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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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芸術祭 II

あ、ここ見たことあるぅ。ここに来たということは何かしらの悪いことが起こったのだろう。2回目の学園付属の病院の病室だった。


「あれれれれれれれれれれれれれれ?」


まーーた、これはアリスが塞ぎ込むパターンか⁈今回アリスに非はなさそうだが?感受性豊かだから勝手に影響受けちゃうのか⁈だが、病室を見回しても生徒会メンバーどころかサラとカオルも見当たらない。


「あれれれれれれれれれれれれれれ?」


叫んでいると病室に看護婦が飛び込んできた。気がおかしくなったとでも思われたのか?ちょっと…いや、だいぶ恥ずかしい。看護婦の後にまた看護婦、看護婦、看護婦と続き、やっと医者が入ってきた。


「あ…えっと私どうなったんですかね?」


私がそう尋ねると医者は真剣な顔で言った。私は熱中症になっていたのだと。聞きなれない病名に…というか医学の方面に詳しくない私は全ての病名が聞きなれないが、私は首を傾げた。

私が倒れてからも芸術祭は滞りなく進んだらしい。私は特に仕事が無かったので大きな損害にはならなかった。とにかく、その熱中症というのは命を落とすこともあるらしい。私も結構危なかったそうだ。


「芸術祭…終わっちゃったんですね。」


あれだけ準備して来たのに終わるのはあっという間だ。しかも準備した私は芸術祭を一切楽しめずに終わってしまっている。


「芸術祭より命が大事ですから。」


医者はそう言うと病室を出て行った。今回は一晩だけの入院ではなくしばらくの間の入院だ。


「なんで準備した私が報われないのよーーーー!!」


わあああああああああああ。泣き出したい。…けどここで泣き出したら頭がおかしくなったと思われかねない。入院している間、勉強やガブリエルとの密会はどうしよう。そして大量に溜まっているであろう会計の仕事…。これはただの無償の奉仕活動じゃないか。芸術祭という楽しい事は参加できずに大変な準備や後片付けだけをやる。しかも今回の原因が自分の体調管理不足だったなんて。私の馬鹿馬鹿、と頭を殴りたい気分だが頭を殴るなんて普通じゃない、頭がおかしくなったと思われかねない。私はやり場のない怒りを枕にぶつける事でなんとか怒りが収まったのだった。



******



その後一週間ほど学園付属の病院で過ごした。病院内でも勉強を続けたが、やはり授業に出れないのは痛かった。退院当日の朝、今まで見舞客の1人も来なかった私の病室の前にカオルが来ていた。


「あ、カオル。私退院したわ。」


「おめでとうエルリカ。」


退院祝いの言葉をくれたのはカオルだけか…。トホホ……。勿論、大勢の人に心配してもらいたいなんて思ってはいない。だって私は皆から愛される人間じゃ無いもの。皆から愛されるのはアリスのような優しい聖女様の仮面を被れる者だけだ。お父様の復讐の為に生きる私を愛する方が難しいのだ。それでも…友人のサラとカオルには心配してほしい…なんて期待してしまっていた。


「早速で悪いけどエルリカ、ちょっと来てくれない?」


「えっ?何何?」


カオルは私の腕を引っ張る。ちょっと…私病み上がりなんだけど!(元)病人に厳しいですね、カオルさん。

カオルに引っ張られ連れてこられたのは芸術祭のメイン会場だった。しかし芸術祭が終わった今は装飾は外され通常の講堂になっているはずだ。バンっとカオルが会場のドアを開ける。舞台には大勢の人影があった。


「え、何?」


本当にえ、何?の状態だ。スポットライトが当たると舞台の真ん中にはアリスがいた。そのアリスの隣には豪華なハープがあり、その後ろには見慣れない顔の聖歌隊がいた。聖歌隊であることから平民クラスの人だろうか。


「エルリカさん、芸術祭だよー!」


そう言ってアリスはこちらに手を振る。アリスの左隣にはグランドピアノがあり、ステファニーが座っていて右隣にはヴァイオリンを持ったサラがいた。


「うわー、ヴァイオリンなんて久しく弾いてないわぁ。でもエルリカのためとあらば!」


「せっかくの芸術祭に参加できないなんて可哀想ですからね。雰囲気だけでも味わってもらえれば。私もピアノ、頑張ります。」


そう言って3人の演奏と聖歌隊の合唱が始まった。これだけの人が芸術祭に参加できなかった私の為に動いてくれたのか?嘘、私は好かれている…よりは嫌われている自信の方があった。公爵令嬢時代、メイドを虐めるだけでは飽き足らず身分が高いことをいいことに下級貴族の令嬢に中々酷いことをしていた。2年ぽっちじゃ消えない傷を幾人にも植え付けて来た。そんな私を嫌う人物は多いだろう。虐められた本人は勿論、本人の関係者その虐めの実態を伝え聞く者。その全員が私を嫌った。


それでも……ここにいる人は私がどれだけ愚かな行いをしたかを知っているにもかかわらず私の為に動いてくれたのか……。


「エルリカ、来年こそは芸術祭ちゃんと参加しようね。」


隣にいたカオルが私に微笑みかけた。


「ええ。来年こそは……ね。」


そこで演奏は終わった。私とカオルは舞台の近くに駆け寄る。走るなんてはしたないと言うものはいなかった。


「え?なんでこんな事を?」


アリスが提案したのだろうか。というかここまでやってくれるほどアリスが私を好いてくれているなんて思ってなかった。


「だって、芸術祭参加できなかったでしょ?」


「だからってこんな……。」


「結構いろんな人がエルリカさんのこと心配してたもん。」


話を聞くと私は成績上位で、しかも生徒会入りした元貴族の子として有名だったらしい。そして身分剥奪された身にもかかわらず自分の信念を曲げず、貴族の誇りを持ち続けてる……と廊下での一件が大分捻じ曲がって平民クラスでは私の武勇伝のように語られているらしい。


つまり私は柄にも無く好かれていたらしい。


「あの……本当にありがとう。嬉しかった…です。」


アリスの後を追って誰も居ない舞台裏へと足を踏み入れた。薄暗くアリスの表情がよく見えない。


「それは良かったぁ!」


顔は見えないが声色から大体の表情の察しがついた。……よし、もう一度あの事を聞いてみよう。アリスが聖女の仮面を着けている真意を。あわよくば仲良くなれたらなぁ〜なんて……。そして昔の非礼を謝りたい。


「あの、私貴女に謝りたいことがあって…。」


「ああ、昔の事でしょ。別に謝らなくていいよ。」


さっきまでの優しい声色から急に冷たくなった。普段のアリスからは想像もつかないような抑揚のない声に私は一瞬かたまってしまった。アリスの表情が今はわかる。貼り付けた笑顔じゃなく…無表情、きっとこれが素のアリスだ。


「まぁ、私貴女を恨む気は無いけど許す気もないから。」


そして一呼吸置くとまた冷たい声で続けた。


「私貴女と馴れ合うほど落ちぶれてないから、じゃあね。」


アリスはそう言うと私の隣を通り過ぎた。舞台裏から出るとアリスはもう笑顔を貼り付けていた。


馴れ合うほど落ちぶれてない……これがこの前の質問のアリスの本当の答え。


「聖女様も所詮は人間じゃない。」


良かった…ああ良かった。善の塊の様な聖女様の仮面が素だったらどれだけ気持ち悪かったことか。それでも私の謝罪は受け取ってくれなかったのか。


(聖女様の仮面を着けて謝罪を受けたら必ず許さないといけないしね。)


聖女の前ではどんな罪も許され、慈悲が与えられる。そんなこと素のアリスは私にしたくないわよね。私の謝りたいという思いはただの自己満足でしかない。


言葉だけじゃなく行動で示さないと謝罪は受け取ってもらえそうにないな。


私はアリスに続いて舞台裏を後にする。しかし私は気づかなかった。この舞台裏には私とアリス以外にもう1人いることに。

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