃないか?自然な感じに親密になるにはどうしたらいいか?

思えばそんなことを考えてしまっていたのだから恋心を押し込めきれていないし、欲望むき出しのそこら辺の女と何一つ変わらなかった。


団長が恋人であるフローラを連れてきた時、何か裏切られた様な気がした。いや実際には私と団長は恋仲ではないので裏切ってなんかないのだが、フローラの身分が平民だったことから男爵家の私の方が身分的には上。フローラより私の方が可能性があったはずなのにと思わずにはいられなかった。

フローラよりも私と過ごした時間の方が圧倒的に多いはずなのに団長はこの女のどこに惚れたのか、結婚を願うほどの決定打が。


私はフローラが最初から気に入らなかった。気に入らなかったのは他の団員も同じらしく、私は一人じゃないという謎の安心感を得られた。

ただその安心感は団長と敵対することから来ている。団長と敵対することは本意ではない。

実際には敵対とまではいかないが私や他の団員は団長とは反対意見を持っているので対立していることになる。


誰も敵を好きになるはずないのに。こんな事していれば嫌われるのは分かっているのに。



スカーレットは包帯の上からさすっていた傷口がもう痛くないことに気づいた。出血も止まっているし、傷口も塞がっていた。


自分の回復力が少し恐ろしかった。こんなにも人間は傷を癒すのが早かっただろうか。

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