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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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其処を退け

何で其処にいるんだ。ここに来て全く会う想定をしていなかった人物。名前も知らない、女教師(皆が言うところのヒステリックババァ)。


「貴女、侯爵様の養子になったんだってねぇ。先生は鼻が高いわあー。……ところで…。」


「其処を退け。」


私は女教師に構わず走り出していた。随分とキツイ物言いになってしまったがあの話し方だと私を通してスピネル侯爵の権力を使い何かしたかったのだろう。あんなまともに教師をしていない教師の為に私が動くなんてことする訳ないが。


「ああ、ちょっと!」


後ろから女教師の声が聞こえたが無視して走り去った。今は時間がないのだ。スピネル侯爵がまだ学園内にいる間に…。

といっても広大な学園の敷地内を一人で探すのには無理があった。行方不明になったわけではないから捜索隊を出すわけにもいかないし(私にそんな権力ないし)ただの小娘一人が侯爵様を探すなんて恐れ多い。怒りでも買ったらどうしよう。本校舎の前で一人、頭を抱えた。

その時校門の前に馬車が止まっているのが見えた。今学園に来ている客人はスピネル侯爵しかいない。直感的にそう感じて馬車に駆け寄る。ここで待っていたらスピネル侯爵は必ず現れるはずだ。

馬車の扉の部分にはスピネル侯爵家の家紋が記されていた、この馬車で間違いない。それにしても立派な馬車だ。スピネル侯爵家はラリマー侯爵家、マラカイト侯爵家と並ぶ名門家、馬車が豪華なのは当たり前だろう。

家紋をまじまじと見ていると私の存在に気づいた御者のおじさんが声をかけてきた。


「ダメだよ、これは侯爵家の馬車なんだから。」


御者のおじさんは私の身なりから平民だと悟ったようでしっしっと私にどっかいけとジェスチャーしている。


「あっ。ごめ……。」


「もうすぐお前のもう一人の主人になる、その態度は何だ。」


謝ろうとしたらその声に遮られた。私が振り返るとそこにはスピネル侯爵がいたのだった。


「へっ⁈あ、ひ?侯爵様、すみません。」


御者のおじさんは急にペコペコし出して私に謝罪した。


「あ、あの、侯爵閣下。お話が!」


もうここで言うしかない、と私はスピネル侯爵に声をかけた。



******



流石にあそこで立ち話をするわけにもいかず学園の応接室を使うこととなった。


「侯爵閣下…。」


「公の場ではない。閣下は不要だ。」


そう言ってスピネル侯爵は足を組む変えた。その一つ一つの動作がより空間を威圧しているように感じる。


「では、スピネル卿。早速本題に入りますが、私を養子として迎えていただく件。お断りいたします。」


「ふむ。」


そう言うとスピネル侯爵は顎に手を当てた。


「私はトリフェーン家に恩がございます。そしてこの学園の学費も出していただきました。その恩を返さず私が侯爵家の養子となり、私だけが悠々自適な生活を送るわけにはいかないのです。」


真っ直ぐ侯爵を見つめるが、その難しそうな表情と美形の顔に思わず目を背けてしまいそうになる。

それに、怪しすぎるタイミングでの養子とを迎える宣言。婚期を逃したわけでもなく妻を迎えたこともない。後継が欲しいなら一族から探せばいいのに。


「その理由がなくなれば養子に迎えられてもいいということか?」


「え?……まぁ、そういうことになりますが…。しかし先程もお話した通り、私はトリフェーン家の為に尽力するつもりです。私の学費の為にトリフェーン家の財が逼迫していたでしょうし。」


機嫌を損ねないように相手が傷つかないように最大限言葉に配慮して伝えた。言い終わった後の僅かな沈黙がいたたまれなくて窓の方に視線を外す。またすぐに視線は侯爵の方に戻さなくてはならないが。


「トリフェーン家には学費と手切れ金を渡している。それでトリフェーン家は再興できるはずだ。」


えっ、そうなの?やったーー!トリフェーン家が爵位を取り戻す日も近いわね!…………って、え?


「トリフェーン家に…もう渡しているのですか⁈」


渡す予定とか渡してもいいではなく完全な事後報告。


「君に養子に迎える提案して時には既に渡していた。」


まぁ…なんと用意周到な。これで私の断る理由がなくなってしまった。


「えっと…養子になった私に求めるものは何なのでしょうか?」


後継ではない…何か。


「求める条件は2つ。これまでと変わらずこの学園に通い無事卒業すること。指定した就職先に就職すること。」


スピネル侯爵はゴホンッと咳払いするとこう続けた。


「それさえ守ってくれれば別にスピネルの姓を名乗らなくとも、侯爵家の権力を使ってくれて構わない。ただスピネル侯爵家は華美な暮らしは嫌っている。」


最後の華美な暮らしを嫌っているというのは私が昔のように財産を浪費することを恐れているのからだろうか。


「わかりました。その条件は必ずお守りいたしましょう。それから…スピネルの姓は名乗らせていただきます。血の繋がりはありませんが()()ですので。」


養子として引き取ってくれるスピネル侯爵への配慮でもあるがスピネルの名前を出すと他の貴族への牽制になるだろう。安易に私を虐められなくなる。

ただ…お父様の復讐は動きにくくなった。隠さなくてはならない人がこんなにも近くにいるからだ。前は平民だったから自由に動けてガブリエルの所に行くのが簡単だった。しかしスピネル侯爵の監視下に置かれるとなると文通も容易にできない。


(もしかしてスピネル侯爵は私を監視する為に養子に?)


怪しすぎる急な時期にしても、指定した条件もその推測を確かなものにしていた。スピネル侯爵家は中立派であり、言わばエメラルド公爵家の配下。私に探るように声をかけてきたアレンの差し金だとしたら……。


私はスカートをぎゅっと握った。目の前にいる人物にいずれ殺されるかもしれない。

私は侯爵に笑顔を向けたが侯爵は無表情だった。

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