表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
56/259

ベロニカという女

「ごめんなさい、ごめんなさい。」


ベロニカは死体に向かって謝っていた。ジョージは殺した敵の死体に許しを乞う人間を初めて見た。勝利の祝杯だと皆が酔いつぶれたのを機に庭を散策していると死体の山の場所に行き着いた。流石に好き好んで自体のそばにいるやつはいないだろう、やっと一人になれる……いや、死体が何人もいるから一人では無いか…などと思っていたら生きた先客がいだのだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい……。」


「何している?」


普通なら見なかったことにして通り過ぎたはずなのだが、何せ初めての状況なのだ。死体に謝っている人がいるなど。

ベロニカはバッと振り返った。そして暗闇の中にいる人物がジョージだと気づいたようだった。


「シニッ……あ、隊長!」


ベロニカは慌てて敬礼する。ジョージはベロニカが言いかけた『シニあ』の続きが気になったがまず、何で死体に謝っているのかの答えを聞くことにした。


「何をしている…と聞いている。」


それを言った時ベロニカが一瞬ビクッとしたのがわかった。無意識に言葉に棘があるのだろうか、それともこの表情筋が死んだ顔のせいだろうか。恐怖とかそういった感情を与えるつもりはジョージには無いと言うのに。


「殺してしまった事を謝っていました。」


「は?」


ジョージにとってそれは衝撃だった。何故謝る必要があるのか。


「何故?」


ジョージにとって敵は死んで当たり前。殺しても責められることはない、むしろ褒められた。


「敵であっても同じ人間です。彼らは己の正義に従っただけなんだろうと思ったからです。」


「いや、もし彼らの正義を尊重していたら俺達が死んでないか?」


分からない、どうやったらそんな考えに行き着くのか。ジョージには分からなかったがそれが新鮮でもあった。


「もちろん、彼らの正義を尊重していたら私達が死んでいました。今頃彼らは帝国に向かって進軍していたでしょう。でも、どちらも悪くないですよね?悪に従ったわけではないのですから。」


そこでベロニカは涙を流した。


「そんなに殺したくないなら何故軍に入った?」


ベロニカは俯いた。ベロニカは矛盾している。殺したくなかったから謝っているのだろう?なら殺しをする軍に入らなければよかったじゃないか。


「隊長、多弁なんですね。」


口が勝手に動いていた。多弁だと指摘されジョージは口を押さえる。だが、ベロニカに話をそらされてしまったような気がした。


「私の居場所がここしか無かったので。」


訳ありという事を察して欲しいと目で訴えてきたものだからジョージはそれ以上は聞かなかった。


「私は隊長みたいに人を殺すことに慣れていません。だから罪悪感に押し潰されそうですし、それを紛らわせるために死体に向かって謝ります。失礼します。」


そう最後にベロニカは早口で言うと一礼してその場を去った。何故かそれは怒っているようにも聞こえた。あまりにも無神経に質問しすぎたのだろうか。


(よくよく考えたら、初めて挨拶された時俺は無愛想だったじゃないか。)


そりゃあ、怖がられる。急に馴れ馴れしく多弁になったのだから。



******



これが私の選んだ道なのだから、今更後悔しても遅いというのに。


「ハァ……私の出世は出来そうにないなぁ。」


もう、完全に隊長に嫌われた。ベロニカは部屋に戻り一人落ち込んでいた。最初の挨拶の時から印象は良く無かっただろうけど。


せっかく新しい人生を歩みだしたというのにいきなり挫折してしまった。


私の本当の名前はマーガレット・トパーズという。公爵家の令嬢だった私には年の離れた兄がいた。

トパーズ家は悪人一族と言われるほど悪名高いがその高貴な血筋のおかげで公爵の中でも絶対的な権力を持っていた。

父のアンドリュー・トパーズは歴代の当主の中でも一番の野心家で公爵という爵位で満足するような男では無かった。自身の息子、ジェームズを皇帝にしようと目論んでいた。

皇帝にしようと目論んではいるものの公爵家の後継者としての教育も欠かさなかった。表向きは公爵家の嫡男だからだ。その地位が脅かされないよう息子が一人出来ればそれ以上子供は作らなかった。

ジェームズが10歳になった時、妹が生まれた。公爵は何故子供が生まれたのか奥方を問い詰めた。奥方が言うには公爵が酒に酔って作った子だと。公爵は酒癖が悪く飲んだ時の記憶がないことなどよくあった。そのため生まれた子供は仕方なしに別邸に置かれた。


物心ついた頃から兄はよく幼い妹の為に父に隠れ別邸に遊びに来てくれていた。その頃には母は実家に帰っていた。母が居なければ私を家に置いておく意味などないのだが、兄が懇願してくれたのと紛れもなく私が公爵家の血を引いていたからだろう。他所に手放して利用されるのも父には癪だったのだろう。

当たり前かもしれないが父は私のことをよく思っていなかった。使用人達からも腫れ物扱いで母も居らず、兄だけが救いだった。年が離れているから兄に父を求めてしまったのだと思う。

私は兄のことが大好きだった。でも兄はどうだったのだろうか。次第に兄は別邸に来ることはなくなった。


私が10歳になった時とうとう父は私を殺すことにした。ただでさえ10年間も飼っていたのだ。そろそろ処分されるだろうなと思っていた。

父が頼んだ暗殺者が別邸にやって来て私を殺そうとした。結果的には未遂で終わったのだけれど。暗殺者は私を殺すのを躊躇ったらしく、私に二つの道を提示してくれた。このまま殺されるか、名前を変え素性を隠し生き延びるか。

私は即決で後者を選んだ。そこまでして私は生にしがみついていた。私の答えを聞くと暗殺者は私を逃がしてくれた。しかしその後の援助は全くない。あくまでただ見逃すだけだったのだ。今まで公爵邸で蔑まれてはいたがぬくぬくと育っていた私は寝巻き一つで外に放り出された。


痛く、寒い。たとえ10歳で死ぬ定めだったとしてもとても恵まれた環境だったと嘆いた。

箱入り娘というよりは軟禁娘だったがろくに外も出たことがなく、道に迷うのは必然だった。豪華な食事をいつも食べていた娘に空腹が訪れるのは早かった。帝都のスラムで倒れた私はもう死ぬしか無かったのだろう。そこにたまたま通りかかった軍人など居なければ。



******



「アルスさん…私は出世街道から外れてしまいました。」


早朝、王城の庭で朝稽古だと叩き起こされてみたらそんな話を聞かされたアルスは少々ベロニカに怒りが積もっていた。


「あのなぁ、軍は実力主義だから問題行動さえ犯さなければちゃんと実力を見てもらえる。」


そこに多少の上司の好き嫌いは含まれるかもしれないが、実力が有る者を出世させず隠し通すのは至難の技だ。


「それにベロニカは実力はあるから、あとは経験を積めば……って感じだな。」


「本当ですか⁈」


直属の上司からの実力ある発言に歓喜するベロニカだったがそれを顔には出さなかった。まぁ、顔が妙にゆるゆるなのは気付かれているだろうが。


「剣術学院だけでは取得出来そうにない剣技まで使いこなせるのは驚いたぞ。」


それを聞かれてベロニカは言葉が詰まった。言ってもいいのだろうか?と不安がよぎった。


「実は……。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ