表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
21/259

侯爵令嬢は普通になりたい

ガブリエルは自身の家、ラリマー侯爵邸へと足を運んでいた。学園との距離が近いので寮からでは無く家から通っている。ガブリエルにとって家は居心地のいい場所ではなかった。父からも母からもそして兄からも疎まれていた。ならいっそのことほっといてくれと願っても家族達はガブリエルを見るたびに嫌味を言う。時には怒り、勝手に呆れ、勝手に失望する。使用人達も決して自分を理解してくれない。家に入るといつものように使用人達が出迎えた。


「お帰りなさいませ、ガブリエル様。」


いつもならこの時間は家族は居ないはずなのに今日は運悪く家族全員が揃っていた。


「あら、ガブリエルお帰りなさい。」


母が扇子をパタパタ仰ぎながらまるでゴミでも見るかのような眼差しで私を眺める。いつもパーティー三昧でろくに家に居ないのになんで今日に限って居るのだ。


「ただいま帰りました。お母様今日はパーティーには行かないのですか?」


「もうすぐフローライト学園の芸術祭が近いでしょう。だからパーティーじゃなく家でゆっくりしようと思ったの。」


「そうですか。」


憂鬱だ、芸術祭に来るのか。せっかくエルリカと一緒に演奏を聴いたり色んな出し物を見て回れると思ったのに。家族がいるだけでそれは叶わなくなる。父は仕事、母は旅行、兄は父の仕事の手伝いで去年は来なかったのに。私は母の隣を通り過ぎてさっさと自分の部屋へ行こうとする。


「またそんな格好で外へ出て。ラリマー侯爵家の恥晒しが。」


いつもパーティー三昧で家のことなんて心配したことないのに私を恥晒しだと言うのか。自分がパーティー三昧で侯爵夫人の務めを果たせていないことの方が恥晒しだろう。


「ご心配なさらずとも私は完璧な侯爵令嬢として通っていますから。」


そう言って階段を登ろうと一段目に足をかけた時に父が居間から出てきた。


「ガブリエル、こちらに来なさい。」


父も母と同じく私を恥晒しとして怒るのか。叱るのではなく、ただ自分のストレスの捌け口として怒る。本当に父も母も勝手な人だ。この2人は侯爵と侯爵夫人としての器じゃない。そしてこの2人に溺愛された兄も侯爵位を継げる器じゃない。まぁ、私は随分と変わっているから愛される訳ないと思っている。

居間には父のほかに兄がいた。母も後ろからやって来てソファに座る。


「ガブリエル、お前はラリマー侯爵家の一員としての自覚があるのか。そんな格好で外へ出るなんて飛んだ恥晒しだ。」


「髪を伸ばせば変じゃないですよ。」


私は兄と同じくらいの短さの髪をかきあげてみせる。父は私が髪を伸ばすことを許さなかった。少しでも伸びたら父がハサミで切り落とした。だから私はずっと髪が短いままだから、髪をロングにした事なんてない。


「髪を伸ばしたら女じゃないか。ラリマー侯爵家の次男として女の格好なんて恥ずかしいと思わないのか。」


ズキリと胸が痛む。私は男扱いされるのが嫌だ。小さい頃から男として扱われるのに嫌悪感があった。剣の稽古なんてしたくない。女の子みたいに人形遊びをしたりしたかった。そんな私を兄は軟弱だと笑った。


「私はお前をそんな子に育てた覚えは無い!」


父がそう叫んだ時何かがプツンと切れた。私を育てた?私を育てたのは父でも母でも無い。私を育てたのは乳母で剣術を教えてくれたのはラリマー侯爵家の騎士達だ。そして私に愛情を注いでくれたのはただ1人祖父だけだ。私が女の子になりたいと言うと父や母のように怒鳴りはせずにただそうか、と一言静かに認めてくれた。私が世間でラリマー侯爵令息ではなくラリマー侯爵令嬢として通っているのは祖父のおかげだ。私は必死に男に変化する己の体に抗い見た目はほぼ女の子だ。それでも、どうやっても男の証は消えない。私の体についている男の証はお前はどう頑張っても女にはなれないという呪いのようだった。


「私はあなたに育てられた覚えはありません。」


私はそう叫んだ。まだ父が何か怒鳴りそうになった時私は自分の部屋に戻る為居間を出た。父以外にも母と兄の私への怒鳴り声も聞こえたが何を言っているかは分からなかった。部屋に戻ると私はその場にうずくまった。ただでさえ嫌いな家族と顔を合わせたというのに喋った内容は私にとっては辛い以外の何者でもなかった。


「私は………女なんだよ…。」


女…その単語を口にすると後から罪悪感のようなものが溢れ出てくる。どうしようもなく苦しくなって私は刃物を左手に刺す。意識が痛みに向いて私の苦しみは一時的に楽になる。私の腕には気持ち悪いほどの傷跡でいっぱいだ。それをいつも長袖で隠す。

私は…女だ。でも、女の子が好きだ。彼女に会った時私は恋に落ちた。女の子に恋をするだなんて私は体と同じく男では無いかとショックを受けたのを覚えている。そんな時に出会ったのが女性初の文官ゴールデンオーラ伯爵令嬢が記録した『リューエル教ヴィヴァルーヴァ派について』という記録だった。ヴィヴァルーヴァ派はほかの派閥に比べて閉鎖的であり、誤解されることも多いがその真実を書き記した記録だった。その記録によるとヴィヴァルーヴァはとある下級神と恋に落ち堕天したため、恋愛について自由な価値観を持っており恋愛結婚を認めているというか、むしろ推奨している。そのため、ヴィヴァルーヴァ派の教会は駆け落ち婚や同性婚をしたい恋人達の救済の場になっている。信者の中には同性愛者や体と心の性が一致しない者が数多くいるという。この記録を読んで私は救われた、私はひとりじゃないと思えた。そしてこの記録を残してくれたゴールデンオーラ伯爵令嬢に感謝し、憧れた。男としてでなく女として憧れた。彼女のようになりたいと思い、女性として働こうと決意した。この家に残っていても辛いだけだからさっさと出て行こうと思った。どうせ、祖父の古い繋がりのおかげでラリマー侯爵家は成り立っているのだから祖父が亡くなったら父だけでは名門ラリマー侯爵家を維持できるか不安な所だし勝手に没落するだろうから没落する家からはさっさと出て行くのが一番だ。

その時ノックも無しにメイドが部屋に入ってきた。


「ガブリエル様大変です!」


「ノックせずに入るなんて…。」


「あぁ⁈」


メイドは私の腕に刃物が刺さっているのにビックリし、バタバタと出て行ったかと思えばまた戻ってきて救急箱を抱えていた。


「なっ何が合ったのですか⁈」


刃物は深くは刺さっておらず包帯を巻くだけで済んだ。


「それより、急に入ってきてどうしたの?」


「それが…、ガブリエル様のお祖父様が亡くなられたと連絡が………。」


「嘘…。」


嘘でしょ。この一言に尽きた。高齢ではあったがまさかこんな急に逝くなんて。現実味がなく実感が持てなかったからか涙も出なかった。必ず人は死ぬとわかっているのにいざその現実に直面すると悲しくなるものだと誰かが言った…いや書いたのか?どっちでもいいがその誰かは嘘吐きだ。私は悲しみという感情が湧いてこない涙も出ない薄情者に成り下がったのだ。

階下からは慌ただしく人々が動く音が聞こえ、これが現実に起きた事だと教えているかのようだった。今日は最悪な日だ。最悪な日常が最悪な非日常に変わった。私は祖父の邸宅に行く準備を始めた。



******



祖父の邸宅に着くともう大勢の人が集まっており私達親族の登場を待っていた。祖父の遺言通りに葬儀が執り行われラリマー一族の中で1番権力を持つ者が父になった。

女の私は祖父と共に死んだ。家に帰ると父の命令で使用人達は私の服やアクセサリーを運び出し女に関するものは全て燃やされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ