騎士様の魔女 II
「お義姉様には物凄い美貌があるじゃないですか。そんなに美人なら生まれや血筋なんて関係ないですよ!それにお義姉様が嫁いで来てくださるなら、血筋は汚れるどころか浄化されますよ。」
これが冗談のような顔ではなく真剣な顔つきで言っているので少し怖くなった。ケイシアは適度に冗談を会話中に挟むがこんな真剣な表情で言われた事はない。
「美貌なんて大袈裟です。私より美人な人は幾らでもいるでしょう。」
だって私は今までお貴族様のように美容に気を使ってこなかったからね。多分肌が荒れたりしないのは魔法のおかげだ。
「お義姉様またまた謙遜して。今、社交界全体でお義姉様の話題で持ちきりですよ?絶世の美女だとか言われてました。」
「嬉しい事なのかも知れませんが恥ずかしいですね。」
まぁ、美貌だけで公爵夫人になれるわけない。美貌と権力を兼ね備えたリアムの婚約者に相応しい人は幾らでもいるのだから。
「お茶の稽古はもう終わりにしましょう。カップ…割れちゃいましたし。」
ケイシアがそう言った時、自分が割ってしまったカップの値段が頭をよぎった。平民としての慎ましい暮らしであれば半年くらいは生活出来るほどの金額だ。
(弁償とか…大丈夫か!?)
もし弁償する事になったら手品師みたいな事して稼ぐしかないだろうか。
「そろそろ兄が帰ってくる頃ですかね。」
ケイシアは部屋の柱時計を見ながら呟く。
「家の前にいる自称婚約者はどうするんですか?」
多分鉢合わせたらろくなことがない。
「執事達がなんとかしてくれるでしょう。」
しばらくすると自称婚約者の馬車と入れ違いに公爵家の馬車が敷地内に入ってきた。自称婚約者の馬車は慌てて引き返そうとしたがその時には門が閉まっており入る事はできなかった。
「プッ。あの慌てようと言ったら。醜いですね。」
上から窓の外を見ていたケイシアが思わず吹き出す。それほどまでに滑稽なのだろう。淑女が吹き出して笑うなどはしたないとケイシアに1番に習ったのだ。
コンコンッとノックの音がする。
「あ、兄さんお帰りなさい。」
「リアム、お帰りなさい。」
入って来たのはリアムだった。
いつもならここでリアムとフローラのお帰りなさいのハグという見ているこっちが恥ずかしくなるラブラブっぷりを拝めるはずなのに…とケイシアは思った。
しかしお帰りなさいのハグは無しにリアムは話し始めた。
「第一騎士団が出征する事になった。すぐにでも行かないといけない。」
リアムの発言でお帰りのハグなどしている場合ではないことがわかった。
「騎士団!?軍は何をしているのです。」
ケイシアは驚いて声を荒げた。
出征…戦争に行くということ。騎士団までもが戦場に駆り出されるほど追い詰められているという事!?もしかしたら死んでしまうかも知れない。私の知らないところで……。
「わっ…私も連れて行って。」
思わず言ってしまっていた。え?という感じにリアムとケイシアが目を見開く。
「何言っているんですか!?だってお義姉様剣も扱えないでしょう?」
「戦場なんて危ないところに連れて行けるわけないだろう。」
リアムとケイシアは全力で反対する。
「でも、待ってるだけなんて嫌なの。」
自分には他の人とは違う力がある。ただもう人を攻撃するために使うんじゃない、人を守るために使いたい。
「衛生兵として連れて行って。」
私がいたら足手まといになる。なら、救護要員として行けばいい。リアムを一人にしたくない。
ジッ…とリアムを見つめる。リアムは私の思いがわかったのか肩を落とした。
「第一騎士団の救護要員として…なら。」
「兄さん!!」
それでもケイシアは納得していないようだった。
「騎士団専属なら幾らかは安全ですがそれでも危険には変わりないですよ!!」
「ごめんなさい、でも私も行きたいの。」
ケイシアには私が魔女だということ、魔法のことを話していない。だからいざとなったら自分で身を守れる事を知らないのだ。だから説得力が無くて当然だ。
「なら、私も行くわ。」
ケイシアも行こうとしたが直ぐにリアムに止められた。
「ケイシア、皇帝陛下との御結婚が決まっているだろう。その身を傷つけるわけには…。」
「どうせ、側室よ。好色帝なんだから気にする必要ないわ!」
ケイシアは不敬と取れる発言した。
「不敬罪になるぞ、ケイシア。」
不敬罪…と言ってもこの部屋にいる私がリアムが告発しなければケイシアが罰せられる事はない。
「……口が滑ったわ。」
口が滑ったという事は本心だったようだ。皇帝陛下は嫌われているのだろうか。
「兄さんが言いたい事はわかる。でも、私の望んだ結婚ではないのだから傷ついて破談になるなら願ったり叶ったりだわ。」
ケイシアは結婚を望んでいない。皇帝の妃になることが幸せとは限らないのか。
ケイシアは腕を組んで足を組んで座った。淑女ならあり得ない行為…というか女性としてもどうかと思う座り方だった。
ケイシアは皇帝に求婚される前は騎士として団長を任されるほどの実力だったが求婚され、皇宮入りが決まるとその座を退かねばならなかった。
公爵家という権力はあるが皇帝直々の求婚を理由もなしに断れなかったのだろう。
結婚はケイシアの手足をもぐのと同義だった。
「ケイシア…。」
リアムもフローラもそれ以上何も言えなかった。現状は難しいが二人は望んだ結婚をしようと努力しているのだから。
「ケイシアも救護要員としてなら…なんとか許可は降りるかもしれないな。」
それを聞いてケイシアは笑顔をフローラに向けた。
「私が行くからには必ずお義姉様をお守りします。」
いや〜、守ってもらわなくても…と思うが私が言っても説得力がないので今は頼もしい、と返した。




