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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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エドワードの手記 Ⅲ

「まぁ…まぁ…立派になって…。」


そう言って涙ぐむアニーの前にはどこからどう見ても貴族令息のような装いのジョージと貴族令嬢のような装いのリヴィアがいた。

初めて二人がこの家に来てから一ヶ月。アニーや他の使用人達の教えもあって、テーブルマナーは人並みにまで成長したのだ。二人がフォークを使って食事している光景は涙なしでは見られないと使用人達は語る。


俺は軍の本部と行ったり来たりで忙しく殆ど使用人達に任せっきりだったので詳しくは知らないが、一ヶ月前までは手づかみで食べていた二人がフォークとナイフを使って食べる姿は感慨深いものがあった。


本部に行っていたのは少年兵部隊の壊滅により部隊そのものをなくし、新しい部隊を作るために他の隊員の要請。つまりジョージ達はこれから大人に混じって戦う事になる。


「なんか…照れるね。」


「そうだな。」


使用人達に見られまくって二人は恥ずかしそうに目を合わせた。二人はフォークを扱える事が少なからず嬉しいのだろう。


「少佐!てーぶるまなーは完璧です!」


そう言ってドヤ顔をしているリヴィアの前に一冊の本を出す。


「じゃあ、これも覚えてくれ。」


リヴィアとジョージは本を覗き込んだが、文字の羅列を見て顔をしかめた。


「読めん。」


「読まん。」


リヴィアとジョージが順に言葉を発した。この場合読む気が失せたではなく、まず文字が読めないという事だろう。


「頑張って文字を覚えてくれ。これから必要になるぞ。」


「戦うのに必要ありません。」


「そうです。要りません。」


二人は文字を習得する事を断固として拒否した。二人は今まで文字など読めなくとも戦ってこれたからだろう。


「生きるのには必要だ。」


文字が読めないと生きていけない。だからどうしても二人には文字を習得して欲しかった。たとえ戦場で尽きる命だとしても。


「戦場で生きますので必要ないです。」


リヴィアはそう言って首を横に振った。


「文字なんて覚えても使わないよ。それより訓練させてください。ここ一ヶ月で体が鈍ってしまいました。」


ジョージもそう言った。


「出征命令はいつ来るのでしょう。」


「それに備えて訓練したいです。」


そんな会話をしていると使用人達からすすり泣く声が聞こえてきた。戦うことしか知らない哀れな子供達に同情したのだ。当の本人達は同情されていることすら気づいていない。だってあれが普通だから、どこに同情されるところがあるのか分かっていない。


「今、東側とは休戦に向かいつつある。」


世界は大陸の西側を支配するサファイア帝国と東側を支配する帝国と中立国で成り立っている。長い間争ってきた二つの帝国。長い間戦争をやっていればやがて疲れる。そう遠くない未来、東側とは休戦になるだろう。

そうしたら軍は活躍の場といえば戦争ではなく自衛になる。その時、戦うことしか知らなかったらどうする。


「「え?」」


ジョージとリヴィアの声が虚しく響いた。戦うことでしか存在を見出せない、戦う事が存在意義の二人には戦争の終わりは自分自身の終わりだった。


二人の目から光が消えたのがよくわかる。


「いずれ戦争は無くなるんですか。」


リヴィアはひどく落胆している。ジョージも同じ感じだった。


「そしたら私達はどうなるんですか。」


それは捨てられる直前の怯えた子供のようだった。年相応の表情だが、そこにあるのは絶望だ。

戦争が終わったら少年兵達はどうなるのか。それはわからない。ただ、軍が社会で生きていけるように教育を施すとも思えない。


「わからない。」


こんな不確かな言葉は二人の不安を煽るだけだと言うことはわかっていた。しかし実際俺にはわからないし、でたらめを言うつもりは毛頭なかった。もうちょっとオブラートに包む言い方にすればよかったと言った後に気づいた。


「その時のために勉強が必要だろう?」


もし軍など必要なくなった時戦うことだけしか知らない二人の部下を見殺しにするなどしたくはない。


「分かりました、少佐がそこまで言うのなら。」


リヴィアは仕方ない、と言った感じに本をバッと開く。読めずに文字をただ目で追っているだけだし、本の向きが上下逆さまだ。

ジョージもリヴィアがするなら…という感じに一緒に本を覗き込んでいる。まぁ、上下逆さまなんだけど。



******



その他にもいろんなことが書いてあった。まるで親の子供の成長記録のように。

エドワード少佐は生涯独身だった。恋人も作らずただの部下二人のために。そして後継にはジョージを選んで養子に迎えてくれた。


パタッと手記に水滴が落ちた。涙がこぼれていく。ジョージもリヴィアも無意識に涙がこぼれていた。

手記に水滴が落ちた事によって二人は自分が泣いている事に気がついた。まだ人殺しの自分達にこんな感情が残っていたなんて。


リヴィアは最後のページまで手記を読み終わるとパタンと閉じて元の本の中に戻した。


「隠してたってことは見られたくなかったんだよ。」


その声は泣いているから震えていた。後から後から涙がこぼれていく。

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