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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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芸術祭 Ⅰ

芸術祭当日。私達生徒会役員は早朝から忙しかった。裏方の仕事は全部生徒会がやるのだ。それ、教師の仕事だろと思うものまで仕事内容に含まれてくる。何でも、生徒が自分で解決する能力を育てる為らしい。この学園は貴族の令嬢令息に何を求めているんだ、甘やかされて育ったならまず無理だろうね。生徒会に皇族や厳しく育てられた貴族がいる為何とか回っているようなものだろう。


生徒会全員で早朝から確認作業して当日の準備をして、芸術祭開催30分前にやっとお客様をお迎えすることができた。

帝国の皇族や貴族は勿論、外国の王侯貴族、要人などそうそうたる面々ばかりだった。他の生徒会メンバーは貴族である為どうってことはないだろう。しかし私は貴族では無いのだ。粗相しないか汗が噴き出す。トリフェーン男爵家が付いてくれているとはいえ男爵家だ…貴族の中ではあまり権力を持っていない。私はただの使用人だからいざとなったら切り捨てられるだろう。


「芸術祭、成功させるぞー!」


1人、この場に場違いなリーダーシップを発揮している者がいた。アリスだ。勿論ステファニーはあまりいい顔をしていない。だが皇太子の婚約者で、公爵令嬢だ。それにこの学園の創設者の娘である為無下にできない。


(何で…ここにいるの。)


わざわざ早朝から来なくても普通に客として来れば良かったのに。ただでさえピリピリしている空気がアリスの空気の読めない発言で余計にピリピリした。まぁ、ピリピリしたのは私とステファニーだけだったらしい。ルイス達は顔の緊張がほぐれたようだった。(と言っても、3人ともほぼ無表情なので緊張とかしていたのかすら怪しいがアリスのおかげで笑顔になっている。)


アリスは今日もやっぱり心優しい聖女様の仮面をつけている。普通の人なら彼女は心まで聖女だと疑わない。私はアリスを同類だと思っている、それは私がアリスと同じく聖女様のようだというわけではなくアリスも私と同じように人間味があるはずだろうということだった。私は人を見る目はある気がする。その聖女の仮面はどうやら完璧では無いようだ、感情の起伏で幾らでも綻びは生じる。この前の私の不意な質問でも綻びは生じた。完全に外れることはなさそうだが。


とりあえず生徒会の早朝にやる仕事はこれで終わりだ。他にも生徒会の仕事はあるけども私の会計職がやる事はこれで終わりだ。会計の仕事は芸術祭が終わった後に大量にある。準備にかかった予算と回収出来たお金、それを計算しなければならない。莫大な金が動いているのでそれを計算しなくてはならないと考えると今から鬱になる。

さてと、私はサラとカオルと一緒に芸術祭を回るとするか。


「私と一緒に回りましょう?」


グイッと乱暴に腕を引っ張られ、誰だ⁈とそちらに顔を向ける。ステファニーがガッチリと私の腕を掴んでいた。こ…この人上品な顔しているのに意外と力が強い…。剣術や乗馬でもやっているのだろうか。腕は振りほどけない。私はメイドの仕事でそこそこ筋肉がつき、そこら辺のヘナチョコ令嬢には負ける気はしなかったが何か特別に鍛えている令嬢は別だ。メイドの普通の業務で出来る筋肉と特別に鍛えた筋肉ではつき方が違うのだ。無理に振りほどけないなら口で断るしか無い。


「オキニス伯爵令嬢は、お友達と回ればよろしいではありませんか。」


「言ったではありませんか。同じ生徒会の仲間として仲良くなりたいのです。」


私の体が全力で警報を鳴らすが、頭では拒絶しているからと言って実際に拒絶出来る状態じゃ無い。あの取り巻き達と一緒に御山の大将でもやってればいいものを…!


「私、友人と一緒に回る約束をしているのです。」


「なら私も一緒に回らせてもらうわ。」


はーい、私の楽しい芸術祭は今終了しました。おいおい、ステファニーさんよぉ。どうせ回るならこんな女よりも貴方の片想いの相手と回った方がいいんじゃ無いですかね?適当に生徒会関連の理由を付けたら意外といける気がしないこともない。まぁ当然アリスは付いてくるだろうけど。


「ねぇ、みんなでまわろっ!」


えっ?


アリスが眩しい笑顔をこちらに向ける。はい、一緒に回るメンバーが増えました☆断ろうかとも思ったがアリスの後ろから3人がアリスの誘いを断るわけないよな?みたいな圧をかけていた為断れなかったのだ。



******



「な…何でこんな事になってるのよ!」


「私にだってわからないわよ、説明しなさいよエルリカ。」


サラがカオルにそっと耳打ちする。そしてカオルは小声で私に説明を求めた。ごめん、本当にごめん2人共。私は…勇気が出なかった。あの凄い圧の中アリスの誘いを断ろうなんて自殺志願者以外いないよ…。それとなく私に先約がある事を伝えても人数が多い方が楽しいよ!だって。そこは嫌がって私との同行を拒否して来れたらどれだけ良かったことか。

私達3人はお互いが粗相しないようにつねり合いながら極度の緊張を緩和させていた。それでも滝の様に汗は止まらない。その汗を誤魔化す為に扇子をパタパタと仰いでいた。


「あら、エルリカさん暑いですの?」


ステファニーがこちらを見る。私の汗に気づいた様だった。残念ながら汗は暑いからじゃなくて極度の緊張によるものだが。汗を大量にかいていることを心配してくれているのならお願いだから離れてほしい。そんなこと言えるわけもないが。


「あ…あ…そ、そうですわね。」


声が裏返りそうになるとサラが手を周りに見えない様に抓ってくれたおかげでいつも通りの声色で何とか話せた。幸いな事に季節的にも暑いのは不自然ではなかった。


「エルリカさんは汗っかきさんなんだね。」


アリスが言う事によって汗っかきというワードは可愛さが含まれたが女性に汗っかきなんて言うのは失礼ではないか?まぁ、事実なんだけど。汗をかく原因が自分だとは気づかないのだな。


「エルリカさん、あちらのガゼボで休みましょう?汗が異常ですわ。」


ステファニーが私の手を引っ張る。いや…心配してくれるのはありがたいけど、貴女が居たら休める気がしない。


「確かに昼からは日光が強くなるよね。アリス、日傘は持ってる?」


アレンの問いかけにアリスは少し慌てた。


「どうしよう、生徒会室に置いてきちゃった。」


「俺がとってくるよ。兄上達はガゼボで休んでて。」


そう言うとケイジは後者の方へと消えていった。第二皇子だというのに自分で取りに行くのか…。確かに人望が厚いのも頷ける。

第二皇子ケイジ・サファイア。第六皇妃ケイシア・ダイヤモンド・サファイアの一人息子。母のケイシアはアリスの父リアムの妹でケイジとアリスは従兄妹に当たる。シルバーの髪と青い目をしたイケメン。母親譲りの武術の才能があるらしく、体は筋肉が付いていることがうかがえる。母親譲りの武術の才能…とは、第六皇妃ケイシアは皇妃になる前は第三騎士団の団長だった。いずれは皇帝を支える忠臣になるはずだけど……その優秀さから皇太子から無理矢理皇位を強奪するのではないかと懸念されている。


「エルリカ、大丈夫?顔が真っ赤よ。」


サラが私の顔を覗き込んで心配している。私はサラ達よりもはるかに大量の汗をかいていた様だ。


ガゼボの中に入った為日除けができ、先ほどよりは楽になったような…。先ほどまで皆アリスの汗っかきさんというワードで和んでいたが私がただの汗っかきではない事に気付き始めたのだろう。皆がだんだん険しい表情になっていったと思ったら…………。


(あ…これ死ぬかも。)


私の体は前のめりになって倒れ込んだ。多分…。そこまでしか意識がなかった。

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