皇室事情 Ⅳ
「母上!陛下が亡くなられたのは本当ですか⁈」
ケイジはノックもせず第六皇妃の部屋へと入った。
「ああ、本当だ。」
第六皇妃ケイシアの顔は青ざめていた。
「まだ皇宮内の者しか知らぬ、だがいずれ国民にはバレるだろう。召使い一人一人に口封じは出来ぬからな。」
「死因は?」
「暗殺だ。」
ケイジの顔色も変わった。
「同一犯でしょうか。」
「まだ分からぬ。しかし犯人探しはもう始まっている。皇宮の出入りが禁止されただろう。外からの刺客だったとしても、もう逃げられまい。」
2年ほど前、皇后と第二皇妃が不自然に死んだ。その時暗殺である事は分かりきっていたが犯人は結局見つからなかった。
「とりあえず、レヴィ宰相とも話し合わなければならないが皇太子が卒業するまでは譲位は難しいだろう。だがそれまで統治者不在はあまり良くない。」
ケイシアがぶつぶつとこれからの事を呟き始めた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。皇宮全体がバタバタしている中なんだろうかと2人は首を傾げた。
「失礼いたします。」
「誰だ、貴様は。」
入ってきた侍従に見覚えがなくケイシアはそう尋ねる。
「私は第二皇女殿下の側仕え兼教育係のエイデンと申します。今から第一皇女殿下達が皇帝暗殺の犯人を断罪致しますので玉座の間にお集まりください。」
「何?」
犯人が見つかったというのか。2人はエイデンの後に続く。玉座の間である広間にはすでに皇宮中の人間が集められていた。しかし何人か足りないようだった。
玉座の後ろから出てきたのは第一皇女ミリスと第三皇女ポーラだった。
「皆の者、集まっていただき感謝する。これから皇帝暗殺の犯人を断罪する!」
そう言ってミリスが右手に持っていた剣を掲げた。すると玉座のカーテンの後ろから拘束された第三皇妃と拘束している近衛兵が出てきた。その場に集まっていた者達が騒ぎ出す。
「どういう事だ?」
「第三皇妃殿下⁈」
状況が理解できない者達に構わずミリスは続けた。
「第三皇妃は皇帝陛下の飲み物に毒を盛り暗殺したのだ。私と第三皇女…あと第二皇女が証言しよう。私達は一部始終見ていたのだから。」
そう言うとミリスは剣を第三皇妃アグリジアの首に向けた。
「皇帝暗殺は死罪に値する。死んで償うがいい。」
ミリスは他の者が言葉を発する前に素早く剣を振り上げそして振り落とした。
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
アグリジアの返り血を浴び叫び出す大臣や侍従達。冷静を保っているのはもはや皇族だけかと思われた。しかし1人の大臣がミリスに怒号とも言える叫びをあげた。
「何故殺してしまったのです⁈」
この大臣の言いたい事はわかる。たとえアグリジアが犯人だとしてもすぐに殺してはいけない。裁判を行いそこで死刑判決を下し処刑する。ましてや皇族の裁判なんて慎重に行わなくてはならない。
何故殺したのか?等の動機は永久に闇の中になってしまったのだ。アグリジアがミリスによって殺されたことにより、犯人のアグリジアより犯人を殺したミリスに注目が集まった。ミリスには何らかの処罰を下さなければならない。しかし皇帝はいない、居るのは皇太子だけ。
今この場の最高権力者は皇太子だ。そこで大臣達はこれからの事にも目を向け出し始めた。皇位はどうする?皇太子に継承してもらう他ないが、本来なら学園を卒業してから継承だった。学業と並行しながら皇帝の職務を行えるのか。
その時今までミリスの話に出てきただけで広間の隅にいたラヴァリアが声を上げた。
「皆の者に提案がある。」
そこでラヴァリアに視線が集まる。
「とりあえず第一皇女の処遇だが一旦は謹慎とする。」
そんな処遇生ぬるすぎると大臣達が批判しようとしたがラヴァリアの話にはまだ続きがあった。
「私は分家する予定があるのだが、そこに第一皇女を連れて行こうと思う、勿論身分は剥奪して…だ。実質国外追放と同じだろう。」
「皇帝陛下を尊敬するが故、罪人ではあるが皇妃を手にかけてしまった。もうこの国の土を踏めないだろうとは思っている。」
ミリスも項垂れながらそう言った。
「そして、皇位の継承だが…。皇太子が学園を卒業するまでは現皇帝陛下に預ける事にしよう。」
「統治者不在の状態にするということですか?」
大臣達がそう問い詰める。
「幸いな事に我が帝国の基盤は安定している。卒業までの後数ヶ月を統治者不在にしても国が潰れるなんて事はない。その数ヶ月の間は皇太子と宰相が国を維持していればいいだろう。皇太子は現段階で皇帝の仕事もこなしているからな。」
ラヴァリアのその提案に逆らう者はいなかった。何故なら多分そうするしか道はなかったからだろう。
犯人の断罪も終わり、これからのことも決まった。ラヴァリアが解散を告げると皆広間の外へ歩き出す。
「母上、何かおかしいと思いませんか?」
ケイジはケイシアにそう尋ねた。まだ違和感が残っている。
「ダイヤモンド公爵家の者がいない。」
詳しく言えばダイヤモンド公爵家の派閥の貴族がいない。集まった大臣、貴族、騎士の中に誰一人としていなかった。集まったほとんどが中立派の貴族で構成されていた。
人々が出口に向かっている中その波を逆流するかのようにルイスはラヴァリアの元へと向かっていた。
「姉上……。」
ルイスの表情を見ただけでラヴァリアはルイスが何を言おうとしたのかわかったのかこう一言だけ言った。
「姉さんを嫌いにならないでね、ルイス。」
そう言うとラヴァリアはルイスの横を通り過ぎていった。




