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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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ジョージ・スピネルという男

ジョージ・スピネル、彼は今でこそ第四騎士団の団長を務めているが、彼の出身は騎士達が敵対視する軍部の出身だった。



「本日よりスピネル隊長の部隊に配属になったベロニカです。よろしくお願いします!」


その若い女性の隊員は褐色の瞳でジョージを見つめてきた。金髪の髪は肩までしか伸びておらずバッサリと切った跡があった。自分で切ったのだろうか、肩までしか無い髪は外側にはねている。


「あ?…あぁ。」


それだけ言って終わりだ。ジョージは誰に対してもこんな態度だし、皆それだけで満足していた。しかし、この新人ベロニカは満足しなかったようだ。


「あ…あの?それだけですか?」


「いや、隊長はいつもこんな感じだよ。」


通りすがりにそこそこ古株な隊員がベロニカに注意する。


「えーー、そうなんですかー。」


ベロニカは納得のいかない感じでジョージを見つめる。もうちょっとリアクションしてくれてもいいんじゃないですか?的な視線を送っていた。


「コラッ、ベロニカ。隊長を困らせちゃいけないだろう。」


「はぁい、隊長失礼します。」


ベロニカは一礼するとその場から立ち去った。ジョージの表情はいつも同じだったが内心は茫然としていた。ジョージに向かってあれ以上何かを求めた人物が初めてだったからだ。

幼い頃から戦場におり、ついた二つ名が『死神』。命令されれば誰でも殺していた過去のせいで、隊長まで上り詰めたものの隊員は怖がり腫れ物に触るような扱いだ。

だからそんな自分に恐れず話してくれた事が嬉しかったのだが、嬉しそうな顔がいつまでたっても出来ない。だから隊員達が無表情だと思っていたさっきの表情はジョージにとっては最高の笑顔だったのだ。見分けられる人物に未だに出会ったことはないのだが。


「んんん……(訳:もう少し努力してみようか)」


ジョージは一人唸り声を上げた。


ジョージの前から立ち去った二人は少し離れた所に着くと立ち止まった。


「あー、ヒヤヒヤしたぞ。ベロニカ。」


「す…すみません。」


部隊の中でベロニカの直属の上司に当たるアルスはため息を吐いた。


「下手したら首が飛ぶぞ?」


「えっ、首が⁈」


ベロニカは首を押さえた。自分が生命の危機に瀕していたなんて思っても見なかった。


「なんたってあの『死神』だからな。正直俺もなんで今、お前が生きているのか不思議だよ。」


「え?死神隊長は短気なんですか?」


ベロニカはジョージに変なあだ名をつけてしまっている事に気付かなかった。隊長という認識と死神という二つ名の情報が無意識のうちにベロニカの中で合わさってジョージ=死神隊長となってしまっていた。


「オイ、死神隊長なんて呼ぶんじゃ無いぞ。」


「わかってますよ。」


ベロニカはぷーっと頰を膨らませた。ベロニカもそれくらいはわかっているのだ。


「死神には見えなかったですけどねぇ。」


ベロニカは死神よりも恐ろしいものを知っている。だから人を殺しまくったであろう隊長に隊員の皆が抱く恐怖という感情が全く無いわけでは無いが他の人よりは薄かった。



******



軍部はよく戦場に駆り出される。騎士団が戦場に行くのは軍部だけでは勝利が厳しい時だけだろう。騎士団と軍部、二つの組織は時に共に戦場で戦う筈なのに犬猿の仲であった。

ほとんどが平民で組織された軍部は古い格式に囚われたお堅い騎士団を嫌い、ほとんどが貴族で組織された騎士団は礼儀もなっていない無法地帯と化してる野蛮な軍部を嫌った。


その日は軍部は戦場に駆り出されていた。帝国に反発する属国達が協力し合い帝国に近い位置にあり、それなりに大国である属国に戦争を仕掛けたのだ。

現地の軍だけでは足りないという事で軍部のスピネル部隊がその属国に派遣された。


部隊が現地に着いた時には戦火のド真ん中、反帝国側の属国の方が優勢にみえる。

声を張り上げるわけではなく冷たい隊長の命令、それはただ一言だけだった。


「行け。」


その声で……ややフライングな感じに部隊は戦場に突撃した。反帝国側と帝国側の正面衝突の場面に横からスピネル部隊は突撃したから、奇襲のようになっていた。もう乱闘状態だった。


「くそッ、帝国軍だ!」


敵は慌てながらもしっかりとこちらに攻撃を当てようとする。


「ベロニカ、死ぬなよ!」


アルスはそう言うと目の前の敵に斬りかかった。


「はいっ。」


ベロニカは自分が持っている剣を握り直す。ベロニカも敵を斬った。それはベロニカにとっての初めての殺人行動だった。斬ったのは自分と同じくらいの少年。彼は斬られる直前泣き叫びながら母親を呼んでいた。


「ぁ。」


ベロニカは小さく呟いた。後悔の気持ちが生まれた。少年の返り血がベロニカにかかる。それは自分が殺した事の証明のようだった。


「ベロニカ!!」


アルスの声でベロニカは自分が今戦場にいて戦っている最中だということを思い出した。少年の死体を通り過ぎながらベロニカは剣を構えた。



******



帝国側は反帝国側を制圧し、勝利を収めた。派遣されたスピネル部隊はその属国の王城の客室を宿としてあてがわれた。

ベロニカは一人庭の散策をしていた。殺した少年の顔、血の匂い、その最後の瞬間までしっかりと思い出せる。ベロニカが今いる庭には敵の死体が山積みになっていた。敵であってもちゃんと供養するのだ。死体からは腐臭が漂い始めていた。


「ご…ごめんなさい。」


この死体の山にベロニカが殺した者がいるかは定かではないが、罪悪感に苛まれたベロニカはただ死体に許しを請うことしかできなかった。

敵とはいえ、それは同じ人間であり勿論帰りを待つ家族がいるのだろう。自分が殺さなかったら生きていた人物がいる、いるはずだった。

ベロニカは帝国側なのだから反帝国側の者は殺さなければいけないが、こちらにも正義があるようにあちらにも正義があるのだ。ベロニカから見れば敵は反逆行為をしたようにみえるが彼らからしたら己の正義に従ったまでなのだ。


「誰が…悪いの?」


誰が一番の悪だ?誰のせいでこんなにも人が死ななければならなかったのか。

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