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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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追放者の流れ着く所へ

平民クラスの教室があるのは貴族クラスがある本校舎から離れた位置にあった。創設当初は平民クラスも本校舎の方に教室があったらしいが貴族から平民と一緒は嫌だと苦情が殺到し、現学園長のルーカス・マラカイトに学園長の座が変わるのと同時にこの平民クラスの場所が変わったのだそうだ。


「にしても…寮から来るのが大変ね。」


平民クラスがある校舎…通称『仮校舎』は学園の敷地の隅っこに位置し周りが森で囲われている。校舎に続く整備された道はなく有るのは校舎の建設の際に資材を運ぶ為に空けられた獣道のような道まがいのものだった。普通に突き進んだら仮校舎に着く頃には服はボロボロになっていた。そんな道まがいから物を運ぶのが大変で仮校舎は本校舎に比べて設備が整ってない。

唯一のいい点としては森に囲まれているから静かな場所で勉強出来る事だ。


(やっぱりその点は平民クラスの方がいいわよね〜。)


うんうん、と頷きながら仮校舎の扉を開ける。扉を開けるとそこには平民クラスを担当しているのであろう女性教師が立っていた。フレームが細い眼鏡をかけており、白髪交じりの髪を後ろでひっつめにしていた。


「はじめまして。エルリカです。今日からよろしくおねがしい…し…ま……。」


言い終わる前に女性教師はカツカツと音を立てて階段を上っていった。それが私を教室に案内することだということに気づくのは少し時間がかかった。慌てて私は教師の後を追う。教室入り教壇の前に立たされる。

教師は目配せをする。それが自己紹介しろ、の合図だと気づいたのに2秒くらいかかった。その為反応が遅れた。


「エルリカです。よろしくお願いします。」


そう名乗るとクラス全体がざわめくのがわかった。前に私は平民クラスで英雄のように語られていると聞いた。そのおかげなのだろうか、友好的に接してくれそうな雰囲気が出ていた。自己紹介が終わり、席に着くと教師は教室から出ていった。


(え?)


平民クラスの教師はあの人しかいなさそうだし、あれ?授業は?他の皆は当たり前のように各々学習を始めていたり不真面目な者は遊び出したりしているけど今日は平民クラス初日だし…自習なのかな?とその時は思っていた。

しかし、次も…その次の日も自習。なんで授業がないの⁈そして平民クラスの人達に聞いてみると、あの女性教師は授業をせず一日中煙草をふかしているらしい。そして本校舎への報告にはさも授業したように報告しているらしい。


「そんなのダメじゃない!ちゃんと授業してくれるように言ってみるわ。」


そう言ってもクラスの皆は下を向くだけだった。だが1人、私の声に反応する者がいた。薄い紫色の髪に琥珀色の目の少女。彼女はアマンダ・チャロアイト、帝都一と言われる大商会チャロアイト商会の会長の娘。貴族に負けないくらいの資産があり、平民クラスの中では1番の富豪。


「何を言っているの?あのババアにそんなことしたらヒステリーを起こすだけよ。」


あの女性教師はすでにババア呼ばわりなのか……。それだけで嫌われていることがわかる。


「それに、何故貴女が仕切っているの?ここの女王は私よ!」


「は?」


我ながら最大限に馬鹿にしたような『は?』だったと思う。しかし、そんな気全くなくて無自覚にその言葉が漏れていたから…全然悪意とかないから許してほしい。そんな願いも虚しくアマンダは怒りのため顔を真っ赤にしてワナワナ震えている。いや、でもね?急に私は女王だとか言い出して理解を求める方が間違ってると思うよ。そうでございますかー、ははー、女王陛下ーー、とはならないよ?絶対ね。だから多分私は悪くない。


「英雄気取りなんて出来ない程痛めつけてやるわ!」


アマンダは高らかに叫ぶ。いや…私は英雄気取りなんてしてないんだけど。でも…痛めつけられるなんて嫌だ。だからここではお嬢様を使わせてもらう!


「私に何かしたら、トリフェーン家とデンドリティックアゲート家が黙ってないわよ!」


ついでにラリマー侯爵も黙ってないわよ!……ラリマーの名前は出せなかったが。貴族クラスだと下級貴族二家が平民の後ろに付いている…という感じで別に脅威には感じなかっただろう。しかし平民クラスだと貴族の名前を出したら全員が怯んだ。


「そ…そんなの……嘘に…。」


アマンダは震えながら最大限に声を出すが、具体的な家名を出しているから信憑性があるのだろう。もし、お貴族様が黙ってないわよなんて言っても信憑性は湧かなかった。しかし具体的な家名を出したからもし、嘘なら罰せられる。家名を出すのはほぼ本当の時だ。


しかし、その二家が黙ってないとはいえ今ここで集団リンチに遭ってもお嬢様に連絡が行くのに時間がかかるから私に暴行したいなら出来てしまう状況だ。しかも相手はチャロアイト商会の娘…商会の権力を使い事態を揉み消したりするかもしれない。全員が怯んでいるがアマンダが何をするかわからない。まだ授業の時間だが私は教室を出て寮に走った。


(多分かっこよく去っていった……って感じに見られているだろうけど実際は逃げただけなんだよな〜。)


恥ずかしさで赤面しながら私は森の中を突き進んだ。



******



寮の部屋の前に着くと私は安心してその場に座り込んだ。


「ふ…ふぅ…。」


多大な安堵が押し寄せてきてこのまま寝てしまいそうになる。


(いけない…ベッドで寝なきゃ。)


重い体で立ち上がる。お嬢様はいいよ、と言っていたが二家の名前を出したことに少し罪悪感のようなものがあった。

部屋に入ろうとした時、私は呼び止められた。


「エルリカッ!!」


「カオル⁈まだ授業時間の筈じゃ……。」


しかしそんなこと聞いている場合では無いとすぐにわかった。カオルの顔は真っ青で震えている。そして手に持っていた紙を私に渡した。


「エルリカ……た…大変よ。貴女のお嬢様が……死んだ。」


「えっ。」


言葉が詰まった。死んだ?お嬢様が…お嬢様が死んだ。私は渡された手紙を開く。そこにはお嬢様の死の詳細が書かれていた。私は声に出して読み上げていた。声に出して読み上げる内容ではなかったが口に出さないと自分が納得できそうになかったからだ。


「デンドリティックアゲート子爵は多大な負債を負っておりその支払いが困難になった為一家心中を図り屋敷に放火。子爵を含めデンドリティックアゲート子爵家の者全員が死亡…。子爵の負債の保証人になっていたトリフェーン男爵に支払い義務が生じたがこれも支払い困難、トリフェーン男爵家の爵位を剥奪し、支払いをするものとする。…………え?」


一家心中。その中にお嬢様も含まれている。違う…違う違う違う違う違う違う、いくらお嬢様が子爵のことを愛していても命を投げ出すほどじゃない!だって…私はまだお嬢様に会っていない。私に会う前にお嬢様が死ぬはずない。これは無理心中だ。……えっ?待ってあのクソジジイ…お嬢様をお嬢様をお嬢様を……殺した⁈もうお嬢様はいない…いないいないいないいないいない。そしてお嬢様を殺した子爵も…もういない。私は…この怒りを…この恨みを何処にぶつければ。


手紙の文字が歪んでいる。それは私の涙のせいだった。


「エルリカ…大丈……。」


カオルが声をかけようとしたが途中でやめた。多分大丈夫?と聞こうとしたのだろう。しかし大丈夫なわけないとわかったのかその場に崩れ落ちた私の背中を優しくさすってくれていた。

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