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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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亡き侯爵令嬢の鎮魂歌

新学期が始まった。休みの期間ずっと学園にいた私にとってはメリハリの無いものだったけど。


「エルリカ、久しぶりね!」


大きな荷物を持って寮に帰って来たのはカオルだ。


「カオル、久しぶり。」


お互いの近況報告や、カオルのヒスイ国のお土産をもらったりと部屋の前で話し込んでいると聞き覚えのある声が聞こえた。


「私も話に入れてよ。」


「サラ⁈久しぶ……り…え?」


振り返るとそこには筋骨隆々なムキムキなたくましいご令嬢がいた。


「あ…貴女ホントにサラ?」


カオルが訝しげに尋ねる。


「やだぁ〜カオル、正真正銘サラ・オブシディアンよ〜!」


「私こんなムキムキな方知らないんだけど。」


声は間違いなくサラなのに記憶にあるサラと目の前にいる方が結びつかない。


「あっこれ?」


サラ(らしき人物)は腕をぐっと曲げて筋肉を見せてポーズを決めた。


「これは補習授業の賜物よ!」


「いったい何があったのよ。」


カオルは呆れながらサラの筋肉の元凶となった補習授業について聞き出す。聞くところによると補習授業という名の軍事訓練だったらしい。完全装備の状態で10キロくらい走らされたり度胸試しとして崖から突き落とされたりしたらしい。(そしてその崖を登ったらしい。)


「ねぇ、勉強はいつしたの?」


聞けば聞くほど訓練ばかりで勉強したという話が聞こえない。


「え?勉強…。」


サラは筋肉を魅せるポーズを繰り返しながら首を傾げて考えた挙句、


「してないわ!」


と答えた。


「補習じゃないじゃない!!」


カオルが青ざめながら叫ぶがサラは訓練の魅力に取り憑かれてしまったみたいだ。補習から逃げていた頃と違ってまた来年も補習受けたいな〜などと言っている。元軍人のスパルタ教師……。確か新学期が始まって1人教師が解雇されたような。


そしてサラの来年も補習を受けたいという願いは叶わないのである。



******



私は誰もいない生徒会室に1人黙々と庶務の仕事をこなしていた。他3人は外での仕事なのでいなくて当然だが会計……ガブリエルだけ居ないのは不自然だった。


(確か今日は休みなんだっけ。)


ガブリエルが休むなんて違和感しかなかった。空いた彼女の空席を見つめながら私は彼女の事を考える。


(もう…友達なんだよね。)


最初はラリマー侯爵家と関わりが持ててラッキーとか思って私の復讐に利用してやろうと考えていた。そんな自分が嫌いだ。何でもかんでも自分優先だ。ガブリエルとの友情より復讐を優先している。ガブリエルの家の権力で少しでも私が有利なように進めるように…とそんな汚い下心からだった。だから休んだくらいで心配しているのは利用しようとしている下心よりも友情が勝った瞬間だった。


(私達は友人よ。利用するのも利用されるのも御免だわ。)


ガブリエルとは一から始めよう。そしてラリマー侯爵家の権力を利用するんじゃなくて何か別の方法を探そう。卒業したら終わる縁だとしても良心が痛むのは嫌だ。


それでも権力が無ければ復讐相手とその悪事を探し出すことも出来ないのだ。現状ラリマー侯爵家を利用する以外の名案が浮かび上がるわけもなかった。


その時廊下の方が一気に騒がしくなった。生徒会室の廊下は特に他の生徒が利用する教室なんて無いのでいつもは静かだ。しかし今はザワザワとした人々の声が気になって仕事どころではない。


(用がない限り生徒会室近くに来るのは厳禁よ!)


ここは生徒会役員権限を使って注意しに行こう。生徒会役員だからと言って私の身分が上がるわけではないので貴族相手にはやんわりと注意しよう。廊下には多くの人が集まっていた。彼らが見ているのは中庭のようだった。生徒会室のは三階にあり中庭を囲むように建物が建っている。中庭側に廊下が位置し大きな窓から中庭が眺められる造りになっていた。中庭にも人が大勢集まっているように見えた。


「あっ、すいませんね〜。通して下さ〜い。」


そう言いながら人混みをかき分け窓の所まで辿り着いた。窓から中庭を見下ろす。人混みの中心にはガブリエルがいた。


(あれ?今日は休みじゃないの?)


「あれラリマー令嬢じゃない?」


「本当だわ。」


「男の格好してるわよ。」


「男装の麗人ってやつ?」


周りにいた人々が口々にガブリエルの憶測を言い始める。ガブリエルは男の格好をしていた、髪が短いのもあり男装しているというよりは女装していた男が元の姿に戻ったと言った方が自然と納得できるくらい違和感がなかった。中性的な顔と声で男だと言われても女だと言われても不思議ではない人だった。しかし男の格好をすると男以外の何者でもなかった。


「ガブリエル!」


私は気づいたら階段を駆け下りて中庭に出ていた。ガブリエルと呼び捨てにしてしまったけど、周りの目を気にして


「ラリマー侯爵令嬢…。」


と言い直した。中庭に集まっていた人々も中庭が見える廊下に集まっていた人々も私の登場により更に騒めきが大きくなった。


「ラリマー侯爵令嬢…今日は休みだと思っていましたわ。とりあえず生徒会室に移動しましょう。」


ガブリエルは黙ったまま頷いた。私達が通ろうとすると人々は自然と道を作った。生徒会室に着くとガブリエルは安心したように革のソファに腰を下ろした。


「ガブリエル、今日は休みじゃなかったの?」


「休むことにしていたんだけどどうしても話したいことがあって。」


そう言うとガブリエルは顔を下に向けた。そして顔を上げた時には決意が固まったかのような表情だった。


「私の祖父が死んだんです。死んでから迷惑がかからないように準備しておいたんでしょうね、報せが来て家に行ったら即葬儀でした。」


「そ…そうなんですか。」


話が見えてこない、ガブリエルの祖父が死んだ話を私にしてどうする。悲しんでもらいたいのだろうか。


「私は祖父の遺産全部を相続しました。私と一緒について来てくれませんか?」


「え?何言ってるのか全然…。」


「祖父の遺産で私が侯爵家から出る資金が出来ましたので私と一緒に逃げてくれませんか?もちろんトリフェーン男爵家にはお金を払いますから!」


泣きながら懇願されているがイマイチ話について行けない。ちょっと話が急に進みすぎじゃないだろうか。何で私がガブリエルについていかなければならないのか。私達は一夏を共に過ごした友人であって一生を添い遂げる伴侶じゃないのだ。この申し出はあまりにも友人としての立場をわきまえていないものではないか、ガブリエルが大切な友人に変わりはないが一夏を過ごした友人と2年も世話になって今もなお継続して世話になっているお嬢様を天秤にかけると圧倒的にお嬢様の方が重いのだ。たった一夏で私の何がわかるって言うの。ガブリエルに見せていたものが私を形造る全てじゃないのに一緒に逃げてほしいなんていくらなんでも急ぎすぎじゃないか。


「何でそんな急に。私を連れて行かず1人で逃げればいいじゃないですか、私は止めませんよ。」


「それじゃダメなんです!」


ガブリエルの中で私は知らないうちに大きな存在になっていたようだ。


「ラリマー侯爵令嬢、貴女は本当我儘ですね。」


私の冷たく重い言葉にガブリエルは顔が少し青ざめたように感じた。私だって友人にこんな言葉をかけたくない。でも、間違ったことをするなら全力で止めるのが友人でしょ?


「私は貴女が好きです、だから貴女と一緒がいいです。わっ私体は男だから、形だけなら普通の結婚ができます!」


「はぁ…。」


結婚?私達は友人であって結婚をするほどの間柄ではないはずだ。それにしても体は男…だから男装か、私にプロポーズするにあたって私が女となんて無理だと言っても男だから大丈夫だと保険をかけたのか。


「祖父の遺産もありますし、私も貴女が不幸にならないようずっと働き続けます。」


ここで拒絶してしまうのは簡単だ。でも私に求婚してきた時点でガブリエルは友人として認識できなくなった。私にとってガブリエルは拒絶対象に成り下がった。本当、我儘な人。


「奴隷宣言みたいですね。」


「はいっ、貴女と居られるなら私は奴隷でも構わない!」


「なら、私の奴隷になってくれませんか?」


彼女を拒絶対象として拒絶するよりも、もう友人として見れないのなら利用するだけ利用しよう。心は何故か痛まない、それは私が悪女だから?今はそんなことどうでもいいガブリエルは私の幸せの為に働くと言った。私の幸せはお父様の復讐を果たすことよ。

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