オリヴィアとベロニカ
「ジョージ!ジョージ!」
「なんだ。」
オリヴィアはジョージに抱きついているがジョージは満更でもない様子で、その場にいた隊員全員がプチパニックに襲われていた。誰もこの状況を説明できる人物がいない。
ベロニカはオリヴィアに睨まれたからかあまり気分は良くなかった。オリヴィアはジョージと親しそうだ。せっかく仲良くなれそうだったのにその道が閉ざされてしまったかのような複雑な心境だった。
(なんか…気分悪い。)
ベロニカの知らないジョージを見るのが何故だか辛かった。…が、ジョージはほぼ無表情を貫いている。さっき見せた微笑みはもう一度見れそうにはなかった。
親睦会も終わり、隊員達は宿舎に帰ろうとぼちぼち解散となった。
ベロニカも宿舎に戻ろうとした時、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「はい?」
「ねぇ、少しいいかしら。」
その人物はオリヴィアだった。近距離で見る美女に、別部隊とはいえ同じ副隊長という地位なのにこんなにも違うのか、と少し自分に自信をなくしていた。
オリヴィアは宿舎の裏に連れてきた後に話し始めた。
「貴方ずっとジョージのこと見てたよね。」
今回の親睦会はジョージと仲良くなるために開いたものだし、オリヴィアの乱入もあって視線が向くのは当然な気がした。
「はい。」
「もしかして…好……。」
「違います。」
オリヴィアの言葉を途中で遮って誤解は解いておく。
何を言おうとしたかは最後まで聞かなくてもわかる。
好きなの?
こういうのは否定しておいたほうが楽だ。
「え…私まだ最後まで。」
「それは貴方の勘違いです。それでは。」
副隊長…という隊長に近い位置。私が女性なばっかりに他の女性隊員から嫉妬されることも多々あった。
隊長のことが好きなの?
あんたじゃ不釣り合いだ。
生意気
ちょっと若いからって調子に乗って
そんな醜い嫉妬…見飽きているし、聞き飽きてもいる。だからもう巻き込まないで。そんな一心で即否定した。こんなにもすぐに否定してしまうのは胸が痛かった。数年間という…親しいオリヴィアから見れば一瞬くらいの年月かもしれない。けれどそれだけ一緒にいたから情は湧くのだ。
無愛想だし、無表情だし、何を考えているか分からない。剣術も圧倒的な才能があり何処か取っつきにくいし、まさに死神の二つ名がぴったりだ。それでも…時々多弁になるし今日は笑ってくれた。
「違うの!」
オリヴィアは慌ててベロニカの腕を掴み引き止めた。
「何です?貴方も嫉妬しているだけでしょう!?」
そう言われてオリヴィアは、ハッとなり腕を離す。
「ごめんなさい。言い方が悪かったわ。確かにこれは嫉妬よ。でも違うの。」
「何が違うというの。」
ほら、やっぱり。嫉妬だって認めてるから何が違うというのか。
「私、ジョージの妹なの。だから貴方が思っている恋愛の嫉妬ではないの。」
「え?」
ベロニカは『妹』という情報が処理し切れず、しばらくの間茫然としていたがやっとの事で処理が完了し今目の前にいるオリヴィアがジョージの妹だということ、そしてジョージに妹がいた事を理解した。
「正確に言えば妹分ね。」
オリヴィアはベロニカが思っていたような、ただの嫉妬に駆られた愚か者ではなかった。
妹が兄を心配し、その人間関係に嫉妬するなんてよくある話だ。ベロニカには分からないが。屋敷という狭く限られた環境こそが世界の全てだったベロニカにとって兄の交友関係や何をしているのかなど何も知らなかった。
「ジョージって女性によく狙われるのよ。それで貴方も睨んでしまって…ごめんなさい。よくよく見れば貴方の目線は獲物を狙う目じゃないことはわかったのに。」
以前はオリヴィアが兄妹などと事情を知らない女性達から嫉妬を向けられていたのだろう。
「そ…そうなの。私も刺々しい言い方になってしまってごめんなさい。」
ベロニカも謝り誤解は解けた。
「それで…ジョージの事好きなの?」
ベロニカの思考は停止した。そして徐々にその質問の適切な答えを探そうと必死に考える。
(確かに…仲良くなりたいとは思ったし、知りたいとも思った。それって好きって事?)
「まだ…よく知らないしわかりません。でも、知りたいとは思います。これって…好きなのでしょうか。」
オリヴィアはしばらくじーっとベロニカを見ていたが途端に笑顔になった。
「私もまだ家族愛しか知らないけど、それは好きって事だと思う。私もジョージが誰かに好かれていてよかったー。」
死神と呼ばれ、好かれていた…というより恐れ嫌われていた…のだと思う。
「あの…今のスピネル部隊は、隊長の事を好きになろうと皆努力しています。」
確かに隊長を恐れている人が多い。好いている人なんてわずかしかいないだろう。でも、部隊の皆は好こうと努力している。今日の親睦会だってそうだ。
「今日私が来たのはね、ジョージを嫌っている人への牽制のためだったの。生まれも育ちも戦場で、読み書きすらできないけど人を殺すことはできた私達に世間どころか軍部からも風当たりが強かったの。」
そう話しながらベロニカとオリヴィアは宿舎の中に入った。オリヴィアが自分の部屋で話そう、と言ったのだ。
「ジョージはね、自分が悪く言われても全然怒らないの。今日ジョージが誰かに悪口言われてたらぶん殴ろうかと思ってた。」
美女だがやはり軍人というべきか…物騒な考え方だ。軍人にとっては飛んだ風評被害だが。
「兄妹…ってそういうものなの?」
ベロニカにはまだオリヴィアがわからなかった。どうしてそういう結論になるのかも。
「大事な人…だからそうなると思うよ。家族が悪く言われていていい気はしないからね。」
外の世界を何も知らなかったベロニカは外で兄がどのように思われていたかなんて考えたこともなかった。次第に来なくなった兄はきっと妹が嫌いになったんだと思う。だから兄にとってベロニカは大事な人ではなくなったのだ。
「私にも、年の離れた兄がいた。」
同じ副隊長仲間だからか、同じ妹仲間だからか。ベロニカはオリヴィアに自分の過去を話し始めていた。オリヴィアが自分の過去を語ったように。




