魔女の娘 II
「珍しい!騎士様がこんな田舎に来るなんて。」
その町娘はリアムのことを知っているようだった。その町娘の声で町の住民達はリアムの周り……町の入り口に集まっていく。
「騎士様、この前帝都でお会いしたものです!覚えていらっしゃいますか?」
「あ…あぁ勿論。」
苦笑いで覚えていると返すリアムを見て、あ…絶対に覚えてなかったなと思った。
人が集まってきてリアムを囲んでいる。完全に蚊帳の外になった私はさっさとその場を離れることにした。
あんなに人気なんだ。きっと帝都でもリアムさんは人気だったに違いない。自分みたいに根暗で地味な女が近くにいるのはあまり良くない。
髪はシルバーだが光の当たり方によればピンクや紫、黄色、青、緑といろんな色に見えるはっきりしない色の髪。服も町娘よりみすぼらしいものだった。リアムと並ぶと特に。
その場を離れようと回れ右をした時だった。
「その子は騎士様の連れですか?」
あの町娘が私を指差しながらリアムさんに聞いている。そこで皆の視線が一気に集まった。
「え…あ……。」
大勢に見られて血の気が引いていくのがわかる。目の前が暗転しそうになった時グッと腕を掴まれて引き戻される。
「あ…リアムさん。」
その人物はリアムだった。
「連れって訳ではないです。ここまで案内してもらいました。」
そう言って微笑みかけてくれるリアムに引きつった笑顔で頭を縦に何度も振った。言葉で返事をするのは難しいと悟り、態度で表すことにした。
「へぇ〜。貴女の髪と瞳って……。」
言いたい事はわかる。変な色、不気味な色…そんなところだろう。複数の色を持つものは珍しい。二色でも珍しいのに、私の場合は光の当たり方にもよるが六色も持っている。
珍しい…それは誇ってもいいものなのかもしれない。しかし、珍しすぎるのが必ずしもいい訳ではない。母や私は魔女というだけで迫害され、今もコソコソと生きているが母は髪の色から魔女の中でも差別されていたそうだ。同じ地獄に取り残された仲間だというのに除け者にされ、差別していた仲間達は次第に滅ぼされていったという。
もう残っている魔女は私達だけではないのか。
「綺麗な色ね。」
町娘はキラキラした目で私の髪を見た。
「え?」
綺麗……?そんなこと言われたことがなかった。この髪と瞳は迫害の象徴、蔑まれてきたものだ。
「フローラさんの髪と瞳はとても美しいですよ。」
リアムのその言葉で顔が熱くなった。顔が熱くなる経験なんてなかったので今自分の体がどういう状況なのかいまいち飲み込めなかった。
(帰ったら母さんに治癒魔法をかけてもらおうかしら。)
そこで今まで忘れていた母の存在を思い出した。森の外にちょっと出てすぐ戻る予定だったのに。バレないように早く帰りたいのだが…。
「騎士様、それって口説いてることになりません?」
町娘がクスクスと笑う。
「思ったことをそのまま言っただけですよ。でも、半分口説いてるようなものですかね。」
二人とも笑っていたが町娘から黒く、汚い何かを纏ったような視線で見られたような気がした。
「くど……?」
さっきから二人の会話に出てくる『口説いている
』というワードがわからない。どういう意味なのだろう。笑っているという事は楽しいことに違いない。
「フローラさん!私、ベネティアよろしくね!」
「よ…よろしく。」
私に好意的に接する町娘…じゃなくてベネティア。ベネティアを見ていると人間も悪くはないと思えてしまった。
町の人たちはやって来た騎士であるリアムを歓迎している。そして、私も歓迎してくれた。人間という生き物は危険な面もあるが安全な面もある。
「騎士様、あちらが宿です。一番いい部屋を用意いたしましょう!」
集まっていた人達の中で宿の主人らしき人がリアムに宿を案内していたようですが私の役目はここまでか。
さて、本当に帰ろうとした時だった。
「フローラさんって見ない顔だけとこの辺りに住んでるの?」
ベネティアだけではなく、他の人たちも興味津々な様子だった。
「森に住んでます。」
「森!?不便なところに住んでるね。」
そんな不便なところに追いやったのは人間だというのに。母は魔女狩りから逃れながら、あの森にたどり着いたという。
たしかに森は人間には不便なのかもしれないが私は今まで生きて来て森の外に出れないこと以外は不便を感じた事はなかった。それは生活の全てが魔法という基盤の元成り立っているからだろう。
「不便ではないです。」
私は不便ではない。
「そうなんだ。」
そこでベネティアとの会話は途切れた。
「騎士様、どのくらいこの町に滞在する予定ですか?良ければ町を案内致します。」
ベネティアは会話する相手を私からリアムに変え、リアムの腕に自分の腕を滑り込ませた。
その様子を見ていた私は自分の事ではないのにもかかわらずボッと顔に火が灯ったように熱くなるのを感じた。しかし何処か不快感が混じっていた。
「私はこれで…。」
この不快感が大きくなる前に、早く帰ろう。そう思ったのだが。
「フローラさんにも案内するわ!」
ベネティアに強引に腕を掴まれ、町の中に引き摺り込まれていった。
******
「フローラったら。何処まで薬草を摘みにいってるのか。」
フローラの母、イヴは窓の外を見ながらそう呟いた。いつもなら戻って来てもいい時間帯なのだが。まぁ、迷っていたとしても探査魔法で帰って来られるだろう。イヴは読書に戻ることにした。




