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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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ベロニカは語る

「剣術学院に入学する前に恩師から教えてを受けていました。」


そう言ってベロニカは練習用の剣で目の前の人に見立てた丸太に斬りかかった。剣術学院とはその名の通り剣術を学ぶ学院。ここで剣術を学び、騎士団や軍部に入る。


「引退した軍人だったそうです。」


アルスはベロニカの剣技を見ながらどこか既視感があると感じていた。ベロニカは自分の剣技が基本的な型だと思っているようだがその実は結構癖の強い剣技だ。

取得するのは相当難しいだろうし、向き不向きが分かれる。基本的な型を教える剣術学院に入学する前にあの剣技をならっていたのなら素人では到底取得出来ないだろう。目の前にいるのは稀代の天才か?

中々目にすることがない珍しい剣技、剣術学院を首席で卒業し負け無しだったのも頷ける。


引退した軍人、その剣技を見る機会はあったかもしれないがこの既視感はなんだ?一度見ただけで感じるものではない。


「ベロニカ、その軍人の名前は……。」



******



あれから数年が過ぎたが、出世街道を外れたというのは杞憂だったのではないかと思うくらいにかなり早いスピードで出世した。

隊長との関係は微妙なままだが、出世したからかスピネル部隊『死神の右腕』なんて言われるようになってしまった。関係は微妙なままなのに、関係は微妙なままなのに!(大事なことなので二回言いました。)

まぁ、出世して部隊の副隊長になってしまったからそう言われても仕方ないんだけど、身の丈に合わない身分になったからこそ剣術学院の首席とは比にならないほど妬みの標的にされた。

特に女性隊員からの嫉妬が凄い。数少ない女性隊員とは仲良くしたいのに……。嫉妬というのは副隊長という座は隊長と関わることが増える。隊長は死神だとか言われて恐れられてはいるものの美形なのだ。そんな隊長を狙う女性は多い。今までの副隊長は男性だった為嫉妬ということは起こらなかったが私は小娘。嫉妬する条件は揃っていたのだろう。


「アルスさぁん…!」


「非番の時に呼び出すなよ、全く。」


隊長補佐官のアルスは非番の時に軍の施設に呼び出されていた。補佐官はその名の通り補佐する役目の隊員だ。隊長を補佐するのは副隊長だと思うかもしれないがわかりやすく言うと副隊長は隊長が指揮する隊を全体的に補佐するのに対して補佐官は隊長個人を補佐する秘書みたいな者だ。

副隊長は隊長がいない時に隊長権限を与えられたり、隊指揮して別行動が可能だが補佐官は隊長権限等は与えられない。


「隊長と関係が微妙なままです。私も副隊長ですし、良好な関係を築きたいです。」


ジョージのことを近くで見ている補佐官のアルスなら。しかも、昔の直属の上司だった事もあり相談するには最適の相手だ。


「そんな事言われてもなぁ、隊長は全然感情を表に出さないから何考えているかわからないし。」


アルスでさえもジョージがどんな人間なのかわからなかった。わかっているのは名前と戦場で拾われて死神と呼ばれるほど人を殺している事。


「やっぱりそうですよね。」


ジョージの為人を知る者はいない。ベロニカは別に彼の過去を根掘り葉掘りしようとしているわけではない。何が好きで何が嫌いなのか、そういった初歩的なことが知りたいのだ。一体何を考えているのか。


「お菓子でも差し入れしてみましょうか。」


「嫌いだったらどうする。」


お菓子…死神隊長がお菓子を頬張っている姿が想像できない。そんなイメージしか…いや、もしかしたら好きかも。


「差し入れなきゃ、嫌いかどうかもわかりませんよ!」


「ま…まぁ、そうだよな。」


アルスはベロニカの勢いに押され頷いた。


「あれ?アルスさん、非番なのに出勤お疲れ様です。」


そこに副隊長補佐であるディーンが通りかかった。手には書類を持っている。それを見てベロニカは自分は非番のアルスとは違い、仕事中だったことを思い出す。ベロニカは剣術に心身ともに捧げていて、剣術バカというか脳筋というか…書類を作成するなどが苦手だった。


「探しましたよ。いったいどこに行っているのかと思いました。」


「そ…そんなことよりお菓子!隊長に、お菓子!!」


ディーンの肩を掴み上下に揺らす。仕事の話をされる前に『隊長と仲良くなろう大作戦』に無理矢理加入させる。


「は?お菓子?」


「そう、お菓子。隊長と仲良くなるために!」


ベロニカに揺らされディーンは手に持っていた書類を床に落としてしまうがそんな事どうでもよくなるくらいに激しく揺らされ、吐きそうになっていた。


「あ…あの、わかりましたから……止めて。お願いします。」


「あっ、ごめんなさい。」


パッとベロニカが手を離しディーンに安息がやって来た。


「お菓子……ですね、わかりましたよ。協力します。」


「ありがとう、ディーン!」


「いや…上官命令使われていたら逆らえなかったですけどね。」


「そんな個人的な用で使いません。」



******



軍の施設に一応調理場はあるのだが、使う人は滅多におらず皆外で食事を済ませてしまう。

そのため調理場はほとんど使用跡がなく、綺麗だった。


「さて…何を作りましょう。」


「クッキーなんてどうです?簡単ですし。」


ディーンがおかし作りの本のクッキーのページを開く。クッキーはザ・お菓子づくりという感じがする。


「そうね、クッキーにしましょう。」


炭ができた。


いや、本当に炭ができた。ベロニカは炭のように黒焦げになったクッキーらしきものを口に運ぶ。アルスとディーンはよく食べられるな…と少し引いていた。


「砂の味がする。」


ボリボリ、ジャリジャリとクッキーの咀嚼音にしてはおかしい音を響かせながらベロニカはそう言った。

ベロニカは砂など食べたことはなかったが食感としては最適な表現だっただろう。それと同時にこんなもの隊長に渡せるわけないと結論づけていた。


「あの…最初から手作りはハードルが高いのでは?」


ディーンが黒焦げのクッキーらしきものを見ながら言う。


「もしかしたら隊長、人が作ったものが食べれない潔癖症かもしれないしな。」


アルスも黒焦げのクッキーらしきものを見ながら言った。


「もう…買いましょう。お菓子で有名なお店近くでありましたっけ?」


軍の施設の周りには軍人ウケを狙った肉などの毎回の食事ができるような店しかない。お菓子などが売っている可愛らしい店などなかった。


「ちょっと遠くまで買いに行かないとですね。」


その後、お菓子が売っている少し大きな街まで副隊長と副隊長補佐官が抜けた事により(非番だった隊長補佐官は抜けても支障はない。)仕事が滞り、隊員達が少しパニックに陥った。帰ってきた後に『隊長と仲良くなろう大作戦』は隊長以外の隊員全員が知ることとなり、親睦会が企画される事になった。

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