皇室事情 I
その日、第二皇女宮に呼ばれたのはただ単に学園の冬休み初日だからということだと思っていた。
まさかあんなことになるなんて。その引き金を自分が引いてしまったのだと思うとなんとも言えない気持ちになるんだ。
その日ルイスは姉であり、第二皇女のラヴァリアに宮に呼ばれていた。内容は久し振りにお茶でもしよう、ということだった。
ラヴァリアとは兄弟の中で仲がいい方だ。皇族という家族はどんな家族よりも特殊な事情を抱えている。皆が皆敵と言った感じだ。そんな中で仲がいいというのは中々特殊だろう。
「姉上、失礼します。」
「殿下、ようこそいらっしゃいました。」
いくら仲がいいと言っても礼儀は守らなくてはいけない。ラヴァリアはルイスのことを『殿下』と呼ばなくてはならない。
ラヴァリアとルイスは容姿的には全然似ていない。深い青の瞳と髪のルイスに比べて、鳶色の髪に菫色の瞳のラヴァリアでは似ていないだろう。しかし、顔の造形はそっくりでルイスの姉と言われればそれはラヴァリアだろう。母が違うので顔の造形は2人とも父譲りだ。
ラヴァリアの母は皇后ヘスティアでルイスの母は第二皇妃レティーシアだ。その2人の妃はもういない。
そういえばラヴァリアとルイスが仲がいいのは母が死んでいるという共通点からだろう。もしどちらかの母が死んでいなかったら2人は話したことすらないままだっただろう。不謹慎だとは思うが2人の母が死んでくれたから今こうして2人はお茶をしている。
「ルイスは、ブラックだったかしら?」
召使い達が全員部屋の外に行ったのを確認するとラヴァリアはポットからコーヒーを注いでルイスに渡した。『お茶』しましょうという誘いだがラヴァリアはルイスのためにコーヒーを用意してくれていた。
ルイスの為だけというよりは自分の為もあるだろう。ラヴァリアもルイスと同じく紅茶よりコーヒーを好む。流石にラヴァリアはブラックではなくミルクを入れるが。
「はい、いただきます。」
「もっと砕けた話し方でいいのよ。この部屋にたしなめる人はいないし。昔みたいに姉さんって呼んでほしいわ。」
ルイスはコーヒーを一口飲んだ後にこう言った。
「ん〜、じゃあそうさせてもらうよ姉さん。」
そう言ってさっぱりとした甘味に手を伸ばす。その様子をニコニコしながらラヴァリアは眺めていた。
「何?」
「いやぁ、ルイスは表情豊かになったね。これもアリスちゃんのおかげかな?私も会ってみたいなぁ。」
ラヴァリアはそう言うがそれが出来ないのはルイスも知っている。ラヴァリアはこの第二皇女宮からは出られない。病気でも何か罪を犯して謹慎中でもない。ただの父の我儘、『第二皇女は宮から出てはいけない』。
父は愚かな人だ。最愛であった皇后の死に耐えられなかった。それで今も政務を放り出し自室にこもっている。だからルイスは学園に通いながら、本来なら皇帝がするはずの仕事もこなしている。
そして皇后の忘れ形見とも言えようラヴァリアを溺愛…というか束縛し、宮からの外出を禁じた。
「最近の陛下はどう?なんせ自室にこもりっぱなしで近況を知るのが姉さんしかいないんだよ。」
ラヴァリアは時々父の自室に呼び出される。その時だけは宮を出てもいいのだ。亡き妻の面影を持っているラヴァリアに妻を重ねたいのだ。
「まぁ、いつも通りなんじゃない?前行った時もお母様の肖像画の前で泣き崩れてたわよ。」
ラヴァリアも甘味をつまみながら答える。皇后が死んだのはもう随分と前の話だと言うのに。
そして皇后が死んでからは女遊びが過激になった気がする。妃が7人もいるというのにそれだけでは足りず妾だけで100人は超える。つまりまだ見ぬ異母兄弟が沢山居ると考えられる。
(そんなに沢山の奴から命を狙われちゃたまったもんじゃない。)
婚外子とはいえ紛れもなく皇家の血が流れている。其奴らが皇位継承権を主張して来たら面倒くさい。これは早くに父から皇帝の座を譲位してもらわないと後々面倒な事になりそうだ。
「ルイス、貴方は皇帝になるの?」
ラヴァリアに不意にそんなことを聞かれた。ルイスは一瞬その意味がわからなかった。何故?皇太子なのだからいずれ皇帝になるだろう。ラヴァリアの意図がわからなかった。当たり前の事を聞くほどラヴァリアは馬鹿じゃない。ただこの時感じた違和感を適当に流すんじゃなかったと後々後悔した。
「なるよ。」
多分これから婚外子達が皇位継承権云々で騒ぎ出すだろうけど皇帝になるのをやめるわけない。血の雨を降らせる事になりそうな気がして来た。ルイスはアリスにどう隠そうかを考えた。きっとアリスの事だろうから殺したなどと知ったら悲しむだろう。汚れは自分だけでいい。
「そう言うと思った。」
そう言ってラヴァリアはコーヒーを飲む。そこでコーヒーを飲み干した。
「ルイスが皇帝になったら、私国を出て行こうと思うの。嫁に出される前に自分で出て行くわ。」
「何で?姉さんが望むなら他国に嫁に出すなんて事しないよ。」
ずっと宮から出れていない姉が外に出たい気持ちもわかる。しかし、姉を他国に本人の同意なしに嫁がせるような事をする予定はなかった。それに父は姉を嫁がせる様子がない。多分自分が死ぬまで手元に残しておくと思う。
「分家しようと思うの。属国の領地を少し頂戴。私がそこの王様になるわ。」
ニコニコとしながらそう言う。おっとりとしているが何を考えているのかと思えば分家を考えていたのか。たしかに姉が素直に父の手元に残るはずがない。だってラヴァリアは父を殺したいほどに嫌っている。
「分家…いいよ。」
ラヴァリアは天才気質でなんでも器用にこなす。きっと国の王も器用にこなすだろう。即、許可を出した。




