追放
「え⁈退学?」
私は思わず叫んでしまった。ステファニーが学園を退学するなんて。ここが私の寮の部屋でよかった。
「しかも、伯爵家から勘当され国外追放らしいわよ。」
サラの声が小さくなる。国外追放なんて声を大にして言うことではないだろう。
にしても…国外追放なんてどれだけの罪を犯したんだ?
「でも…国外追放なんて、やっぱり教会とか修道院行きなのかしら。」
カオルがそう言うとサラが否定した。
「違うらしいわ。修道院じゃ生温いってことで娼館送りになったらしいわよ。」
娼館送りということからルイスが激怒していることが伺える。しかも、その娼館は貴族御用達の高級娼館ではなく底辺中の底辺の娼館らしい。慎ましく静かに暮らしていける修道院は衣食住は必ず保証されているが娼館となると自分の稼ぎが全てだ。その為貴族のような豪華な暮らしができるかもしれない反面、稼げずに娼館からも用済みとされたら路上に捨てられる事もある。底辺娼館だと立地は治安の悪い場所だろう。路上に捨てられたら女に飢えた男の餌食になる。
「娼館…?」
カオルがギリリと唇を噛み締めた。そりゃそうだ、名門伯爵家の令嬢から一転属国の底辺娼婦になるなんて。誰しもが同情する筈だ。しかし、ステファニーを擁護する声は上がらない。それはことの詳細は上級貴族の生徒にだけ伝えられ、上級貴族の生徒達はステファニーの処罰に納得した。上級貴族が納得したのに下級貴族の私達が騒げる筈もない。ただ上の判断に従うしかなかった。
「これは…少しひど過ぎやしないかしら。」
「でも私達には詳細は伝えられてないからなんとも言えないわよ。」
私達の間には妙な沈黙が訪れた。どちらが悪いかなんてわからないのだから私達がどうこう言える問題じゃない。
(ステファニーは私に友好的に歩み寄ろうとしていた…。)
私の頭は警鐘を鳴らしていたが、ステファニーは私に歩み寄ろうとしたことは確かだ。まるで最初の頃のガブリエルのように。しかし私にはどうすることもできない。自分の無力さを呪った。
「オキニス伯爵令嬢を助けられなくとも、せめて私達にも詳細を公開してもらえるよう、掛け合ってみるわ。」
「そうね!エルリカは生徒会役員だもの!」
「頑張って!」
思い立ったら即行動。私は廊下へと続く部屋のドアに手をかける。ドアは私が開けるより先に開いた。
「あれっ?」
私の部屋の前には3人の生徒が立っていた。顔は見たことあるが、名前も知らないし喋った事もない。そんな人達が私に何の用だろうか。そのうちの1人が私に紙を突き出しながら言う。
「エルリカ、貴女は平民クラスに移って貰います。」
「は?」
そんな間抜けな言葉が飛び出した。たしかに身分は平民だが、トリフェーン男爵家が後見してくれているから…貴族クラスに在籍できている筈。
「何でですか?」
「貴族クラスに相応しくないと、評議会で決定致しました。」
評議会?そんなものがいつ開かれたというのだ。というか生徒会役員である私が学園で起きた事を知らないはずがない。もしかして隠蔽されたのか?
「それに学費も滞納していますし。勿論、学費滞納者を生徒会に置いておくわけにはいかないので、やめて貰います。」
学費滞納?トリフェーン男爵家が払ってくださっているはず。滞納なんて何かあったのだろうか?今すぐ帰りたい…けど出来ない。今はこの現状をどうにかしなくては。
「よく分かりませんが、学費滞納の件は少し時間をください。そしてクラス移動の事ですが、詳しく説明してください。」
目の前の生徒はニヤリと笑った。
「男爵家の後見があるとはいえ貴女は貴族では無いので貴族クラスに在籍しているのはどうかと、評議が行われた結果満場一致で貴女を平民クラスに移動が可決したのです。ですから、明日からは平民クラスに行ってくださいね。」
生徒が突き出した紙には丁寧にも学園長の公認のサインまで入っていた。学園全体で私を平民クラスに移動させたかったわけだ。
******
「私の力で貴族クラスに戻してみせます!」
ガブリエルは私が平民クラスに移動することになったと聞くと怒ったように言った。その様子だと私を貴族クラスに戻すだけじゃなく、私を平民クラスに移動させることを可決した評議会のメンバーまでも潰してしまいそうだった。
「貴女が私の為に動いたら不自然よ。やらなくていいわ。」
「しかし…。」
「何?私に口答えするの?」
そう脅すとガブリエルは黙った。私が欲しいのは絶対服従の者のみ。口答えするようならすぐさま捨てる。そんな意味を込めた言葉はガブリエルによく効く。彼女の心と体の性が違うことから家族から疎まれるという不幸な生い立ちからか人一倍…いや、人百倍自己顕示欲が強い。しかも私に対して。奴隷として認めて貰いたいという歪んだ感情がガブリエルの行動力の源だった。そんな彼女は私に用済みとされる事を恐れている。私がガブリエルを捨てようとする事をほのめかせば彼女はより従順になる。
正直、本当に疲れる。しかしお父様の復讐を成し遂げるためのたったひとつの切り札。捨てるに捨てられない。
「それよりお父様を殺した犯人に目星は付いたの?」
「個人の特定…までとはいきませんがそれに繋がりそうな情報なら。」
「それは何。」
「貴族の派閥です。」
貴族の派閥なら知っている。公爵を筆頭とした派閥の事だ。公爵家五家の数だけ派閥がある。と言ってもその内一つは宰相家であるから派閥は無いのだが、宰相家はなんやかんなやで中立派のトップになっている。トパーズ公爵家の派閥もあったが今はトパーズ公爵家の位置に別の公爵家がある。
「派閥は違えど皇室には絶対服従の貴族ですが、皇室に反発する貴族勢力がいるようです。その貴族達は所属している派閥は違いますが、皇室に反発する者同士を集め密かに新たな派閥を作るそうです。貴族を中心とする…その名も貴族派。まだ、誰が所属しているかなどは分かっておりませんが主な活動は帝国をよく思っていない属国達に武器や情報を流しているようです。」
そんな事したら…帝国に真っ向から反対しているような者じゃない…!まるで帝国の敵……あ。お父様が言われた言葉…帝国の敵。
「間違いなさそうね。」
「本当ですか!」
「もっと詳しく調べておいて。」
「はい。」
きっとお父様は貴族派を暴こうとして貴族派にはめられたんだ。貴族派にお父様を殺した仮面の男がいるはず。
「本当によろしかったのですか。平民クラスに移動なんていう屈辱……。」
「いいって言っているでしょ。私は平民なんだから。」
少しキツめの口調で眉を釣り上げるとガブリエルは黙った。さっき私がどんな表情をしたかは見れないが自分の顔は鏡で毎日見ている。ただでさえつり目の悪人顔だというのに眉を釣り上げるととんでもない形相になるのは自分でも知っている。




