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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
28/259

伯爵の娘

私と貴方が出会った場所を貴方は覚えていらっしゃるでしょうか?




あれは私と貴方が7歳の時だった。貴方に近づいたのは貴方が皇太子だったからでした。我が伯爵家から皇后の輩出は先祖代々からの悲願でした。家の為という大義名分のもと貴方に近づきました。変に作った甘い声でそこら辺の女が貴方を落とすために言っている言葉と同じことを私も言っていました。


いつもは遠目に見るだけの殿下との距離が近づいたのは皇室主催の第二皇女ラヴァリア様のお茶会だった。社交界にデビューしているか否か関係なく国中の貴族の娘が招待された。

その日私は皇太子殿下に会いたいあまり、皇室関係者以外立ち入り禁止の敷地に入って行ってしまった。其処は皇太子殿下の誕生を祝い作られた庭園で真ん中には皇太子の誕生を記念して植えられた木が生えている。木は立派に其処に佇んでいた。私は思わず見惚れてしまっていた。その時強風が吹き私の手から扇子を飛ばす。淑女の必需品とも言える扇子、今日の日のために特注で取り寄せたお気に入りの品だ。飛んで行ってしまった事は別にいい、立ち入り禁止の場所に入ってしまった罰だと言い聞かせれば何とか耐えれる。しかし、誰のかわからない扇子を皇太子の庭の何処かに放置するのは如何なものか。

……やっぱりお気に入りの扇子を諦め切れない。私は扇子が飛んで行ったあたりの草木を掻き分けて扇子を探した。人が入るなんて想定されていない、鑑賞する為だけに植えられた植物の中に入っていったものだからすぐにドレスは枝に引き裂かれ靴には泥が跳ね返りボロボロの姿になってしまった。


「うぅ……見つからない…。」


泣くなんて淑女としてあるまじき行為だが今だけは鼻水をダラダラ流して泣いた。どれだけ醜い顔になっていることやら。


「どうした。」


冷たいその声が背中に突き刺さるようで私はビクッと体を震わせた。怒られる…絶対怒られる…。と身構える私に彼はもう一度どうした、と声をかけた。


「扇子を探していまして…。」


彼は…皇太子殿下だった。彼の追っかけをしている身としてはこんなに近くに寄れていることは嬉しい以外の何者でもないのだが、こんなシチュエーションでは会いたくなかった。彼と目が合いサッと私は目をそらす。


「皇太子殿下…御機嫌よう。」


私はボロボロのドレスの裾を掴みお辞儀をする。声は震えていた。


「扇子を探しているのか。」


「は…はいぃ…。」


変な声で返事をしたことに私は顔を真っ赤にする。そしてドレスがボロボロである事で肌が透けているのに気づくと恥ずかしさのあまり俯いてしまった。すると皇太子殿下は植物が生えている中に入って行ったのだ。


「殿下、何を⁈」


私が慌てふためくが御構い無しに殿下は、中へと入っていった。殿下のマントも手袋もボロボロになりながら、私の扇子を差し出した。


「あ…ありがとうございます殿下。しかし殿下の服が…。」


殿下の姿も私と同じようにボロボロの状態だった。


「見つかったのだからいいだろう。早く出なさい。」


「はい、申し訳ありませんでした。」


それ以上殿下と共に時間を過ごす勇気がなかった為私は殿下にお辞儀をすると足早に皇太子の庭から走り去った。淑女としてはしたない事をした後ろ姿を殿下に見られていたのかと思うと恥ずかしくて死にたくなる。

最後まで殿下は私に対して素っ気ない感じの言葉しかかけなかったが、私に話しかけ扇子を探し出してくれたことでいつも冷たいお方が私にだけ胸の奥の優しさを見せてくださったのだと思うと、今までは家の為にあの人に好かれたいと思っていたのが1人の女として好かれたいに変わったのだろう。


そもそもあわよくば彼の目に留まって妃になりたいと考える追っかけの令嬢達にとって婚約者が居ようが御構い無しだ。たとえ側室であろうとも自分の子供が皇太子になれば実質正妃扱いだからだ。だから危険なリスクを犯して婚約者であるダイヤモンド公爵令嬢を蹴落とすよりも少しでも殿下に気に入られて側妃となった方がいいのだ。

そしてその理論を後押しするかのように私が11歳の時、同じく殿下の妃になることを熱望していたトパーズ公爵令嬢の家が罪人として潰れた。彼女は側室になることで満足する人じゃなかった。ダイヤモンド公爵令嬢を蹴落とそうと影で彼女の悪い噂を流したり、間接的な虐めをしていた。直接彼女に繋がる虐めがない為虐めの犯人をトパーズ公爵令嬢だという証拠が掴めなかったらしいが父であるトパーズ公爵の罪が露見して彼女は貴族社会から去った。


トパーズ公爵令嬢は殿下の妃を狙う令嬢達に語り継がれる存在となった。(勿論、悪い意味で。だが、エルリカを支持する数少ない令嬢達の中ではダイヤモンド公爵令嬢を蹴落とそうとした勇者として英雄のような扱いで語り継がれているらしい。)


そんな彼女が学園に入学したと聞いた時には驚きが隠せなかった。後見にはトリフェーン男爵家が付いているというので尚更だった。彼女がまだ妃の座を狙っているなら恐ろしい…。彼女なら文字通り何でもやるだろう。

今のところ彼女にそんな素振りは無いが…。彼女は諦めたのだろうか?この2年の間に……、それとも彼女のアプローチの仕方が変わったのかまだ行動を起こしていないだけなのか。


(彼女…友人の為に諦めるってタイプじゃないわよね…?)


彼女と親しくなり私が殿下に好意があることを伝え諦めてもらう。それが出来れば1番の不安の種を取り除ける。しかし彼女が人のものを盗るタイプだったら…?もう好意はないのにもかかわらず、私が好意を寄せていると知ったら盗るタイプかも。自分で自分のライバルを増やす行為かもしれない。


まだ……行動に移せない。この前エルリカの方から会話を遮ってくれて良かった。あの時でさえ本当にいいのかと悩んでいたのだから。


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