生徒会 Ⅴ
「すごーい!こんなに広いんですね!」
アリスが目を輝かせながら会場を眺めていた。その隣にはアリスの妹のミーナがいる。
生徒会室にずっといるのは退屈だ、なんてアリスが言うから私が学園内を案内する事になった。来年アリスは学園に入学するからその下見も兼ねて…らしい。
それにしても案内役を私に押し付けるなんて。その時丁度ガブリエルがいなかったことから私は大した反論も出来ずに頷くしかなかった。
そんなにアリスが大事なら3人のうち誰かが案内してやればいいじゃないか。婚約者と従兄弟と幼馴染だろう。別におかしくはないが、あの3人は生徒会の中でも規格外に仕事量が多い。仕方ないといえば仕方ないが…。私だって仕事はあるんだ。アリス達と一緒に居たって仕事は減らないのだ。
そんなことも知らず、あっちに行きたいこっちに行きたいと私を連れ回すアリスはきっと頭お花畑なんだろう。メルヘンチックっていうかみーんな幸せ〜とか思ってそうだ。男性の庇護欲は掻き立てられそうだが女性からのウケは最悪のそれ。アリスの後ろにお花がふわふわ飛んでそうだ。でも顔立ちは可愛いというか童顔ではなく、妖艶な美人といった感じなので私の中のもどかしさが最高潮に達する。
「次はあっちへ行きましょう!」
アリスはニコニコしながら舞台裏を指差す。舞台裏はまだ装飾途中で材料が山積みになっており、いつ崩れてもおかしくない。
「えっと…あちらは…。」
私が機嫌を損ねないようにやんわりと止めようとしたがミーナがこちらをキッと睨んでくる。何か文句でもあるのかと言っているようだった。
睨まれてしまっては私は開きかけた口を閉ざすしか無くなる。それに初めてミーナに会った時から好感は持てなかった。というか苦手意識が芽生えていた。実の姉妹ではないとはいえアリスとは似ていない、私も会ったことないタイプの人間だ。
何処か異国人のようにも見える顔立ちと、こういっては悪いがポシャポシャした髪質だった為アリスの長く毛量の多い軽くパーマがかかった髪と並ぶと薄く平たい髪の印象になってしまう。最高の引き立て役だった。ミーナが隣に並ぶとアリスの美しさが際立つ。私は最初アリスが自分の美貌を引き立たせる為に仲良く姉妹ごっこをやっているのかと思ってしまったほどだ。
でも二人を観察する内に分かったが二人はただの姉妹だった。聖女、アリスにミーナを利用する気持ちなど微塵も感じられなかった。そしてミーナは姫を守る騎士のように自分の姉の邪魔になるものを徹底的に敵対視していた。だから私がアリスの行きたい場所を制限しようとした時睨みつけたのだ。
「ホラァ、早く行こ!」
アリスが手招きして、ミーナも駆け寄る。二人は舞台裏の方へと走っていった。
(だから本当に危ないんだって!)
そうキツく言えればどれだけ良かっただろう。でも機嫌を損ねて皇太子に泣き付かれたら私は殺される。だから私はアリス達に危険が及ばないようについて回るしかなかった。
「わー!すごーい!見て見て、ミーナ!」
アリスは興奮のあまりぴょこぴょこ飛び跳ねている。乱雑に乗せられている材料、高く積み上がっている足場に興奮が抑えきれないらしい。二人がバタバタ動く物だから足場の上にあった塗料の缶がアリス達の頭上に降ってきた。
(あぁ、もう!!)
私は怒りに身を任せアリスを押しのけた。そして後頭部に鈍い痛みが走った後、私の意識はそこまでだった。
******
白い壁に白いカーテン、そして薬品の独特な匂い。私が目覚めたのは学園付属の病院だった。
「あれ?私は…。」
「起きたのですか⁈」
そう言って私の肩を掴んだのはガブリエルだった。顔は真っ青で冷や汗も沢山かいていた。するとそこへ他の生徒会メンバーとアリスとミーナが入ってきた。アリスは泣きながら入ってきた為、中々インパクトは凄かった。
「ごっ…ごめんなさい。私のせいで…。しっ死んじゃったかと思ったぁ。」
「私の婚約者を庇い、こうなったと聞いた。すまなかった。そして婚約者を庇ってくれてありがとう。」
ルイス皇太子殿下が口を開いた。初めて言葉を交わした。私の感動は計り知れなかった。ずっと願っていた…こんな形で言葉を交わすとは。
「それでも、舞台裏は危ない。君は知っていただろう。何故アリスに教えなかった。」
アレンが私を責め立てる。確かに私は言わなかった。というか、言えなかった。機嫌を損ねないようにやんわり止める予定だったのにミーナが睨んできたのでこれを言ったら機嫌を損ねられる恐れがあった。どっちに転んでも私は無事では済まなかったのか。
「私が行かなきゃ良かったのよ!だからエルリカさんを責めないで!」
アリスが言うと、アレンはアリスに免じて許してやるとでも言いたげな表情で私を見た。それを見て私は激しい怒りを覚えた。アリスを庇ったにもかかわらず責めるアレンに対してと、加害者を庇うような感じに庇うアリスに対してだ。あんた達は私の注意を聞こうともしなかった。
もし私が庇わず当たったのがアリスだったとしても自業自得だろうけど、私はなんで庇わなかったんだと責められるだろうからあの時私は庇う以外の選択肢が無かった。
「今回の件は事故ということで。」
ガブリエルがそう言うとこの場に居た全員が渋々納得した。今回の件は誰の責任でもない、ただの事故ということで片付いた。忙しい準備期間に揉め事を起こしたくないという一心だっただろう。そして今回の件がおおごとになっていたら間違いなく私はなんらかの処罰が下り生徒会からも学園からも追放されただろう。最悪、首が飛んだかもしれない。誰もいなくなった病室で私は首を押さえた。怖い、怖かった。私の全てが恐怖に支配されていた。あのまま目覚めなかったかもしれないし、起きても首が飛んだかもしれない。
「怖いのね…死ぬのって…。」
誰しもに平等に訪れる死。それが怖かった。今の私は貴族の気分次第で生き死にが決められる。お父様はこんなにも怖い死を潔く受け入れたのね。今生きているのにどれだけ感謝しただろう。先程までの空間は私にとっていつ死んでもおかしくない戦場だった。皮肉にも今助かったのが部分的にアリスのおかげであるのはなんとも言えない気分になる。何で私は庇ったのだろう。勿論、庇わなければならない状況だった。それでも、彼女が死んだら皇太子の婚約者はいなくなる。昔描いた夢が少し現実的になったかもしれない。そして私は冷たいシーツに顔を押し付けた。瞼が重い、段々と私は眠りに落ちていく。
今日、私は皇太子殿下を眺める夢を見た。




