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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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肖像画

お茶の時間が終わると私は屋敷の見取り図片手に屋敷を探索することにした。

私の世話係だからといってマリエットさんの仕事を中断させて屋敷の案内をさせるわけにも行かなかったし、一人で…だ。


白を基調とした壁は一定の間隔で壁掛けランプがある。今は昼だから付いていないが夜になると明かりを灯すのだろう。その他にはタペストリーが掛けてあるだけで変な威圧感はなかった。

沢山の部屋へと続くドアがあるが殆どが鍵がかかっていて開けられない。どれか1つだけでもと片っ端から試してみるが開いてるドアが無く、次が最後のドア。まぁ、これもどうせ開かないだろうなとドアノブに手をかける。


そのドアは他のドアとは違い鍵がかかっていなかったから開いた。しかし空いたと言っても人が入れるくらいでは無く覗ける程度の隙間しか開かなかった。


「鍵はかかってないのに。おかしいわね。」


ドアに身体を押し当て全体重でドアにぶつかる。重い扉はギギギと音を立ててゆっくりゆっくりと徐々に開いて私が入れるくらいに開いた。

部屋の中は随分と埃っぽく物置のようだった。白い布を被せられカーテンの隙間からの光で埃が舞っているのがわかる。


「ゲホッゲホッ。」


あまりの埃っぽさに咳き込む。早く出た方が良さそうだ。その時部屋の隅に立て掛けてある額縁が目に入った。額縁には白い布が被せられていたが布がずれていて額縁だとわかった。額縁に近づくとそれがただの額縁ではなく肖像画だということに気づいた。

私は躊躇いなく布を剥ぎ取る。肖像画に描かれていたのは金髪で褐色の瞳をした女性が描かれていた。


似てる……。そう思った。この肖像画の女性は私に似ているのだ。といっても私の髪は金髪だが瞳は青だ。褐色なはずがない。しかし顔の造形は似ていた。私の生き別れの姉妹だと言われたら信じてしまうほど。


「べ…ロニカ…?」


額縁に挟まっていた色褪せた紙には肖像画の女性であろう名前が書かれていた。ベロニカ……と。

そしてその紙には名前だけではなく続きが書いてあった。折りたたまれていた紙を広げる。それはどうやら手紙のようだった。長々しくなく、簡潔に言葉が述べられていた。私は口に出して読み上げてしまう。


「ベロニカ……君を愛している…………ジョージ」


「そこで何をしている。」


重たいはずのドアがバンッと開き、低い声が聞こえた。私は思わず手紙を後ろに隠して振り向く。


「ス…スピネル卿。」


スピネル侯爵はハァ…とため息をついた。


「入ってはいけない場所を知らせておくべきだった。すまないがここには入らないでくれ。」


「はい。わかりました。」


私は足早に物置から出る。去り際にもう一度肖像画の方を見たがやはり私に似ていた。



******



ここは彼の物置部屋だ。誰も立ち入ってはならない。彼自身も物を置きにくる以外入ることはない。使用人達には入らない事を徹底し、施錠もしっかりしていたはずなのにどうやら前回入った時に施錠するのを忘れていたようだ。


この物置部屋には彼自身が忘れたいものを入れる部屋だ。最初は空っぽだった部屋はいつのまにか物で溢れかえっていた。それだけ忘れたいものがあるという事だ。何故彼は捨てないのか。それは彼自身にもわからない。何故、部屋を用意して忘れたいものをその中に封印しているのか。それは彼が本能的には捨てたくないと思っているのか…時々見返す為なのかはわからない。


彼はエルリカが出て行った後彼女が見ていた肖像画の前に立つ。その額縁の隙間には自分が書いた手紙が挟まっているはずだった。しかし、その手紙は跡形もなく無くなっていた。前にこの部屋に入ったのは一年くらい前だったか。その時には確かに合ったのだ。

彼は首を傾げたが、無くなったなら別にそれでいい。ここにあるのはかつて大切だったもの(ゴミ)しかないのだから。



******



「ど……どうしよう。」


バレたらまずい…という一心で手紙を持ってきてしまった。私の部屋の机の上にスピネル侯爵の恋文がある。さて……これをどうしよう。これ…一応侯爵の弱み……なんだよね?しかしこれを材料に侯爵を脅してみようか。いや…失敗した時が怖い。この手紙は引き出しの中に封印しておくことにした。


それにしても私に似た女性ベロニカの方が気になる。侯爵に直接聞いてみようか。その勇気がないけど。


「どーすればいいのよ!ベロニカってどれだけいるのよ!」


ベロニカ……この名前の人物はこの世にどれだけ存在する事だろう。


(姓がわからないんじゃあ…探しようがないわ。)


それにしても赤の他人があそこまで似ているものなのだろうか。もしかしたら身内の人なのかもしれない。


「ベロニカ……ベロニカ…ねぇ。」


遠縁の親戚になってくるとわからないが近い親族にベロニカは居なかった。遠縁の親戚だと似ているということはないだろうが。


「家系図でも見れたらね〜。」


やはり記憶だけでは不確かなところもある。


「あ、図書館!」


あるのだ、家系図が。皇宮図書館なら貴族の家系図があるのだ。誰がどこに嫁いだり生まれたりしたのかを明確にする為に。


「マリエットさん!私、皇宮図書館に行きます。」


呼ばれて部屋に入ってきたマリエットさんはそれを聞くとすぐに準備します、と部屋を出て行った。


「ベロニカ……見つけ出してあげるわ。」


私に似た女性ベロニカ、必ず見つけ出してやる。

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