存在意義を
あれからまた一年たった。リヴィアとは仲がいいままだし、部隊の人達もいい人ばかりだ。
そして嫉妬による女性隊員からのいじめがなくなった。やはり副隊長という立場が強固になってきたから一応立場が上の者を虐めるなんて恐れ多くなったのだろうか。
隊長との仲は進展したと…思う。そう思いたい。あれから隊長は表情の変化を出すようになった。他の隊員達はあの微笑み以外は無表情だなんて言っている。実際隊長の表情の変化を見ているのは隊で私だけらしい。
ベロニカはジョージとともに軍の施設の近くにある、河原で寝そべっていた。といっても寝そべっているのはベロニカだけでジョージはすぐそばに座っていた。
最近は平和になりつつある。属国同士の紛争も少なくなってきたし、何より一番の敵であった東側とは休戦中だからだ。
「隊長、このまま行くと近い未来軍は自衛の目的以外には運用されなくなりますね。」
「そうだな。」
各部隊の隊長、副隊長が出席する会議でその事について議論しあっていた。西側を治めるサファイア帝国の上層部は東側と和平にするか、侵略を続けるかで迷っているらしい。
まったく…実際侵略するのは上の偉い人ではなく軍の兵士だろうが。ただ椅子に座って踏ん反り返っているだけなのにどこに迷う必要がある。
さっさと決めてくれないと怒りが積もるのは軍部なのだ。侵略するなら軍は国の手足となり働く、和平にするならそれなりに考える。ただ何も決めずに干されている時間こそが苦痛なのだ。
そして隊長への想いはただの情から愛情に近くなっている気がする。年々大きくなるそれを隊長に打ち明けることはないだろう。
打ち明けても受け入れられないし、受け入れられたとしても過去を偽ったままそばにいることはできない。偽ったまま居られるのはただの部下までだ。
「ベロニカ。」
「はい?」
ジョージに名前を呼ばれ、考え事をしていた自分が現実に戻される。
「実はだな…。」
その話の入り方からして大事な話のようだった。
「騎士団に入る事になった。軍の上層部に圧がかかっていて拒否することは無理そうだ。だから隊長の座を譲ろうと思う。」
「えっ。」
行かないで…そう言いたかったがそんな事無理に決まっていた。
******
「ジョージ、騎士団に引き抜かれたんでしょ。」
目の前に腰掛けるリヴィアがぷーっと頬を膨らませながら言った。
「私とは会えるけど部隊のみんなには会えないかもしれないよ!?」
テーブルをダンダンッと叩く。そのためテーブルの上に乗っていたカップがカタカタと揺れた。
「ベロニカともう二度と会えない(かも)よ!?」
「なんでベロニカが出てくる。」
ジョージはそう言って冷静にカップの中に入っているコーヒーを飲む。しかし実際は結構動揺していた。
「ジョージはベロニカに向き合った事ある?ベロニカはジョージに向き合ってくれたでしょ。少佐みたいに。」
リヴィアはカップの中にあるコーヒーに映ったジョージを見ていた。
「ベロニカなら私達の事拒絶しないよ。」
ベロニカは三人目の少佐の弟子。拒絶はしないだろう。それでも心の何処かでは怖がっているかもしれない。全てを好きになってくれなんて無理なお願いだ。
「ジョージはベロニカと居るととっても幸せそう。」
リヴィアが机に顎を乗せ、ジョージを見上げる状態にある。
「俺に何を求めているんだリヴィア。」
「ジョージとベロニカはいい感じなんだよ?なんでくっつかないのが不思議なくらいに。」
リヴィアはテーブルから起き上がると伸びをした。
「手紙とかなら伝えられるんじゃない。まぁ、一生片思いのまま初恋を引きずりたいなら書かなくてもいいけどさ。二人のために身を引いた人もいるんだよ。」
「誰だそれは。」
ジョージはそれが誰だかわからなかった。今まで散々迫ってきた女性を指しているのだろうか。
リヴィアはジョージの質問に具体的な名前を挙げることはなかった。目の前にいる…なんて死んでも言えない。リヴィアは妹分で満足していた。
「手紙か…。悪くない。」
そう言ってジョージは席を立った。早速書くつもりだろう、とリヴィアにはわかった。
******
ベロニカは自分の部屋に戻ると手紙が届いている事に気づいた。自分に手紙を送ってくる人物など思いつかず、誰だろうと思考を巡らせていた。
封を開けようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」
そう言ってベロニカはドアを開ける。そこに立っていたのはディーンだった。
「あれ?まだ仕事残ってたっけ。」
部屋に訪ねてくる人物なんてディーンが始めてだ。
「急に訪ねてすいません。本部から呼び出しがかかってますよ。ほら。」
そう言ってディーンは呼び出しの旨が書かれた紙を渡した。
「わ…私何かした!?まだ何もしてないのに。」
「えっ…まだ?」
その言い方からしてまだ何もしてないだけでこれからする…というように受け取れてしまう。
「とりあえず、早く行ったほうがいいですよ。」
「そうだね、ありがとうディーン。」
ベロニカは手紙を読むことは後回しにして本部に行くことにした。宿舎を出て、施設の出入り口にある馬車に乗る。
「本部までお願いします。」
軍人がよく利用するこの馬車の御者は本部と言っただけでそれがどこだかわかった。
「分かりました。」
それだけ言うと馬車は動き始めた。
(本部から呼び出し?隊長が騎士団に引き抜かれたことと関係が?)
こんな時期に呼び出される理由はそれしか思いつかない。隊長の座を譲られ、その座を譲り受けるには本部に行かなくてはならないのだろうか。副隊長になるときはそんなことはなかったからベロニカは少し疑問が拭えなかった。
外が薄暗くなって来て時間が心配になったベロニカは窓の外を見た。そこはよく知る本部近くの風景ではなく全く知らない場所だった。
「あの、本部に近づいてます?ここどこですか?」
御者に尋ねるが返事はない。
「ちょっと聞こえてます?」
少し声を張り上げて言うが返事はなかった。
「降ろしてください、場所を確かめますから!」
そう言うが御者はスピードを緩める気配はなかった。走行中の馬車から降りるのは危険だが、今はそんなことも言ってられない。
馬車の扉を蹴破り、外へと飛び出した。やはり綺麗に着地とはいかなかったが受け身をとったおかげで打撲だけで済んだ。ベロニカが馬車から飛び降りると少し離れた場所で馬車は止まった。
そのため御者に文句を言おうとベロニカが身を起こすと大勢の人に囲まれていることに気がついた。場所は何処かの誰もいない田舎。そこに野次馬がいるはず無い。
ベロニカを囲んでいるのは黒装束に身を包んだ者たちだった。その者達は剣を抜いてベロニカに向けていた。




