生徒会 Ⅶ
「そんなの嫌!!」
声をあげたのは返答を期待していた3人ではなくアリスだった。
「私のせいでルイス達に迷惑かけちゃうのは死んでも嫌!だから、お仕事に戻って!」
最初は3人もしかし…でも…と渋っていたがアリスの説得により生徒会の仕事に戻る為アリスの部屋を出て行った。最後に残った私はアリスに話しかける。
「あの、貴女は本当は孤独なんじゃないですか?」
「え?」
アリスはいつもならあり得ないような歪んだ顔をした。こんな愚問笑ってかわしそうなのに。アリスは自分がしていた顔を見てバッと手で顔を覆って隠した。そしてすぐ顔を上げたと思ったらそこにはいつもの笑顔が張り付いていた。
「皆んなが居るから寂しくなんて無いよ!」
気持ち悪いくらい完璧に張り付いた笑顔も今回だけは所々に綻びが生じていた。
「そうですか。失礼しました。」
あえて深くは詮索せずに固い挨拶をした後部屋を出た。アリスはもっと深く聞かれると思っていたのだろう、去り際チラッとアリスを見ると驚いた様子で固まっていた。
「何を話していたのですか?」
帰りの馬車の中ガブリエルが私にそう尋ねた。
「え?」
「いや、最後までダイヤモンド公爵令嬢の部屋に残っていたので何か話していたのかと。」
「いいえ。特に話はしませんでしたよ。」
今はこれだけで充分だ。アリスの笑顔が仮面だとわかったのだから。きっとこの孤独を分かり合えるのはアリスだけだ。ガブリエルもきっといい人には違いないけどこの孤独を分かり合える人では無い。
「それにしても、ありがとうございます!おかげで勇気が出ました。」
ガブリエルは私の手を掴み自身の両手で覆った。
「あっ、さっきのことですか。やっぱり怖かったんですね。」
「当然ですよ。自分より身分の高い人に堂々と意見するのですから。」
私達はその後お互いの健闘を讃え合い、労い合った。まぁ私は何もしてないけど…。
******
芸術祭準備期間最終日、ついにこの日が来た…まだ芸術祭本番じゃないけど。ルイス達はアリスの(自称)看病で空けた期間の準備をたった1日でさばいたのだ。その様子を見て私達の努力はなんだったんだと嘆きたくなった。まったく…最初から本気を出してもらいたかったものだ。準備期間最終日は同時に夏休み最終日を意味していた。休み…なのに、生徒会役員であるがために全然休みじゃなかった。そのかわり夏休みの課題が免除されているのだが、あんな肉体労働させられるくらいなら課題やってた方がマシだった。今更ながらオキニス伯爵令嬢に譲れば良かったとさえ思えてくる。
(でも、生徒会役員にならなければガブリエルと知り合えなかったしな。)
ラリマー侯爵家の人と仲良くなれたメリットは大きかった。貴族社会で権力を持つ名門ラリマー侯爵家。令嬢であるガブリエルが政治に直結しているとは思わないが、ラリマー侯爵は政治に関わっているだろう、しかも中々重要な役職に。もっと公爵令嬢時代に政治について学んでおくんだった。学んでおけば良かったと嘆くが学ぶのは無理だっただろう。女性の社会進出が進んでいるとはいえまだまだ女性は政略結婚の道具だ。年頃になれば嫁ぎ先を見つけて結婚する、それが当たり前。私も貴族のままだったら今頃婚約者決めで大忙しだっただろう。男性の婚期は0歳〜40歳前後までと長いのに比べて女性は20歳までと短い。それを過ぎると行き遅れ、売れ残りなど散々な言われようだ。私は下女なので行き遅れても誰も気にしないが…。
ガブリエルは?ガブリエルは侯爵令嬢だから婚約者が決まっていてもおかしくない。
(私は学園を卒業したらお嬢様の元に帰るし、ガブリエルも結婚する…。仲良く出来るのは今だけなんだろうな。)
この夏休みの間に築き上げたガブリエルとの関係は今だけだと思うと、私の心が締め上げられるようだった。ガブリエルだけじゃない、サラとカオルとも今だけだ。装飾が完成した会場をガブリエルとともに二階の席から眺めている。隣にいるガブリエルに私は話しかけた。先程までは2人とも完成した余韻に浸っていたが私が話しかけたことでその余韻は徐々に薄れ…そして無くなった。
「どうしました?」
ガブリエルが私の方に顔を向けて返事をする。
「ちょっと先の事ですが卒業したらどうするんですか?」
「卒業後はまだ考えてませんね。」
「やっぱり結婚するんですか?」
ガブリエルはすぐ結婚して家に入るというより男性に混じって働くようなイメージがある。
「結婚?まだしたくないです、働いてみたいですね。」
ガブリエルの返答は私が予想していたものと同じだった。
「ガブリエルは侯爵令嬢だから働かなくても暮らしていけるのに働くのですか?」
「爵位は兄が継ぐでしょうから私が居たら邪魔ですよ。それに憧れている人がいるので。」
「憧れている人?」
「女性初の文官、ゴールデンオーラ伯爵令嬢ですね。」
ゴールデンオーラ伯爵令嬢…フローラ・ダイヤモンドに並ぶ女性の社会進出の象徴になった女性。彼女は名門の伯爵家の出にもかかわらず文官として働いた女性だ。後に結婚して文官の職を辞めているが、今も女性の憧れとして語り継がれている。
「私の憧れなんです。だから彼女みたいにカッコいい女性になりたいですね。」
何か言わなければと思い、きっとなれるよ、そんな不確かな言葉を飲み込んでこう言った。
「ガブリエルは充分カッコいいよ。」




