ダイヤモンド公爵家のお茶会
「エルリカ様、綺麗です。」
マリエットが私を見ながらパチパチと拍手を送る。お茶会に行くためのドレスとアクセサリーの購入はあっさりと許可が降りた。派手なものではなく、飾りが少ない上品なドレスとアクセサリーだった。
私は鏡を前にくるくると回り、おかしくないか全身をチェックする。昔の私ならこんなドレスは地味だと怒っていただろう。しかし今は昔のゴテゴテに飾り付けられたドレスよりも動きやすいこのドレスの方がいいと思うのだ。
「馬車の準備ができました。」
使用人が部屋に伝えに来る。
「わかりました、今行きます。」
そう言ってドレスのスカート部分を掴みふわっと持ち上げた。
「楽しんできてくださいね。」
馬車に向かう途中マリエットがそう言う。
「はい。」
ええ、楽しんできますよ。お茶会という名の戦争をね。
******
「本日はお招きいただきありがとうございます、ダイヤモンド公爵令嬢。」
「是非楽しんでいってくださいね、スピネル侯爵令嬢。」
お茶会の会場であるダイヤモンド公爵邸は可愛らしく飾り付けがしてあった。立食形式のお茶会らしい。客人が主催者に挨拶することは普通な筈なのに視線が集まる。
そりゃそうだろう敵対していた派閥の元トップの娘がこうしてかつての敵のお茶会に来ているのだから。私の一挙一動に注目するだろう。その証拠に、私…いや、私達を見ている令嬢たちがざわざわと噂し始めている。
(さっさとアリスから離れた方がいいわね。)
私は過去が特殊なばかりに目立つ。そしてただでさえ目立つアリスの近くにいればさらに目立つ。
中立派のガブリエルもこのお茶会に来ているそうだからこっそり落ち合いたい。
「では、これで失礼いたしますわ…。」
そう言ってその場を離れようとした時、アリスにガッチリと腕を掴まれた。
「お待ちになって。」
アリスはぐっと腕を掴み私を引き寄せた。
「まだおしゃべりしましょ?あちらのお菓子なんていかが?」
そしてぐいぐいと引っ張って歩く。そのおかげで余計に目立つことになった。
「まぁ、ご覧になって。」
「ダイヤモンド公爵令嬢…お美しい。」
「隣にいるのは…スピネル侯爵令嬢?」
「仲がよろしいのかしら。」
「元は敵対していたはずよ。」
「スピネル侯爵令嬢……ってトパーズ元公爵令嬢?」
「百合…尊い。」
「え?なんておっしゃいましたの?」
周りがざわめき出す。というか、全部聞こえている。アリスと私、どちらも目立つ二人が一緒に行動すればそれは中々神聖な雰囲気を纏っていた。話しかけることはおろか近づくことすら痴がましい。
「あ…あの公爵令嬢、離してください。」
「久しぶりですわねー、エルリカさん。今日はゆっくりお話ししましょう!」
アリスはわざと周りにも聞こえるように大きな声で言った。エルリカと名前呼びしたことで親しさをアピールし、久しぶりと言うことで前からこんな感じだったと周りに印象付けている。そしてゆっくりお話ししましょうと言うことは周りに邪魔するなと警告しているのだ。
アリスの言葉で私の言葉は掻き消されてしまった。アリスは私を引っ張ると休憩室のような個室に連れ込んだ。そしてその部屋に入るとパッと手を離した。
「貴女に聞きたいことがあるの。」
「奇遇ね、私も貴女に聞きたいことがあるのよ。」
私は休憩室のソファに座る。
「私から聞かせてもらうわ。」
そう言ってアリスも向かいのソファに座った。
「復讐相手を殺したいの?」
お父様を殺した相手…殺すだけでは生ぬるい。
「それ以上のものを与えようと思います。」
死よりも苦しく、辛いもの。
「ハァ…。エルリカ、私は優しいから教えてあげる。貴女が殺そうとしているのは帝国よ。貴女のお父様は帝国に殺されたの。国と戦う覚悟はあるのかしら。」
「それは私の目で確かめてから決めます。」
そう言ってじっとアリスを見つめるとアリスは諦めたようにため息をついた。
「せっかく死なないように注意してあげたのに。」
「優しいのね。」
「聖女様ですから♪」
そう言ってアリスはパチンとウインクする。
「私からの質問をいいかしら。」
今度は私からの質問だ。
「何?」
「何故貴女は聖女を演じているの。」
しばらくの間沈黙が訪れた。しかし、聞かれたからには話さなくてはならないので沈黙を破るのはアリスかと思われた。
部屋のドアがノックされる、ノックの後すぐに扉が開き、ルイスが顔をのぞかせた。
「アリィ、こんな所にいたのか。お茶会の主役が居なくなって心配した。」
アリスにとってはナイスタイミング、私にとってはなんてタイミング。これでアリスは質問に答えずにこの場から離脱できる。質問の答えはお預けかと思われた。
「ルー、まだお話の途中なの。また後で行くわ。」
「そうか、なら後で。」
そう言ってルイスはドアを閉めて立ち去った。てっきりアリスはルイスの誘いに乗って質問には答えないのかと思ったのに。
「行かないのね。逃げるかと思ったのに。」
思ったことをそのまま言う。さっきこそはぐらかすチャンスだったのに。
「私だけ聞きっぱなしも公平じゃないでしょ。ちゃんと答えるわ。」
休憩室の周りに人がいなくなったことを確認するとアリスは話し始めた。
「さて…どこから話そうかな。」




