エドワードの手記 II
「こ…殺した!?」
そう言ったすぐここが食堂だった事を思い出し口に手を当てた。周りを見渡すが特に聞かれた様子はなかった。
「正確に言えば仲間の誰かが殺しました。」
つまり殺した犯人はすでに死んでいるのか。
「とりあえず、お前らどちらかが犯人じゃなくてよかったよ。」
そう言うと二人はきょとんと首を傾げた。
「無能だったからやられた。それだけです。」
リヴィアはそう言いながら肉の塊を掴むとそのままかぶりついた。
同じ殺すという行為でも敵と味方じゃ全然違う。敵を殺すと褒められ、味方を殺すと処罰される。しかし少年兵部隊の基準は敵味方関係なく無能なら殺すと言った感じだ。前任者の嫌われっぷりがわかる。
この子達は軍も制御しきれない刃だと思った。今はその方向が敵に向かっているからいいものを…それがこちらに向いたらひとたまりもない。その刃がたった一晩で要塞を落とした。今目の前にいるのは間違いなくその刃の一部、これからは刃の一部ではなく本物の刃になるだろう。
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とりあえずこの二人は実家のスピネル家に連れて行くことにした。でかい戦争があったばかりだし、一応全て鎮圧はできているからまたすぐに戦場に駆り出されることはないだろう。
久々に帰った実家は暖かく迎えてくれた。
「まぁ、お坊っちゃま。おかえりなさいませ。」
俺の乳母でもあった侍従長アニーが出迎えてくれた。
「お坊っ……ブフッ。」
「ブブクッ…。」
後ろからは二人分の笑い声が聞こえてきた。たしかに俺の年で『お坊っちゃま』と表現されるのはおかしかったのだろう。
「まぁ、この子達は誰ですか?」
アニーがかがんでジョージの顔を覗き込んだ。ジョージはビクッと震え、一歩下がる。
「とりあえずこの子達を風呂に入れてやってくれ。」
血の匂いがこびりついている。長く戦場にいる者はそういう匂いに慣れて感覚が麻痺する。
「分かりました、お坊っちゃま。」
アニーに二人を任せると俺は自分の部屋に入った。しばらくして叫び声が聞こえて慌てて部屋を出た。廊下には二人のメイドがのたうちまわっていた。
「おい、アニーはどうした!?」
メイド達を束ねる、アニーがいない。アニーに使用人達のことは一任しているからこの状態を解決できるのはアニーくらいしか思いつかなかった。何せ俺は長い間家を空けていたのだから。
「お坊っちゃま!」
その時廊下の曲がり角から飛び出してきたのは髪がボサボサになったアニーだった。ついさっき会った時には綺麗に結い上げられていたはずの髪がすっかりぐちゃぐちゃになっていた。その両脇にはジョージとリヴィアが抱えられている。
「やっと捕まえました。この子達お風呂に入れようとしたら暴れるんですよ!」
つまり今床でのたうち回っているメイドは二人が暴れた時の被害者だったわけだ。
「やぁーー!」
「離せー!」
二人がバタバタ手足を動かすがアニーに封じられてしまっていた。
「ああ、この娘達は新しく雇った娘だったか。情けないね。」
アニーは床でのたうち回っているメイド達に冷たく言い放った。スピネル侯爵家は代々軍人の家系で使用人達も武道に精通している者が多い。アニーもそのうちの一人で戦場で活躍していたジョージとリヴィアをたった一人で封じていた。
新しく雇ったメイド達は特に武道に精通しているわけではないごく普通の使用人なのだからこうなるのは仕方ないのかもしれない。
「さぁ、お風呂ですよ。」
そう言ってアニーは暴れる二人を抱え浴室に消えていった。とりあえず今俺にできることはのたうち回っているメイド達のために医者を呼びに行くことだけか。
風呂に入れられ、ちゃんとした服を着せられ、ジョージに関しては長い髪も切られた。
「わぁ、綺麗になりましたね!」
アニーは嬉しそうにしているがジョージもリヴィアも慣れない服で脱ぎたそうだった。
「何か、軽食でも用意しましょうか?」
アニーが窓の外を見ながら言う。夜が更けて…というよりもう朝方だった。
軽食…だと言ったのにアニー達が用意した食事は随分豪勢なものだった。
「神に感謝し……。」
普段はしないが家にいるときはする食前の祈りを捧げようとした時、ジョージとリヴィアが食事が乗っている皿に顔を突っ込んだ。
「まぁ!」
アニーは驚いたが、すぐ冷静になり皿に突っ込んだ二つの頭を皿から引き離した。せっかく風呂に入ったのに顔はベトベトだった。
「アニー、悪いが礼儀作法を教えてやってくれないか。」
自分で教えるという手もあるがそんなに俺は礼儀作法がなっているわけではない。
「分かりました、お坊っちゃま。」
そう言ってアニーは二人にフォークとナイフを持たせる。そして使い方を実演してみせた。
しかし二人が最終的にたどり着いた結論は食事にフォークとナイフを突き立てただけだった。
「食べにくくない?」
「手の方が早いよ。」
フォークとナイフが刺さっているステーキを見ながら二人はそんな事を言った。
「こ…これは長く険しい道のりですね。」
アニーはステーキに刺さったフォークを抜きながらそう言った。




