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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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ミーナの軌跡

ケイジが生徒会室の方を見たのをミーナが気づかないわけがなかった。それどころか、いつも会うたびにケイジがこっそりと目でアリスを追っていることも知っていた。



お姉様は私の光……私の希望……私のすべて。


突然やって来た小娘を今日から貴方達の妹になりました、はいよろしく!とはならないのは私でもわかった。大勢の兄や姉から向けられる視線に私はいたたまれなくなっていた。


「お母様…まったくお人好しですわね。」


「わざわざ身寄りの無い子を引き取るなんて。」


その視線は私を敵視する目。家族を崩壊させるかもしれない害獣に向けられる視線にしては優しい方だっただろう。

そんな中1人だけ私に歩み寄ってくれた人がいた。


「ミーナって言うんだね。私、アリス。よろしくね!」


そう言って笑う彼女はまさに聖女といってよかった。お姉様は他の兄弟達とも仲良くなれるように仲介役を率先してしてくれて一年も経つ頃にはすっかり私は家族の一員になれたのだ。

幸せだったが過去の事を忘れかけている私に嫌気がさした。私だけが幸せになっていいのだろうか。きっと昔の家族が許さない。



******



私が生まれた国は山脈の近くにある小さな小さな国。大国から見たら村くらいしかない小さな国だった。

その国の平凡な村娘、それが私の肩書きといっていいだろう。だから私は帝国の公爵の養子に迎えられるような人間じゃないということだ。

その小さな国はあっという間に隣国に吸収された。国の民は全員奴隷となり、私も売り飛ばされるため牢に入れられていた。しかし案外奇跡は起きるもので、なんらかのトラブルで見張り役が牢の前から居なくなり、しかも牢の鍵を落としていったのだから私は鉄格子の隙間から手を伸ばし鍵を開ける。もうこれは神様が逃げろと言っているようなものだ。


他の牢も開けてあげる…という考えは浮かんだが、見張り役が戻って来そうだったので私は1人で逃げた。家族も友人も牢の中に見捨てて。

自分が捕まってしまう方が怖かった。自分が大事なのだ。それは逃げ延びた後に後悔した。

私は仲間達を見捨ててまで生き延びる価値があるのだろうか、仲間を見捨ててのうのうと生きていける自分が恐ろしかった。醜く、気持ち悪く、汚らわしい。私の言葉、手つき、視線、呼吸、私を構築するすべてのものが私の罪に汚染されていた。

そんな風に自虐し、自分が醜く思えたのはきっとこの世で一番美しいものが隣に居たから。


(嗚呼、お姉様貴女はなんて美しいの。)


この世で一番美しく、神聖で、幻想的で、彼女をこの世にある言葉で表すのは不可能だった。

彼女はいつも罪で汚れた私を汚れを知らぬ瞳で見つめて来た。それは彼女が生まれた時からの守られた環境の賜物だった。彼女なら私を許してくれる、その優しさで汚らわしい私を包み込んでくれる。彼女がいるおかげで私の罪は調和された気がした。


だから私は今日も最愛のお姉様の引き立て役を演じる。この世で一番醜い者がいるからこそこの世で一番美しい者が最大限に引き立つ。私は既にお姉様の美しさを引き立たせるお姉様の一部。いや、お姉様以外のすべてのものがお姉様を引き立たせる以外の役目を有さない。


誓ったんだ、貴女が私に話しかけてくれたあの日から。貴女の幸せこそ私の幸せ。何を犠牲にしようとも貴女に尽くすと誓った。



******



「あの、ケイジ殿下。」


「!!…なんだ。」


上の空だったケイジを現実に呼び戻す。多分お姉様のことでも考えていたのだろう。それにしてもこの人も災難だ。婚約者に選ばれたのが愛しい人ではなくその血の繋がらない妹なのだから。


「あ…えっと、お姉様は毎日こちらに来られてますけど何をされていらっしゃるのですか?」


「アリスは…寂しいのだろうな。婚約者や幼馴染にすぐ会えないというのは。去年までは俺も遊びに行ってやれたのだが…。だから自ら手伝いと称して会いに来ているのだろう。」


確かにあの3人ならお姉様の手伝いなんてなくとも自分達の仕事をこなしているし、通常5人で生徒会を回すはずが3人で足りている。


「そうでしたか。私も家でお姉様の寂しさを紛らわせるよう努力しますわ。」


お姉様の話題を出すと先程までぎこちなかった2人の会話がスムーズになっていることに気づいた。私自身もお姉様の話題だと話題が次々と浮かんでくる。


「そういえば、少し前お姉様を侮辱した輩が居ましたね。」


「ああ、居たな。国外追放にしたが。」


お姉様を侮辱した輩…ステファニーと言ったか。ただ侮辱しただけではさほど重い刑には出来ない。あの時はお姉様に隠れて一致団結し、ステファニーの他の罪を徹底して調べ上げ、法を改正しステファニーに重刑を課せれるようにした。皇太子と皇子そして宰相子息と公爵令嬢の権力により、属国の娼館送りにできたのだ。

お姉様を侮辱した輩に死刑なんて生ぬるい、底辺娼館で男に媚び売って惨めに生き地獄を味わうのがお似合いだ。


「お姉様を悪女だなんて…信じられません。」


「頭がおかしかったのだろうな。」


2人はうんうんと頷く。そこに関しては凄く同意だ。頭がおかしいでは済まされない。きっと人間辞めていたのだろう。そうでなくては説明がつかない。


「あの、美しく聡明で素晴らしいお姉様を悪女だなんて。」


「あの、純粋で優しく可愛らしいアリスを悪女だなんてな。」


2人とも思った、この人とは話が合う…と。それからしばらくアリスについて語り合った。語り合えば語り合うほどお互いの思考が似ていることやアリスに対しての愛情が並々ならぬものだということがわかった。

生徒会室に戻る頃にはお互いを同志として認め合い、固い握手を交わし合う仲になっていた。


アリスは2人がなんだか仲良くなっているのに気づき、2人に散歩を勧めたのは間違いなかったと一人で満足していた。


このケイジとミーナの仲にアレンが加わり、アリスのファンクラブとして巨大組織に成長するのはまた別の話。


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