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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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ジョージとベロニカ

「あの、隊長甘い物とかお好きですか!?」


この前買ってきたお菓子を差し出す。今は『隊長と仲良くなろう大作戦』の親睦会。しかし隊長と仲良くなりたいと思っていてもほとんどの隊員達は勇気が出ず遠目に眺めるだけだった。


甘いお菓子だけでなくしょっぱい系や辛い系のお菓子も用意してあるので万が一甘いのが嫌いでも他のお菓子がある。準備は万端。


「ああ、ありがとう。」


そう言ってジョージはお菓子の入った袋を受け取った。


「甘い物、お好きなんですね!」


受け取ってくれたということは、甘い物が好きなのか!?


「嫌いではない。」


おお!嫌いではない発言!これは…隊長は甘党説濃厚。ベロニカは少し離れた位置から事の顛末を見守っているアルス達に手で大きな丸を作り成功を伝える。ベロニカも隊員達も心の中でガッツポーズを決めた。


「普通…。」


嫌いではないの後に続いた普通という発言。その言葉でガッツポーズは辞めなくてはならなくなった。好きでもないが嫌いでもない……普通。その反応が一番困るやつ。


「普通…ですか…。あの、しょっぱい系とか辛い系も……ありますよ。」


思いっきりテンションが下がってしまったことを悟られないように他のお菓子も勧めてみるが周りから見ればベロニカが落ち込んでいるのは丸分かりだった。


「あいつ、わかりやすいな。」


「隊長とは真逆の人ですよね。」


ベロニカの様子を離れて見ていたアルスとディーンはそんなことを言い合っていた。


「ベロニカ。」


「はいっ!?」


急にジョージに名前を呼ばれベロニカは緊張しながら返事をした。


「ありがとう。」


その顔はぎこちなくも微笑んでいるように見えた。ベロニカだけでなく、隊員全員にとってそれは異様な光景だった。


「たたたた…隊長が笑った…。」


明日は雨か……いや、嵐だ。いつも表情が微動だにしない隊長が笑っている?

他の隊員達もベロニカと反応は概ね同じだった。信じられないものを見るかのように。ある者は明日の天気ではなくこの世の破滅を恐れたりもした。

皆の反応を見て、自分がおかしいと気づいたジョージはハッとして手で口元を隠した。


「あ、隠さないでください。もうちょっとだけ見せて!」


口元を隠した手を無理矢理剥がそうとするがベロニカだけの力では到底剥がせなかった。


「隊長、もう一回だけ!」


「隊長お願いします!」


珍しい状況に調子に乗った隊員達がジョージに近づきベロニカと共に手を剥がそうとする。


「見せ物ではない。」


ジョージがそういうも虚しく、隊員達は面白いもの見たさで全然聞かなかった。やっと剥がせたと思った時にはいつもの無表情に戻っていた。


「ああ〜!」


「戻ってる〜。」


その落胆の仕方はどこか芝居がかっているようだった。

その様子を見ていたアルスとディーンは笑いをこらえていた。補佐官という地位の威厳を守るため…というのは建前で二人ともこういうので笑うキャラではないからだ。


「まったく…おかしな奴らだよ。」


そう言って冷静を装うアルスだが、口の端がつり上がっているのは隠せていない。


「隊長…怒ってませんよね?」


無表情だが、怒りを感じるジョージの態度に不安を覚えるディーンは早く隊員達を止めたそうにしていた。


アルスは並ぶベロニカとジョージを見て、長い間疑問…というか違和感に感じていたものが解けた気がした。


「あ。」


「アルスさん?」


隣にいたディーンがアルスの方を向く。


「あの二人って…剣技が似てるんだよな。」


中々二人が近くに居る…なんて場面を見てこなかったことからアルスの中で悶々としていたことがこの瞬間スッと解けた。


「たしかに…二人とも独特な剣技ですよね。」


ディーンは二人の剣技は見たことがあったがそれを並べて比べて見たことがなかったので気づかなかった。言われてみれば細かいところが似ているかもしれない。

しかし二人は性別なども違うことから全体の筋肉量も違う。トータルで見てみるとジョージの方が大振りでベロニカは小回りが利くといった感じだった。

同じような剣技でも扱う人が違えばまったく別物のように目に写っていた。


「でも隊長は幼い頃から戦場に居たって聞いてますし、副隊長は剣術学院の出身だと聞いています。現場のたたき上げと学院の剣技が似てるなんてあるんでしょうか。」


やはり現場に居ると習ったことなんてあまり意味がないと気づかされる。ディーンも剣術学院の出身だが、戦場で役に立つのは学院で習った戦場のシナリオではなくどんな場面にも対応できる柔軟性だった。


「ベロニカは学院に入学する前にある人物から教えを受けていたらしい。」


そのある人物…の名前さえわからない。もしかしたらそれが何かあの二人の剣技が似ていることにつながるかもしれない。


その時、部屋のドアがバァンと開いた。この部屋軍の施設の中にありスピネル部隊が利用しており隊の全員が居る中でこの部屋を開ける人物など思いつかなかった。全員がドアを開けた人物に注目する。


「ジョージ!!」


開けた人物はジョージの名前を呼び近づいてきた。隊員全員がこんなに馴れ馴れしくジョージの名前を呼ぶ人物など誰だ!?と目を見開く。

それは赤紫の髪と瞳を持つ美女、オリヴィア。ジョージと同じく幼い頃から戦場に居り相当な実力者で恐れられても居るが類稀なる美貌の持ち主でジョージのように死神などと物騒な二つ名を付けられることはなく、『天使』と呼ばれる別部隊の副隊長だった。


「ああ、リヴィアか。」


目の前に美女がいるというのにジョージの反応は薄く、無表情といってよかった。

ジョージの近くに居た唯一の女性であるベロニカをオリヴィアは一瞬睨み付けた。睨まれたのはベロニカしか気づかなかった。


(な…な…なんで今睨まれたの?)


初対面のオリヴィアに睨まれる覚えがないベロニカだが、顔がキツめの美女の睨みはベロニカには大ダメージだった。というか足が小刻みに震えている。

今まで幾度となく戦争に参加し、言い方は悪いが戦争にも慣れてきてどんな強敵とも戦ってきたベロニカを震え上がらせることが出来たのはオリヴィアが初めてだった。

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