騎士様の魔女 Ⅲ
救護要員だとしてもケイシアの出征は認められなかった。未来の皇妃を危険に晒す気かと皇家からお叱りまで受けてしまった。
一方でただの平民の私にはすんなりと許可が出た。衛生兵だろうが捨て駒だろうが私のことは特に興味はないのだろう。
第一騎士団は私のことをあまり良くは思っていないようだった。いくらリアムが団長とはいえ従いきれない、といった感じだ。
「足手まといが。」
「邪魔邪魔。」
小声で私のことを言っているのがわかる。たとえ聞こえなくとも負の感情が私に向けられているのでわかっただろう。
「フローラ、大丈夫?」
前に居たリアムが声をかけてくれた。私は馬が扱えないので物資を運ぶ荷馬車に乗せてもらっている。その前をリアムが馬で歩いている形だった。
「大丈夫だと思う。」
自分自身が足手まといだと分かってはいても他人からそう思われるのはやっぱり不快だ。
「顔色が悪い。もうすぐ休憩に入ると思うからそこまで我慢して。」
「ありがとう。」
多分顔色が悪いのは周りからの陰口のせいだろう。聞こえてないと思っているのだろうが全部聞こえている。
休憩地点に着いて荷馬車はゆっくりと止まった。
「はい、水。この先しばらくは休憩地点がない今のうちに休憩しといて。」
リアムから渡された水を飲むと少しだけ気が楽になった。馬車の揺れに酔った訳ではなかったが水を飲むことにより気分がマシになる。
しかし休憩中にも陰口というか負の感情は漂ってきている。そのため気が休まることがない。
「ありがとうリアム。ここまで連れてきてくれて。」
全て私の我儘だ。だから悪口も陰口も甘んじて受け入れなければいけない。わかってはいても辛いものがある。
「リアム、魔法のことについてなんだけど。」
魔法という単語から私は声をひそめた。誰が聞いているかわからないのでリアムにだけ聞こえるように周りに注意しながら話した。
「感知魔法のことなの……。」
魔法についてはリアムが私を帝都に連れて行ってくれた道中に話してある。だからリアムはどんな魔法があるのか…などは知っている状態だ。
「あぁ、人の感情を読み取れるってやつか。」
リアムもまた声をひそめた。
「当たり前かもしれないけど騎士団全体から暗い感情がするわ。」
「まぁ…正直なところフローラはあまり良く思われていないからね。許せないけど。」
リアムは他の団員達に少々怒っているようだった。
「僕なら絶対しないけどね。」
「あら?リアムも私に暗い感情を向けたことはあるのよ?」
私はクスッと笑いながらリアムに真実を教えてあげた。
「初めて会ったあの町で、私とエリックさんが話している時よ。」
「あれは嫉妬だよ。あの時から好きだったんだから。」
リアムは少し恥ずかしそうに言うが素直に好きと言ってくれる。少し赤面しているようだった。
「すみません、団長。副団長らがお話があると言う事です。」
そこに近づいてきたのは第一騎士団唯一の女性騎士スカーレット・アルマンディンだった。
「わかった、すぐ行く。」
リアムがその場を離れ、スカーレットも用がないのだからこの場にいる理由はないかと思われた。しかしスカーレットにはこの場に残る理由があった。
「フローラさん。お話が。」
「はっ…はい!」
話しかけられるなどとは思っていなかったフローラは思わず身構えてしまった。なぜならスカーレットからは一番嫌われている感じだったからだ。
「単刀直入に言います。貴女は足手まといです。貴女のせいで貴女自身だけではなく周りにも犠牲が増える事でしょう。ですので、もし貴女が命の危機に晒された時周りに被害を出すようなことはしないでいただきたい。」
「えっと…つまり?」
私の身は私で守れる。だからスカーレットの言いたいことがいまいちわからない。それとも私が鈍いだけだろうか。私が足手まといなのは分かりきっている。
「もし死ぬようなことがあれば周りに助けを求め犠牲を増やすのではなく、大人しく一人で死んでください。」
「なっ…。」
その言い方に…その言葉の内容に…。怒るなという方が難しかった。声を荒げることはなくても私の中で何かが切れた。
「戦場では誰かが自分の命を守ってくれるなんで甘い考えを捨ててください。足手まといは死んでも足手まといになろうとするのではなく死ぬときくらいは足手まといにならないで頂きたい。」
スカーレットはキッとフローラを睨みつけた。
「あ…あの私は救護要員として行くんです。死ぬようなことはないかと。」
「戦場では何が起こるか分かりません。ちょっと危険地帯への遠足ではないんですよ?」
スカーレットは言いたい事だけ言うとすぐにその場を後にした。見方によってはいけない反論されるのが怖くて逃げたようにも見える。
スカーレットの言葉はリアムを敬愛するが故だろう。何故役立たずの恋人を戦場に連れて行くのか誰もが理解不能だろう。
たしかに私は剣を触れないし、体術一つで戦えるわけでもない。魔法が無ければただの非力な小娘。そんなこと知らないスカーレットから見れば邪魔な存在でしか無いのだろう。
ケイシアが言っていたが女性騎士は男性騎士の中で日々生活している。女性騎士は自立している人が多く結婚して家を守るという考えをあまり持っていない。男性に寄生している女性を嫌う傾向にある。
(スカーレットさんの当たりがキツイのは私が邪魔なのもあるけど私が嫌いな女性の部類に属しているからなのね!?)
だってリアムと結婚してさっさと家に入ろうとしている女に見えても仕方ない。ていうか実際そうだし。
私が戦争に参加したのはリアムを死なせないためだ。リアムが弱いと言っているわけではないが魔女である私は普通の人間よりは強い。元々の基礎能力から違う。だから私もリアムと肩を並べて戦えるはず。
リアムに守られたいわけじゃない。守られるだけでなく私も守る。これは私が初めて人を殺すためではなく守るために魔法を使いたいと思った。
(と言っても明らかに魔法だとバレるものは使っちゃいけないわよね。)
傭兵を焼き殺した火の魔法のように。
私は自分の手を見た。ここから魔法は出てくる。人を殺すことができる力。そのかわり人間には魔女を殺すことができる技術がある。
「自分の力に慢心しないこと。」
昔、母が言っていたことだ。私達の力は呪いだ。人間になりきれない呪い。
嫌われ、蔑まれ、恐れられた魔法を私は他でもない憎むべき相手である人間のために使いたいのだ。




