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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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【閑話】マリエットのお仕事

スピネル侯爵家のメイド、マリエット・スモーキークォーツ。彼女はただのメイドではない。


いや…スピネル侯爵家に仕える殆どの使用人は軍部絡みでスピネル家に仕えているので()()の使用人の方が少ないのだが、その中でもマリエットは特殊だった。


彼女は特に軍部絡みではないが武術を身につけている。普段はメイドとして…ときに護衛として暗躍する彼女はジョージが引き入れた使用人だった。


そんな彼女の今回の仕事はメイドとしてではなく、護衛としてだった。


ジョージからの呼び出しがあり向かうと護衛の任務を受けた。


「エルリカがヒスイ国に旅行に行くそうだ。くれぐれもバレないように護衛してくれ。」


「分かりました。」


『畏まりました』ではなく『分かりました』。ジョージはこう言った砕けた口調でも許してもらえる。

ジョージは侯爵という身分であるが特にその事を鼻にかけたりしないし、使用人達と同じ目線になってくれる。それは彼が平民出身であるが故なのだが。


それにしてもくれぐれもバレないように…だなんて堂々と護衛をつければいいのにと思ったが、そこもジョージらしいと言えるだろう。

護衛がつけば旅行を楽しめなくなるのでは…という配慮だろう。それにジョージ自身エルリカに護衛をつける事を恥ずかしがっている。


自分が何かとエルリカを気にかけているのがバレたくないのだろう。

可愛らしい人だ…と思わずクスッと笑ってしまいそうだ。ジョージがエルリカの父になれるとは思っていない。ジョージ本人にもその気はないしエルリカも娘になる気はなかった。

じゃあ何故養子に迎えたのか。彼はただエルリカの保護者を買って出ただけなのだ。家族になろうと言うわけではなく金銭的な援助をするだけの保護者。


ジョージがわざわざエルリカを養子にする深い訳があるのだろうが、使用人の誰もそれを言及した事はなかった。


触れてはいけない部分であると皆感覚的にわかるのだろう。マリエットもこの家に使え始めてすぐにジョージの触れてはいけない部分が分かった。

図太く見えて思いの外、繊細だったのだジョージは。まぁ…図太く見えるというのは軍人時代の訓練で筋肉が付き肩幅が大きいことからそう見えているだけかもしれないのだが。



エルリカに気づかれないように影から護衛していると気づいたのだがエルリカは尾行されているようだった。最初は同じ護衛か、悪質なストーカーかと思ったのだが今回護衛を任されているのはマリエット一人だし、護衛くらいマリエット一人で足りる。それくらいの実力があるのだ。


悪質なストーカーならエルリカと接触する前に処分しておこうとしたが、諜報員のような動きだったので後ろに誰がいるのかわかれば…と思い泳がせておいたのだが、エルリカから誘い込み接触してしまった。

その諜報員の少女、エルリカの言っていた名前はアベンチュリン男爵令嬢。彼女は存在がバレると海に飛び込んで自決してしまった。

バレた…というかもうずっとバレていたそうだが。バレたらすぐ情報漏洩を防ぐために自ら命を断つ事は珍しくない。というか諜報員の中では常識だ。


可哀想に、諜報員なんてやらなければ若くして死ぬことなどなかっただろうに。エルリカも同じ事を思ったのかアベンチュリン男爵令嬢が死んでから元気がなくなった。


エルリカ…彼女は優しい。本人が思っているよりもだいぶ優しい少女だ。

優しい故に父親を信じたくて悪の道へと突き進んでいるが、それは『信じる』ではなく『信じたい』だ。父親を心の何処かで疑ってはいても父親だから間違ってないって信じたいだけだという事だと思っている。


ジョージがエルリカを養子に迎える前、エルリカの近辺調査を行ったのがマリエットだった。

そしたら生徒の中では通称廊下事件と呼ばれるエルリカの事件に行き当たった。


エルリカを馬鹿にした女子生徒数名に、『自分の父親は間違っていない。それを証明してみせるから覚悟しておけ。』という旨の話をした事件だ。


そのせいで周りの生徒や学園…国の上層部から目をつけられていた。


考えられるのは諜報員のアベンチュリン男爵令嬢は国の上層部からエルリカを監視するよう言われた諜報員だ。


しかしそんなところから派遣された諜報員が尾行対象から気づかれるという凡ミスをするだろうか。

まず気づかれるならプロの諜報員ではなく素人の護衛であるマリエットが気づかれるべきだろう。


マリエットは素人に分類される中では上の方なのだが、それでもプロの諜報員に勝る実力はない。

なら何故尾行素人のようなものが諜報員なのか。それならあのアベンチュリン男爵令嬢自体が国の上層部の諜報員ではないことの方が納得がいく。


国の上層部のような大きなものではなく、もっと個人的な…自身の権力ではアベンチュリン男爵令嬢ぐらいが限界な人物。

そうなるとアベンチュリン男爵令嬢の雇主はアベンチュリン家門よりは上の家格の下級貴族とかなり絞られる。


しかしアベンチュリン男爵令嬢がもともと捨て駒のような立ち位置なら?最初からエルリカに気づかれる前提のものだったら雇主の人物像は無限に近くなる。


結局マリエットの中で結論は出なかった。



******



ヒスイ国に着くとエルリカ達にバレないように普通の旅行客を装い、しれっと船を降りる。


そして後ろからエルリカ一行を尾けるのではなく、屋根の上に登ると上から見下ろす形で護衛した。何か有ればすぐ気づける。


何も近くに張り付くだけが護衛ではないのだ。これは独自のスタイルで普通の護衛なら護衛対象から離れる事はまずしない。

マリエットだからこそ一定の距離を開けられる。そもそも気づかれないように護衛しろなんて普通の護衛騎士に頼めばまず受理されないだろう。


護衛騎士には気配を消す術は教科に含まれていないのだから。



護衛を続けているとエルリカ達は治安の悪い地区に入っていった。


(あーあーあー…。)


子供が入るにはまだ早いその町に彼女達は足を踏み入れた。どうやってこの地区から出るように誘導しようかと考えているうちに彼女達は奴隷商人に捕まった。


護衛なのに大失態。やらかしてしまった。しかしそれを後悔し反省している暇があるならエルリカ達を檻から出すように動かなければ。


気づかれないように護衛していなければ奴隷商人に捕まる事を防げたかもしれないのに。こんなところでジョージの命が仇となった。しかし自分の失敗を主人のせいにはできない。


マリエットは奴隷の保管倉庫に入ると暗闇に紛れてエルリカ達の檻を針金で素早く開けると手枷も外した。

実にその速さ十数秒。気づいたら開いていたという状況を作り出した。


無事エルリカ達は倉庫を出られたが運悪く見回りと思われる奴隷商人の仲間と鉢合わせた。


(くそッ。エルリカ様達に傷一つ付けさせないからな。)


ちょうど着地地点を見回りの男の首目掛けて屋根から飛び降りる。マリエットの全体重が首の一部分にかかり男はその場に倒れた。

その男が気絶したのを見ると素早くその場からエルリカの視界に入らない場所に移動する。


エルリカ達は無事、友人の家に帰れた。


(危ないところだった。帰ったら怒られるなぁ。)


果たして怒られる程度で済むのかわからないが、一応護衛は出来ている。


マリエットは持ってきた携帯食をカオルの家の屋根の上で頬張った。


こういう時なかなかきつい仕事だと実感する。しかし共にこの仕事に喜びを感じられる時もある。


ベランダに人が出てきて思わず気づかれたかと身構えた。ベランダに出てきた人物は手すりに足をかけ屋根の上に登ってきた。


敵か?といつでも攻撃できるように構える。しかし上がってきたのは敵ではなく、エルリカの友人の母親だった。


「いや〜お疲れ様だね。暖かい飯持ってきたから食べるか?」


そう言って湯気のたっている夕飯の入った器を差し出されたが、そのことよりも大事なことがありマリエットは警戒態勢を崩せなかった。


「あー、大丈夫。貴女のことは誰にも言わないからさ。」


ヘラヘラと笑いながらそう言う。心を当てられ、もしかして目の前にいる人物は読心術を使ったのでは…!?と思ったがもしかしたら顔に出ていたかもしれない。


「なら…貰おうかな。」


器を受け取る。器越しにも夕飯の温かさが伝わってきた。正直冷めたあまり美味しくない携帯食と温かい普通の食事なら後者を食べたいと思う。


マリエットの場合仕事に喜びを感じられる時というのはこういう事を言う。自分の仕事が認められて労われた時などだ。

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