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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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再び試験と長期休暇

窓の外には粉雪が舞っている。冬の兆しが見え始めた。


「上級貴族クラスはどう?」


今日はサラの部屋に集まってお喋りをしている。私が上級貴族クラスに移ってから二人と会う機会が減ってしまい今回久しぶりにゆっくり話せている。


「さすが、上級貴族って感じ。虐めなんて低俗な事しないわ。」


まぁ……昔の私は低俗な事をしていたんだけど。カオルが窓の外を見てこう呟いた。


「もうすぐ冬休みね。」


「そう!冬休みよ!」


サラの顔がパァと明るくなり、ガッツポーズをしている。


「でも休みの前には試験があるよね。」


試験という単語が出た瞬間のサラの落ち込みようは凄まじかった。


「試験…試験…試験…。」


ブツブツと試験という単語だけを唱え始める。


「サラ、安心して。今回の試験の範囲は狭いし、なんたって学園5位のエルリカと11位の私が勉強手伝うから!」


あれ?手伝うことになってるの⁈そんな話初耳だが、サラのためなら勉強を教えよう。


「そうよ、手伝うわサラ。」


「本当⁈それならこっそり回答を教えてくれないかしら?」


「「それは無理。」」


カンニングのお願いを私とカオルが同時に断る。


「冗談よ。」


サラはブーっと頰を膨らませた。その様子から見て半分は冗談だったのだろうがもしかしたら…とか思ってたことが伺える。



******



「ルー達はもうすぐ試験だけど大丈夫なの?」


生徒会室のソファの真ん中でアリスは紅茶を飲みながらそう尋ねた。ここでみんなとお茶をすることはアリスの日課となっている。たまにしか付いて来ないミーナも今日は付いて来ていた。

私はミーナとケイジが会う機会をなるべく作ってあげるよう気を配っている。ミーナはケイジの婚約者だからだ。婚約自体は最近で私一人だけで皇宮入りするよりは一緒に皇宮入りした方が心強いだろうという計らいだ。今もミーナとケイジは二人で庭園を散歩している(させている、の方が正しい。)お互い婚約者と二人きりの時間を過ごせるのだ。アレンはまだ副会長の仕事が残っているらしく生徒会室にはいなかった。


「大丈夫だよ、あんなものはすぐ終わる。」


ルイスも紅茶を飲みながら答える。しかし彼が少々無理をして紅茶を飲んでいることは知っていた。ルイスは紅茶は苦手というわけではないがどちらかといえばコーヒーの方が好みなのだ。

あの苦いコーヒーをブラックで飲むルイスを尊敬しつつも自分は紅茶の方がいいと思いながら紅茶を飲むルイスを見つめる。私に気を使っていつも私好みの紅茶を用意してくれている。しかし用意しても私一人では全部飲めないからルイスは自分の飲みたいものを我慢してくれているのだ。


「ルー…たまにはコーヒーでもいいんだよ?」


ルイスは笑いながら答える。


「アリィはコーヒー飲めないじゃないか。」


「ミルクと砂糖をたっぷりと入れれば大丈夫だよ。」


それはコーヒー一滴に対しての分量だ。それはほぼミルクと砂糖と言える。私はティーカップの隣にあるお茶菓子をつまんだ。これも私好みのもので、ルイスの好みではない、ルイスは甘いだけの甘味が苦手だ。甘すぎないさっぱりとしたものを好む。

これも私のためだけに用意してくれたものだろう。ルイスは毎日私のために私好みのものを用意し、自分の好みのものを我慢しているのだ。そう思うと毎日押しかけるているのが申し訳なく思えてくる。


「ルー!やっぱりルーの好きなもの食べよ?今からコーヒーとさっぱりした甘味を用意してもらうから。」


そう言って部屋の外で待機している侍女に声をかけようとしたがルイスに止められた。


「本当に大丈夫だから。それにアリィが幸せそうに食べる姿を見る方が自分の好物を食べるより何倍もいいしね。」


「ルー……。」


二人の間には決して邪魔できない甘い雰囲気が流れていた。これを部屋の外で聞いていた二人の侍女の一人アン(恋人あり)は微笑ましいと笑い、もう一人のジェーン(恋人募集中)は込み上げてくる吐き気を必死に抑えたのだった。



******



ここはある生徒の為だけに学園側が特別に用意した自習室だ。決して広くはないが彼一人だけが利用するには十分な広さであった。今日はこの自習室に珍しく来客があった。


「兄さんがここに来るなんてね。」


この自習室の利用者であるエティエンヌ・エメラルドは1人掛け用の小さなソファから立ち上がる。ようこそといった感じに手を広げハグを求めた。


「誰がするか。」


舌打ちと共に弟にその言葉を投げかけたのはアレンだった。エティエンヌはいつもこの自習室にいる。別室登校というやつだ。誰も彼がこの学園にいるとは思うまい。


「少しの間だけ邪魔するよ。」


そう言ってアレンは小さな本棚から本を引っ張り出した。本を引っ張りださなければいけない本棚とはどういうことだ。エティエンヌは普段から本を読まない、その為その本棚は彼にとってはただの飾りに過ぎなかった。

この2人は実の兄弟だが全くといっていいほど似ていない。アレンの美しいエメラルドグリーンの髪とは違いエティエンヌも緑の髪は継いでいるとはいえ濁ったような汚い緑色だった。顔もアレンは整っているのに対してエティエンヌは醜くはないがさほど美しいわけでもない。

しかしエティエンヌはアレンが手に入れられなかった両親からの愛を受けていた。いや…厳密に言えばアレンも両親から愛は受けていただろう。自分が天才だとわかった途端両親は急に教育熱心になり勉学のためなら金を惜しまず使ってくれた。しかしアレンが欲しかったのはそういう愛ではなくエティエンヌに与えられていた『甘やかし』が欲しかったのだ。

エティエンヌは産まれながらに病弱でよく病に伏していたから両親もよく手を焼いた。そして気づいてしまったのだ、なんでもよくできる子と少々手が焼ける子なら後者の方が愛嬌があるのだと。なんでもよくできる子は放っておいても大丈夫という認識になって放任されてしまうのだと。


「でもさ〜、兄さんが僕に会いに来てくれるなんてどういう風の吹き回し?」


「お前に会いに来たわけじゃない。誰にも見られずに時間を潰したかっただけだ。」


ふーん…とエティエンヌは一応納得したような声を出したが顔を見れば納得していないことは一目瞭然だった。


「ねぇ、ねぇ、父さんとコソコソ何やってんの?僕も入れてよ〜。」


相変わらず甘え上手だと思うが誰が教えるか。


「あっ、ごめんね〜。兄さん僕のこと嫌いだから教えるわけないよね〜。だって僕が兄さんから父さん達を奪っちゃったもんね〜。」


聞き出せないとわかったのか煽っていくスタンスに変わった。


「これからも天才な兄さんで居てよ。兄さんが完璧にこなせばこなすほど僕の可愛さが増すんだよ。」


弟は自分の売り方をわかっている。アレンがなんでも完璧にこなせば近寄りがたいというイメージを強固にし、それに比べてエティエンヌは人間味が増すのだ。無視して本に集中しようとしたが少なからずエティエンヌの言葉で動揺しているので集中できない。


「副会長の仕事なんて残ってるわけないでしょ。兄さんはそんなに要領は悪くないもの。」


その言葉でアレンは人生で一番動揺を隠せなかっただろう。



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