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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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魔女の娘 Ⅲ

「フローラちゃん、すごい美人さんだね。よかったらうちの宿で食べていくかい?」


宿の主人、エリックがにこやかに誘ってくれる。これってどうやって返すのが正しいのだろうか。


「あっ…ありがとうございます。ぜひ食べに行かせてください。」


母は読書好きで文字を読める他に文字を書くこともできる。しかし私は本を読んで勉強するくらいなら森を駆け回る子供だったので今まで何も勉強してこなかった。

私の会話術というのは母の言葉を盗み取った言葉なのだ。だから、ちゃんと伝わるのかどうかが心配だ。


「フローラちゃんなら大歓迎だよ。」


よかった…ちゃんと伝わっている。その時また、黒く汚いものを感じ、感じた方向を向いた。その方向にはリアムが居た。


(もしかしてさっきのはリアムさんから…?)


しかしリアムは笑顔でさっきの黒く汚いものはもう感じなかった。


多分…これは。昔に母との会話を思い出した。


「フローラは感知魔法に優れているね。」


「かんちまほう?」


「そう、感じ取る力のこと。人の心を感じ取れる魔法だ。」


心を感じ取れるといっても考えている事を正確に読み取る事は魔法でも不可能で、その人が今感じているおおまかなの感情が感じられてしまうのが感知魔法だそうだ。


感知魔法に優れた魔女は心が優しく、他人の感情に共感してしまう感受性豊かな者が多かった。魔女の中で唯一人間に寄り添い、人間に心を開き、そして身を滅ぼした。

魔女の中では感知魔法は魔法の中で最底辺に位置し、その魔法を好んで使うものはいなかった。人間の気持ちなんて分かってどうする。人間の欲に塗れた汚い負の感情を感じ取るなんて御免だ。


それが魔女の常識だった。


リアムやベネティアから感じ取ったのは負の感情。人間なら気づきもしない汚く醜いもの。魔女(わたし)はそれが感じれてしまう。


人間への開きかけた心の扉は音を立てて固く閉ざされていくのが分かった。自分以外は皆人間だ。どれだけ優しく彼らに接しようとも心を開こうとしても魔女だと分かった途端きっと殺すのだろう。


思いたくなかっただけだ…気づきたくなかっただけだ。リアム達が醜い人間だなんて信じたくないだけだ。


「わ…私、用事があったんだ。ごめんなさい帰ります。」


「えっ!?」


もうこれ以上ここに居たくなくて、周りの声を無視し、宿の近くまで来たといのに町の外の方まで走った。町の入り口まで戻ってくるとひとまず安心した。誰も追って来ては居ないようだった。


「ねぇ、聞いた?」


人の声がして反射的に建物の陰に隠れてしまった。話しているのは女性二人のようだ、ベネティアと同じくらいの歳の。


「騎士様がいらっしゃってるんですってね。」


もうリアムは噂になっているのか。


「ティアが会ったことあるって言ってたわ。」


ティア…とはベネティアの事だろうか。


「そりゃあ、ティアは社交界のシーズンになると帝都の親戚の子爵家に行って騎士様の追っかけをしてるものね。」


ベネティアは親戚にお貴族様が居るようだ。

母が言っていたのだが貴族は平民よりも魔女などの類を嫌う、魔法が生活に直結するものが多いのでそれを役立てられたら平民は魔女側につく可能性を恐れているそうだ。


「でもさ、騎士様の気を引こうとちょっと必死すぎるよね。ティアの顔がいいのは認めるけど性格最悪じゃない。」


「あれじゃ、騎士様振り向かないわ〜。」


キャハハと甲高い笑い声が聞こえる。気分が悪い…早く離れようとした時だった。


「そういえば、騎士様と一緒にいた女の子。」


急に話の中に自分が出て来て、離れようとしていた足を止めた。


「物凄い美人だったわよね!」


「ティアが嫉妬丸出しだったもの。」


こ…これは褒められているの?でもベネティアと比べられたのはあまり良くない。


「でも、森に住んでるっておかしくない?」


「うん。今まで一度も出て来た事ないって…どうやって生活していたのよ。食料は育ててるにしても衣類とかはどうやって手に入れているのかしら。」


それは…魔法で。彼女達があげた疑問点は全て魔法で解決する。


「昔、聞いたことがあるんだけど。」


「何?」


「森には魔女が住んでいるって。」


冷や汗が頬を伝った。


パキッと足元で音がして私は右足を上げる。そこには粉々に踏み潰された木の枝があった。


「そこに誰かいるの!?」


ヤバイ…そう思った時にはすでに遅かった。二人の女性はどんどんと近づいて来た。


(瞬間移動とか使えればよかった。)


瞬間移動などの高位魔術は私のような劣等魔女には出来ない。だが今は私には無理だ…などと諦めずに必死に習得しとくべきだったと後悔した。


あっという間に私は見つかった。


「あっ…。」


二人は私がさっきの話を聞いていると思ったようだ。


「えっと…。」


どう弁明しようか悩んでいる。しかし、無理に弁明を試みるという選択を早々に放棄したようだ。


「さっきの話、聞いていたわよね。」


にっこりと微笑んで入るが言葉に圧が感じられ、強制的に首を縦に振らせようとしている。わたしはその強制力に従い、首を縦に振った。


「はい。」


「怪しいのは貴女じゃない。なら、魔女だなんて疑われてもしかないわよね。」


わざとわたしを挑発するような発言をしている。ここでわたしが普通の人間なら魔女だなんて怪しまれた事を憤慨するのだろうが、本当のことなので反論できない。しかし、何か返さなければ魔女という事を肯定することになる。バレたら殺される。


「自らを正当化するのか。」


彼女達の後ろからそう声が聞こえた。

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