【閑話】エルリカのお茶
それはなんの変哲も無い紅茶だった。貴族の女性達の間で人気の高級な茶葉の紅茶では無く、庶民でも買えるお手頃価格の茶葉の紅茶だ。それが昔飲んだ…私の大好きなお茶の味がした。
私が好きなのはレモンティーだ。ただのレモンティーでは無い。トパーズ公爵領産の高級なレモンにトパーズ公爵領産の『エルリカ』という私の名前がついた高級な茶葉を使った紅茶だ。エルリカという茶葉は私が生まれた年に品種改良して作り出された茶葉だった。その芳しい香りが鼻腔をくすぐる。その紅茶に輪切りにしたレモンを浮かべると私の大好きなお茶の完成だ。
あの時は毎日一杯は飲んでいた。おやつの時間に必ず。
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「お嬢様、今日のおやつです。」
マーシャが輪切りにしたレモンがプカプカと浮かぶ紅茶とお皿に盛り付けられた宝石のようなジャムがついたクッキーを置く。
私はクッキーに手を伸ばす……しかしいつものようにそのまま口に運ぶことが出来なかった。私は知っている。私の容姿があまり美しくないことに…。私は同年代の子に比べてかなりのぽっちゃり気味なのだ。そして容姿が影で笑われていることも、目の前にあるクッキーが容姿を醜くする原因の一つであることも…私は知っているのだ。
「お嬢様…どうされたのですか?」
いつもはすぐにおやつを平らげる私を知っているマーシャはすぐにクッキーを食べない私を訝しげに見た。
「私…食べるのはやめるわ。」
「もしかしてお気に召されませんでしたか?料理長に注意させますよ?」
もし味が気に入らなかったりクッキーそのもの自体が気に入らなかったらすぐにでも料理長の首を飛ばしていただろう。しかし…違うのだ、今回は違う。
「私、太ってるでしょ?」
「そんなことはございません。」
マーシャはすぐに否定したが今思えば、やっと気付いたのか…みたいな顔をしていたなぁ。
「…でもクッキーを食べる気になれないわ。」
そう言って紅茶の方に手を伸ばす。まだ暖かい紅茶は私の喉を通るのがわかった。
「気になさっているのなら次からは甘さを控えたものをご用意させます。」
マーシャの提案に私はすぐに賛同した。
「そうね、そうしてちょうだい。」
そして次の日のおやつからは甘さ控えめのお菓子がテーブルに並ぶことになった。しかし、いつもの甘いおやつに慣れている私はどうしても甘さが足りないと感じてしまうし、食べ応えも無くなったように感じた。そのためいくら砂糖を抑えても食べる量が増えたので結局通常のおやつと同じくらいの糖分を摂取していたことに気づいたのは、私がトリフェーン男爵家でメイドとして働き始めてからだ。
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そんなこともあったよなぁと物思いに耽りながらまた紅茶を飲む。しかしもう、大好きなお茶の味はしなかった。あの茶葉は販売中止になったのだろうか。そりゃあ私の名前がついているんだもの…売れるわけないからなぁ。もしかしたら名前を変えてまだ市場に出回っているのかもしれないけど。多分値段は当時から変わっていないだろうから今の私に手が届く品ではないだろうけど。




