夢の中
「国庫を使い果たす気ですか!昨年から作物が不作により民達は飢えているのです。皇后陛下も贅沢は控えて頂きたい!」
私はパタパタと扇子で仰ぎ、それをパタンと閉じた。
「何を言っているの?私は贅沢などしていないわ。あれくらい普通よ。それに陛下に振り向いて貰おうと自分を飾り立てる事の何が悪いのかしら?」
オホホホと意地の悪い笑い声を上げる。
「それに民の飢えなら先日皇宮の貯蔵庫を解放したじゃない。それだけじゃ足りないというの?我が国の民は食い意地を張っていることですこと。属国から搾取すればいいじゃない。」
「サファイア帝国領全体で不作なのです!属国から搾取すればいいというものではありません!」
大臣達は怒りが募っているのか顔に青筋を立てていた。
「民達は明日食べるパンにも困っているのです、皇后陛下の贅沢に使うお金を少しでも民達に回せば……。」
私は顎に手を当て少し考え込むそぶりを見せた後こう言った。
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない♪」
その発言に大臣達は青ざめた。わ…わ…わ…私ってば何言ってるの⁈夢の事だとわかっているが夢の中の私は頭が残念すぎる。叫び出したいがこの夢は明晰夢じゃないので自由に出来ない。
夢の中の私はこの会議に飽きたとでも言うように席を立ってそのまま会議室を後にした。
そこでまた暗転する。今度も明晰夢にはならなかった。侍女達が廊下で噂話をしている情景だった。
「聞いた?」
「聞いた聞いた。パンがなければお菓子を食べればいいですって。」
「あの人は民の食事がどんなものか知らないのよ。皇后付きの私達の食事だって満足いくものじゃないのに。」
「それに比べて陛下はご立派よね。民が飢えているからって食事の量を減らされ禁酒までされたし。」
ハァ…と侍女達は同時にため息をついた。
「それに比べて皇后陛下は…。毎日毎日贅沢三昧。」
「お食事もたっぷりと取られるし。」
「一度着たドレスは二度と着ないし、この前も侍女に八つ当たりしてティーカップを割ってたしね。」
「この前なんてフォークが一本足りないって叫ばれてフォークやナイフを投げつけたのよ。」
「皇妃殿下はそんなことしないらしいわ。私も皇后付きじゃなくて皇妃付きの侍女になればよかった〜。」
皇后の私は散々な言われようだった。ん?これは何処からの視点だ?侍女達を見ている視点だが肝心の視点の主は誰だ?ドアの隙間からその侍女達を見ているような視点。多分間違いなく夢の中の私の視点。この侍女達の運命が垣間見えたような気がする。バンッと扉が開き、侍女達は体を震わせた。
「その話、聞き捨てならないわ。」
「ヒッ…皇后陛下!お許しください!」
侍女達は土下座して謝るが夢の中の私の性格的に許すはずはない。
「近衛兵!このもの達を捕らえよ!」
私の声を聞き近衛兵達が侍女の身柄を押さえる。泣き叫ぶ侍女達を尻目に私は近衛兵にこう告げる。
「このもの達は殺せ。」
火あぶり、絞首、斬首……殺し方は様々だが皇后は自分の気に入らないものはすべて殺してしまった。
こうやって自分の陰口を言う侍女だったり自分より派手な装いで陛下の気を引きそうな貴族の子女すべて。
(な……何これ…。)
紛れもなくそれを命じているのは私だ。どうして…夢なのにこんなにも生々しいの?
そこで視界は暗転する、もう終わって…と思うがその願いは届かなかった。
景色は一転、皇宮内ではあるが室外で庭だった。やはり明晰夢ではなく、私は動けない。私は庭をずんずんと進んでいった。侍女達の制止を無視して。
「陛下!」
私は庭のガゼボで読書をしながら休んでいる陛下ことルイスに話しかけていた。侍女達が止めたのは皇帝の仕事で多忙な彼の休みを私が潰してしまうことを恐れたのだ。
ルイスはよほど読書に集中していたのか私が近くに来るまで気づかないようだった。しかし夢の中の私は気づいていないが私から見ると明らかに無視していることがわかる。私はルイスの目の前に座った。
「陛下、何をお読みになっていらっしゃるの?」
無視
「陛下、この銘柄の紅茶がお好きなのですね!今度私が淹れて差し上げますわ。」
無視
「陛下…そんなに読書は楽しいですか…?」
無視
私はとうとうしびれを切らしたようだ。
「陛下!!私達は夫婦なのですよ?どうして部屋にいらっしゃらないのですか?」
無視……するわけにもいかず、ルイスはパタンと本を閉じた。そしてやっと返ってきた返事がこれだ。
「必要ない。」
「必要ない…って部屋にいらっしゃらないことですか!?」
それ以上返事が返ってくることはなかった。
また暗転、場面は移り変わる。どうやら皇帝の寝室の前で私は揉めていた。
「通しなさい!私は皇后よ!」
「申し訳ございません、いくら皇后陛下といえど陛下の寝室には…。」
そこに宰相であるアレンが通りかかった。現宰相ではなく息子のアレンが宰相として…だ。
「何事だ。」
「あら、宰相。陛下が私のところに来てくれないから私の方から来たのよ。」
アレンは自分の事を宰相と役職名で呼び捨てにされたことを少なからず怒っているようだったがそれでも平然を装っていた。
「陛下の許可が無ければ入れない。お引き取り願う。」
私は顔を真っ赤にしてアレンの頰を引っ叩く。近衛兵達が無理矢理皇后を連れて行こうとした時だった。
「貴女はもっと皇后としての自覚を持った方がいい。」
頰が赤く腫れているが表情1つ変えずに淡々と述べる。
「それくらい持っているわ。」
「皇后の身分を笠に着るのとは違う。皇帝の伴侶として、国母として相応しい言動が求められる。」
「愛されようと努力するのが間違ってることなの⁈」
アレンは呆れたようにため息をついた。
「愛される努力をする前に皇后としての努力をしたらどうです?ただ愛されたいだけなら愛妾にでもなればいいでしょう。」
夢の中の私はギリッと歯を噛み締めた。皇后ではなく妾になればいいなんて…なんたる侮辱。皇后になって愛される事が私の目標なのだ。なんの位もなく、公にはできない存在の妾になんてなりたくないのだ。
夢の中の私は分かってない。皇后として頑張れば少しはルイスが振り向いてくれるかもしれないよ、とアレンは伝えているのに。それはルイスの親友なりの配慮だろう。政略結婚だとしても幸せになってほしいと言う彼の願い。
そこでその場面は終わった。というか…夢自体が終わった。眩しい現実の光で私は体を起こす。もう体の何処も痛くはなかった。




