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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
70/259

魔女の娘 I

フローラ・ダイヤモンドは不思議な人物であった。彼女はどこで生まれ、どこで育ったのか…全くの謎に包まれている。



******



森の奥の小さな家。人から見れば廃屋にも見える家だが、ちゃんと人は住んでいる。


『森の外には出てはいけない。』


昔から母は口酸っぱくそう言っていた。幼い頃、なんで森の外に出てはいけないのか聞いたことがある。


「ここは人間の世界だから私達魔女は本当は住んじゃいけないんだよ。」


童話にも残っているこの世界の歴史。5000年ほど前、人間達は自分達は使えない力を持つ魔物や魔女その他すべてを魔界へと封じた。『魔界送り』として歴史に残っている。


「私達の先祖は魔界送りから逃れた魔女なのさ。」


そう言って母は決まったように次の言葉を言う。


「魔界に行けた方がどんなに幸せか。私達は魔界送りを逃れた残党なんて言われているけど実際はこんな地獄のような世界に取り残された哀れな者だよ。」


普段は怒らない母がこの時だけは怒ったような声を出した。


「フローラ、あんたは森の外に出ないよね?母さんとの約束だよ。」


「出たりしないよ。」


人間は自分達と違うものを恐れる。違うものは異端とされ排斥された。

昔、私の姉が森の外に出て人里で魔法を使ってしまった。姉は魔女として人間に炙り殺された。森の外は恐ろしいもの…そんな事はわかっているのに森の外への好奇心は無くなる事はなかった。


ある日私は森の外に出てみることにした。森とその外の境界線には舗装された道があった。私はその舗装された道に足を踏みいれようとするがギリギリで引っ込めてしまう。まだ間に合う、森の外には出ない。森の外に出ようとすると母の言いつけが頭をよぎるのだ。


「大丈夫、大丈夫。」


一歩前に出るだけで簡単に森は抜けられる。大丈夫だと自分に言い聞かせるが、長年聞いてきた森から出ては行けないという言葉は暗示のように…又は呪いのように身体中にまとわりついていた。


「すみません。」


その時、声をかけられビクッと体全体が震えた。一歩どころではなく10歩くらい後ろに下がる。完全に森の中だ。足元だけ見ていて気づかなかったが森の外に道には白馬の手綱を握っている騎士のような格好をしている人がいる。


「あっ、はいっ!?」


10歩下がったので騎士の人とは結構距離があった。


「あー…ちょっと遠いので近くに来てくれませんか。」


「は…はい。」


まぁ…遠すぎるからそうなる事はわかっていた。おずおずと騎士に近づく。森を出ないように気をつけながら。


「あの、もうちょっとこっちに来てくれませんかね?」


そう言って騎士は道を指差す。それは森から出ろ、ということだった。


「わ…私だって出たいと思ってる。頑張れフローラ貴女ならできるから!」


そう言って自分を奮い立たせるが一歩が踏み出せずその場にへたり込んでしまう。


「大丈夫ですか?」


そう言って騎士が手を差し出す。その手をありがたく掴み、立ち上がろうとした時グイッと引っ張られ森の外へと足を踏み出した。


「怖がっていたようですが大丈夫ですよ。」


優しく笑う人間をフローラは初めて見た。というか…人間を初めて見たかもしれない。魔女である母や自分は人間の皮をかぶっているだけで本質は人間とは違う何かだ。


「ありがとうございます。」


「いえいえ。ところでこの先の町に何処か宿泊施設などはありますか?」


「あ…。」


森の外に人里がある事は知っていたがそこのにどんな施設があるのかなどは一切知らなかった。だって行ったことがないのだから。


「ごめんなさい、私森から出たことがなくて…えっと…あ…、知りません。」


申し訳なさそうに頭を下げる。


「それならいいんです。すいません。」


騎士は馬の手綱を引いて待ちの方へ行こうとした。しかしどうも申し訳なさでいっぱいになった。


「町まで案内します。そこまでなら私も知ってますから。」


といっても町までは一本道で案内など必要ないように思えるが、せめてそこまでは送ろうと思った。


「では…お願いするよ。」


歩き出した二人だが初対面であり、会話に困った。が、とりあえず自己紹介という無難なところに落ち着いた。


「私はフローラ・フローライトです。」


名前を名乗る…という行為が初めてだった。母親に名前を名乗るのも変なので機会がなかった。


「僕はリアム・ダイヤモンド。」


「やっぱり騎士様なんですか?」


騎士のような鎧は来ていなかったが騎士のような服装だった。


「一応…はね。今戦場から帝都までの帰還中なんだけど僕だけ仲間より先に帰還するように言われてね。」


「へぇ…。」


わからない単語がいっぱい飛び出したため己の無知をひけらかさないようにその返事しかできなかった。きっと印象悪いだろうな。

歩いていればすぐ町の入り口にたどり着いた。案内するのはここまでだ。


「着きました。少し大きな町ですし、宿くらいはあるでしょう。」


この先は森の外より怖い。魔女だと分かれば焼き殺すような生物が集団で生息している。私達魔女の天敵は人間だ。

それにしてもこの騎士様…じゃなくてリアムさんは人間とは思えないほど優しかった。私が魔女だと気付いていないからだろうか。騎士なんて普通の人間と比べて魔女だとわかった時にすぐ殺せるではないか。そういう意味では人間の中でも特に怖い。

気づかれないでよかった。この優しさは人間の皮を被っている状態でないと受けられないものだから。


「あの…フローラさ……。」


「あれ!?騎士様!」


リアムが何か言おうとした時、町の入り口から一人の娘が出てきた。

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