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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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エドワードの手記 I

今年の冬俺は時期外れの昇進をした。なんでも前回のデカイ戦争で隊長職の殉職者多数だったらしく人材の確保に忙しいらしい。少佐になったのにもかかわらず俺が配属されたのは少年兵の部隊だった。ガキのお守りかよ、とがっかりしたのを今でも覚えている。

あいつらに会ったのは戦争中は軍事拠点だったが今はもう廃墟の城だった。雪が降ってるっていうのに暖炉に火はついてなくて二人で毛布にガタガタ震えながら入っていた。とりあえず火をおこして毛布にくるまっていたガキに話しかけた。中から出てきたのはダボダボの軍服を着た髪が長くボサボサのガキ二人だった。体も痩せて今にも死んでしまいそうだったがその目だけは確かに生きていた。


「名前は?」


「無い。」


今にも死にそうな声で答える。


「そうか。俺はエドワード、エドワード・スピネル少佐だ。」


この二人に名前はなく、戦場で拾われそのまま兵士になったらしい。この二人以外部隊は壊滅、前任者も殉職した。携帯食を食べさせた後、厚手の服を着させ南部の雪が降っていない地域に馬を走らせた。



******



南部の商店街に入ったのは夜だった。明かりが灯り賑やかだった。歩きながら俺は1人喋った。あいつらから返事が来ることはあまりなかったが。


「名前が無いって言うのは不便だよな。俺がつけてやる、気に入らなかったら別の名前を名乗ってくれても構わない。」


2人はコクコクと何度も何度も頷いた。


「お前がジョージ、お前がオリバーだ。俺の戦友の名前だから使うなら大事に使えよ。」


この戦友2人はもういない。だからそいつら2人をこいつらに重ねたかったのかもしれない。2人は名前と言うものを持っていなかったから何度も何度も俺が付けた名前を繰り返していた。しばらく2人は名前を繰り返した後ジョージがこんな事を言った。


「少佐…オリバーは男の名前ですか?」


「ん?そうだが。」


「少佐、オリバーは女です。」


こいつらまだガキだから男も女も区別がつかなかった。しかも2人ともボサボサの長い髪で性別がわからない。とりあえず、男かと思ってつけたが女だったようだ。


「オリバー、改名だ。オリヴィアと名乗れ。」


「私はオリバーで構いません。」


「そうもいかない。」


「オリヴィアは少佐の戦友の名前ではありません。それに長いです。オリバーの方がいいです。」


「女なのに男の名前は苦労する。それに長いなら愛称で呼んでもらえ。リヴィアとかな。」


「分かりました、オリヴィアで構いません。ですがリヴィアで呼んでください。」


オリバー…じゃなく、オリヴィアはオリヴィアという名前を気に入ったようだ。リヴィアと呼ばなきゃならないが。俺もこいつらもまだ携帯食しか食っていなかった事を思い出すと急に腹が減ってきた。その時、ぐ〜っと腹が鳴る音が俺の後ろから聞こえた。


「なんだ、腹減ってるのか早く言えよ。」


こいつらが腹減っているという程で俺が自然に飯が食えるありがとう、ジョージ、リヴィア。2人のボサボサの頭をわしゃわしゃと撫でる。2人は不思議そうに撫でられた頭を触った。


「さっきのは何ですか?」


ジョージが尋ねる。頭撫で撫で…どう説明したらいいものか。


「頭を撫でた。お前ら今まで頑張って来ただろう。その労いを込めて。」


2人とも意味がわからなかったのかまだ不思議そうにしている。しかし悪い気はしなかったようだ。照れ臭そうに2人とも顔を赤くしている。まだこの感情がどういうものか知らないのだろうがこれから知っていけばいい。


「私も少佐の頭を撫でます。」


リヴィアは腕を伸ばすが小さな女の子に大男の頭に手が届くはずがない。それでも懸命に手を伸ばそうとする。少し笑いが込み上げてきた。小動物を見ると和むというか…そういう時の感情に近かった。


「ホレ。」


俺はしゃがむとリヴィアの手を頭に乗せた。わしゃわしゃと髪をぐちゃぐちゃにされる。そこにもう一つの手が加わって揉みくちゃにされた。ジョージも撫でたかったんだな。


人混みの中を2人はちゃんと俺についてきた。リヴィアが逸れそうになるとジョージが手を差し出してリヴィアの手を握って引っ張った。


その後入った食堂で遅めの夕食を食べた。2人はフォークやスプーンを使わず手づかみで食べ出す。


「ちょっと待て。これを使うんだよ。」


と二人にフォークを渡すが二人は使い方が分からず、ただフォークを握っているだけだった。その間にも腹は空き、空いた片手で手掴みで食べている。

フォークなどの使い方はまた後々教えることにした。


「こんなにお腹いっぱいに食べたのは初めてです。」


リヴィアが口周りをベトベトにしながら言う。これくらいは食堂で頼めば普通の量だが幼い女の子にしたら多い量かもしれない。


「前任者はあまり食わせてくれなかったのか?」


それでも気になって前任者の事を聞く。すると今まで綺麗とは言い難い食べ方だが黙々と食べていたジョージが答えた。


「前任者は本当に俺達のことは気に留めていませんでした。ただの捨て駒、時々殴るだけ。」


だから殺した。とジョージは静かに言った。


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