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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
42/259

華麗なる成り上がり

「よかったわね!」


カオルは涙目になりながら私を抱きしめた。


「エルリカが辞めちゃうってすっごく寂しかったの。」


私はカオルの涙を拭う。こんなに泣いて喜んでくれるとは思わなかった。


「ちょっとちょっとカオル!エルリカはもう、侯爵令嬢なのよ!私達が気安く話しかけられる人物じゃないのよ。」


サラは私が急に上級貴族になったことから自分の立場をわきまえ、距離を取ろうとしている。


「サラ…。私達は今まで通り友人よ?」


そう言ってサラに微笑みかける。


「本当に本当?」


「本当よ、サラ。だってサラとカオルは私のはじめての友人なんだから。」


「エルリカァ…エルリカァーー!!」


サラも泣き出して私に抱きついた。二人に抱きつかれて身体の重心が後ろに傾く。3人仲良く後ろに転倒しかけたが、なんとか片足を出して踏みとどまる。

改めて二人と友達でよかったと思った。


あの後、生徒会室に退学を辞めにする趣旨の話をしに行ったらアリスしか居なくて、アリスはえ?辞めないのぉ?とめんどくさそうに私が書いた退学届を目の前で破った。その時丁度他の生徒会メンバーが戻ってきて何で私が部屋にいるのかまさかアリスを虐めているのか等で危うく修羅場になりかけた。ステファニーの一件でアリスに関して3人は神経質になっているようだった。

そこで私は上級貴族になったのだからステファニーが何をしたのか詳しく聞くことが出来た。ステファニーはルイスの前でアリスを悪女だと罵った。その勇気は凄いが褒められたものじゃない。たとえアリスの悪口を言ったとしてもルイスの耳に届かなければお咎めなしだっただろう。アリスが許してもルイスは許さない。そういう人だ、皇太子殿下は。


(一生軟禁状態の教会や修道院じゃなくて逃げたければ逃げ出せる娼館…。女としての幸せである結婚だって出来る。)


ある意味では優しいステファニーへの罰。しかし娼館という場所がルイスの怒りを表していた。ある意味厳しくある意味優しい、矛盾しているような罰。

ステファニーが罪を悔い改め幸せな生活を送れるように祈るばかりだ。



******



スピネル侯爵の養子となり貴族クラスに移動となった私に平民クラスの生徒は最後まで媚びへつらう姿勢を変えなかった。後、スピネル侯爵の権力を使って私が1番最初にしたのはあの女教師(クソババア)を解雇することだった。その為平民クラスには優秀な平民出身の教師がつくはずだ。

そして私は一日休みを貰って帝都にあるスピネル侯爵邸に行った。寮生活だからここに居ることはほとんどないだろうが、一応実家になったのだし見ておくくらいはしておかないと後々面倒だろう。


スピネル侯爵邸は大きさはあれど無駄な装飾が成されておらず必要最低限の家具だけが備え付けられていた。それはスピネル侯爵自身の人間性を映し出しているようだった。よく言えばさっぱりとした綺麗な…悪く言えば生活感のない屋敷。忙しくて屋敷にいる時間がないのだろうか。

私に与えられた部屋は広さもあり備え付けられている家具も高級なものだが女の子が喜びそうなゴテゴテした装飾は付いていない。平民の暮らしに慣れてしまっている私からしたらここでまた装飾がついた部屋じゃなくてよかったと思う。

スピネル侯爵はこの部屋が女の子に相応しい部屋でないという事は気づいているのか好きに模様替えしていいと言ったが自分では女の子が喜びそうな部屋というものがわからないのだろう。


(気にかけなくていいのに。)


学園を卒業するまでは滅多に使わないであろう新しい私の部屋。ただの客室といった雰囲気を私の部屋らしくしたいがスピネル侯爵家…というかスピネル侯爵が『華美な暮らしを嫌っている』というのは屋敷を見てわかる。スピネル侯爵は貴族らしからぬ、贅沢を嫌う人だ。貴族は自分の富の象徴として高価な品を買う。それは自身の領民達にこの領は潤っているんだと知らせる役目があり、また同じ爵位を持つ貴族より財産があるということを見せつけることができる。

そう言った点で見ればスピネル侯爵家は貧乏なのだと誤解されやすい。ただ慎ましい生活は結構領民からの支持を得ているらしく、スピネル侯爵家を貶めるような噂が飛んでこない。


私が好き勝手に部屋を飾り付けたらスピネル侯爵の怒りを買う事は容易に想像できる。別に部屋が豪華じゃないと困ることなんてないから部屋が私好みじゃないとしても特に問題はない。


その時コンコンと部屋にノックの音が響いた。その後にドアが開いて私の世話係になったマリエットさんが入ってきた。

彼女はマリエット・スモーキークォーツ、茶髪の髪と黒に近く黒よりもソフトな印象を受ける瞳をしている。童顔で、年上だと言われなかったら同い年だと勘違いするところだった。マリエットさんはスピネル侯爵家に雇われているメイドだが、メイド服みたいな制服は着ておらず落ち着いた色合いの赤のドレスを着ている。マリエットさんだけに限らずこの家の使用人は皆制服などは着ておらず自由な服装だ。

そして使用人の数が少ない。トリフェーン家よりも使用人の数が少ないのだ。しかし一人一人が優秀で少ない人数でこの大きな屋敷を回している。


「マリエットさんどうしたんですか。」


「お茶の時間なのでお呼びしに来たんです。」


そう言ってにっこり微笑むマリエットさんはますます子供に見えてしまう。


「わかりました。」


(お茶…ってまさかスピネル侯爵も一緒?)


確かに養子になったから親子関係は生まれたがそれは監視するためであって親子になろうと努力する必要はない。それにあの人から父になろうという努力が伝わらないからますます監視の為が濃厚になってくる。

お茶の時間というのは貴族の家族の時間と言ってもいい。家族関係が疎かになりがちな貴族の為の昔からの習わしみたいなものだ。しかし形だけ守る貴族が大半で本当に団欒を楽しむ目的でお茶の時間を過ごす貴族は稀である。お茶の時間は取っても一人で…とか普通にある。


マリエットさんの後に着いて行く。まだこの屋敷について知らないから逸れたら多分遭難する自信がある。

マリエットさんに案内されたのは食堂だった。やはり食堂も無駄な装飾はなされておらず長いテーブルと椅子、その後ろに暖炉があるが火は付いていない。壁には歴代の家長であろう人物達の肖像画が飾られていたが額縁は無駄に凝ったものではなくシンプルなものだった。

歴代の家長達も華美な暮らしを嫌っていたのか現スピネル侯爵が嫌いで額縁を変えただけなのかは知らないが、食堂に飾るものじゃないと思う。この人達に囲まれて食事をするなんてあまり気分のいいものじゃない。それが肖像画であったとしてもだ。


「いや〜。この食堂で食事をする人は久しぶりだなぁ。」


厨房からコックの男の人が出てきた。彼はコックだが制服は着ておらず服が汚れないようにエプロンはしているがやはりコックという風貌ではなかった。


「あれ?スピネル卿はここで食事はなさらないのですか。」


「忙しい人だからね。外で食事をお済ませになられるし、滅多にこの屋敷にも帰ってこないよ。」


マリエットさんが厨房からワゴンを押してくる。その上には紅茶とマカロンが乗っていた。


「だからエルリカ様が屋敷にやってきた時、旦那様が外で作られたお子様かと思いましたもの。」


そう言ってマリエットさんは紅茶を注ぐ。


「あはは、すいません。養子です。」


そう言って私は申し訳なさそうに笑う。


「でも私はエルリカ様で良かったですよ。結婚してない方との子供なんて()()()()()()()()()()()()。」


その『あまり良くないですからね』には様々な意味が含まれているように感じた。マリエットさんの発言は妾という存在を否定するものだった。ただ妾としているよりは結婚した方がいいという風潮があるのも事実だ。一夫多妻が認められる我が国では妾という存在も居るが、妾のままにしておくなら早く後妻として結婚してしまえという考えが主流だ。

だからマリエットさんの考えが間違って居るわけではない。


私はマカロンをつまみながらずっとそのことを考えていた。

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