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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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彼女はベロニカ、私はエルリカ

馬車に乗り皇宮へ。皇宮図書館は一般に入れる所と皇宮に勤務している僅かな者しか入れない所が分けられている。

マリエットさんが付き添いを申し出たがお断りをした。だって今から探すのはスピネル侯爵の恋人ベロニカだ。使用人の人達が知っているかはわからないが、もし知っているなら何故私がベロニカの存在を知っているのか疑問に思われる。


「うっわ…大きい。」


皇宮が大きいのは当たり前だがその中の皇宮図書館は特徴的なドーム型の建物で凝ったであろう屋根は建築の方面には素人の私でも凄い…と感嘆の声を上げてしまうほど。

中に入ると天井まで本棚が埋め尽くされていてまた感嘆の声を上げてしまう。図書館ということであまり人が居ないイメージだったが文官達多く利用しており文官の制服を着た人があちこちに居た。


「すいません、貴族の家系図はどちらにありますか?」


そんな人達を避けたくて司書に話しかける。もしアレンの監視を避けたかったのなら皇宮図書館を選んだのは間違いだったろう、宰相の手下の文官が紛れ込んでいても不自然ではないからだ。しかし、調べ物をするにあたってここ以外にいい場所なんて思い当たらない。


「あちらの方になりますね。ご案内いたしましょうか?」


司書が案内を申し出たがお断りする。


「大丈夫です。」


この司書がアレンの手先かもしれない。笑顔で断ったが即断ったせいで印象に残ってしまっただろうか。もし手先じゃなくとも印象に残ったら証言とかされたら不利になる。


皇宮図書館の一般公開の部分にも制限があり、下級貴族は一般公開の一部しか利用できず上級貴族なら一般公開部分全て利用できる。やはり下級貴族が閲覧できない部分もあるのだ。今私が閲覧しようとしている家系図なんて下級貴族は見れない代物だ。


「えーと…この辺かな?」


トパーズ家の家系図という名の本にしては少し薄めの本を取る。約数百年前からこの家系図は書かれている。千年の歴史を誇るサファイア帝国、その初期の頃の家系図は残っていないがトパーズ公爵家は建国当初からある家の1つのようだ。

ただ一つこの家系図には問題がある。妾の存在だったり私生児の存在はまるで無いように書かれているからもし、ベロニカが私生児だったらこの家系図からは見つけ出せないのだ。後妻に迎えられた妾やその私生児は家系図に載るが最後まで婚姻を結ばなかったらトパーズ家の血を引いていても一族には数えられない。


(スピネル侯爵の恋人…ってことはまだ若いわよね?)


あの肖像画の時点でベロニカの年齢は十代後半あたり、その時にはスピネル侯爵が幾つだかは知らないが平均的な恋人の年の差を考えると5歳くらい年下…とすれば現在の年齢は24歳。


「ベロニカ…ベロニカ。」


必死にベロニカを探すが、ベロニカはおろか二十代の女性すら見つからない。

ただもう二人ほど気になる人物が見つかった。一人は私の母マリア、そしてもう一人は父の妹で叔母にあたるマーガレットという二人の女性。もう二人共故人だ。

私は母についての記憶がない。私を産んですぐに亡くなった母のことをお父様は1つも話さなかった。それはお父様にとって暗い記憶なのだろうと気づいた私は次第にお父様にお母様について聞くことはなくなった。

叔母のマーガレットについてもこの家系図を見て初めて知った。父に妹がいるなんて知らなかった。でもマーガレットも幼くして亡くなっている。父が亡くなった人達のことを話さなかったのはきっと話すのが辛いからだ。生涯で二人も大切な女性を失ったお父様の気持ちは私にはわからない。


でも私もお父様を失って悲しんだ。大切な人の死が辛いのは身をもって知っている。ただお父様が生きている頃の私にはわからなかったのだ。あの幼い私の質問がどれだけ無神経だったのだろうか。


「ごめんなさい…お父様。」


もういない父に謝罪しながら家系図に書き込まれた死んだことを意味するばつ印を指でなぞった。



******



結局ベロニカは見つからなかった。見つかったのは父の悲しい過去と私の無神経さだけ。


「ベロニカ…。」


ベロニカは私生児の可能性が高い。でも…誰の?あれだけ似ているということは近い親戚なはずなんだけど。

まず私の異母姉妹であることは絶対にない。お父様に妾の存在がいた事なんて聞いたことないし、居たのなら母が死んだ後に後妻として迎えられたはずだ。正妻の母がいなくなったのだし堂々と正妻の座を渡せる。


でもこれ以上知りたくないとも思った。妾問題なんて明らかに人間のドロドロとした醜いものが詰まっている。私は正妻の子だからドロドロとした渦中に生まれなかったのでそんなこととは無縁だった。

だから私にはそんな醜い争いの耐性がついていないのだ。たとえ他人同士の問題だとしてもその中にどれだけのおぞましいものが蠢いているのか、考えるだけで気持ち悪かった。


私はベロニカの存在を忘れる事にした。そして机の引き出しに入れていたベロニカへの手紙をあの物置部屋のドアと床の隙間から中に入れた。


「これで…全部終わったのよ。」


我がトパーズ一族にベロニカという名前の女はいない。

世界には同じ顔の人が3人いるという。それを柄にもなく信じてみようと思った。

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