表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
79/259

人の皮を被った魔女

第一騎士団が到着したのは今回の戦争で要となる軍事拠点、シェル要塞だった。


到着すると一旦私は第一騎士団とは離れて軍の衛生兵である、ジャンヌさんの後に続いた。


「あの…救護要員で来ました。フローラです。」


「あぁ、そう。わかったから。」


ジャンヌは適当に返事を返した。ジャンヌの顔からは疲労が見て取れた。


「早速けが人の手当をお願いする。あそこに包帯とかあるから。」


「あ、わかりました!」


けが人の手当をする前にこっそりこの要塞全体に結界を張って攻撃を受けないようにしよう。結界は獣除けのものを母の手伝いで張ったことしかなかったが攻撃を防ぐ結界は獣除けの応用編のようなものだと母から聞いたことがある。


基本ができているのなら応用ができないはずがない。私は人に見られないように小さく魔法陣を展開する。その魔法陣を中心として透明の膜のようなものが要塞全体を包み込んだ。

この結界は無色透明で外部からの攻撃のみを弾くものなので通行の妨げになったりはしない。結界は基本的に術者しか可視化できないが魔法を使えるものなら他人の結界を見ることもできる。

私が見たことある結界は母のものだけだった。しかし私以外魔法が使えるものはいないだろうし、結界が張ってあるなんて気付くわけがない。


「ちょっと何ボケーっとしてるの。」


ジャンヌがなかなか手当に移らないフローラを叱責する。


「すいません。」


もう、結界は張った。この要塞は半永久的に安全地帯となったのだ。と言っても直接攻め込まれたら敵わない、この結界は人の出入りを封じることはできない。人の出入りを封じる結界はそれこそ優秀な魔女か魔導師レベルに魔力がないと出来ない。


さあ、手当を。という時に怪我人がいる部屋とは別に怪我人のいる部屋があった。扉が少し開いており中を見ることができる。


「あの、ジャンヌさん。こちらにも怪我人が…。」


その部屋に足を踏みいれようとした時


「入るなっ!」


ものすごい剣幕でジャンヌが叫び、踏みいれようとした足は引っ込んでしまう。


「な…なんでですか?」


今にも治療を必要とする重患者ばかりのように見えるのだが。


「そいつらはもう助からない。疫病にかかったり此処じゃ治療できない重傷者だったりするんだよ。」


ジャンヌはその重患者には目もむけず、すぐさま扉を閉めると手当したら助かりそうな比較的軽傷の怪我人がいる部屋へと入っていった。


(こんな大勢の人がただ死を待つだけなの?)


掃除も一切されていない不衛生なその部屋は疫病が蔓延するのも仕方ないと言った環境だった。しかしこの部屋に隔離しているだけでは解決にはならない。


私は口元を三角に折った布で塞いで手袋をするとその部屋に入った。まず締め切られている窓を開け、部屋を掃除した。放置され続けた部屋からはとんでもないほどの異臭がしたが空気を入れ替えたことによりだいぶ落ち着いた。


「これだけの人数を私一人で見るのか…。」


ずらっと床に転がるようにして並べられている怪我人を見る。私は医者でも看護師でもない、ただ包帯を巻いたりする…など初歩的な治療が一通りできるだけだ。

そんな技術だけではこの重傷者を救えるはずもない。だけど私が自分の意思で此処に来たいと言ったのだ。投げ出すなどできない。


怪我人の傷口を洗い、雑に巻かれた包帯を取り替え、体を濡れたタオルで拭いた。その動作をするついでに治癒魔法を施す。


治癒魔法は怪我は直せるが、病気は治せない。もし疫病にかかっているのだとしたら魔法でも無理だ。


「あ…りがと……う。」


今まで呼吸だけする死体のように何も喋らず動かなかった怪我人が喋った。まさか喋るとは思っておらず多少、驚いてしまう。


「俺たちを……手当して…くれ…て。」


ありがとう、ありがとうと部屋にいる怪我人らが次々と口にした。


「無理して喋らなくていいです。傷口が開くかもしれませんから。」


「見…たことない、衛生兵だ…な。」


「私は第一騎士団と一緒に来たんです。」


私は元からいた衛生兵ではなくついさっき第一騎士団と来たばかりだということを伝えるとその軍人は安心したような顔になった。


「そうか……騎士団が来てくれたのか。」


そう言うとその軍人はカクッと頭が下がった。死んでしまったのかと慌てて脈を測るがどうやら眠っただけのようだった。


(ヒヤヒヤしたじゃない。)


額から嫌な汗が伝う。来てからずっと働きっぱなしで普通の人間なら疲労がたまってきてもいい頃だが私は合間合間にこっそり自分にも治癒魔法をかけて疲労を帳消しにしているのでまだまだ動けた。


次は疫病をなんとかしないといけない。この狭い部屋に閉じ込められていたのだからほぼ全員感染していると見ていいだろう。


(その疫病に効く薬とか置いてないのかしら。)


病にはそれを治す薬がある。見たことはなくとも伝説に存在は聞いていた。森で暮らしていたころは病気になんてなったことがなくせいぜい怪我をする程度。人と会わないから病気に感染することなどなかった。

今までの人生の中でいちばんの怪我は木の上から落ちて骨折したくらいだ。骨折以上の大怪我を負ったことも見たこともなかった。

しかしここには骨折している人なんて普通にいるし手がなかったり足が無かったり、内臓がズタズタになっていたりする。

人間の為に魔法を使うと感謝された。目に見えるように魔法を使ったわけではないが感謝されるという経験自体初めてだった。


初めて必要とされているような気がした。私が…じゃなくて魔法が…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ