旅行 Ⅳ
音を立てないように静かに階段を降り、カオルとナエが客に気を取られているうちに私達は店を出た。
「さぁ、行くわよエルリカ!!」
「サラ、道順を覚えたいからゆっくり行きましょう。」
私の言葉も虚しく、サラは私の手を引っ張りながら走った。幸い道順は覚えられる程の速度だったので問題はなかった。
月下城に小走りで向かう。私達は外国人だからヒスイ国の人とは顔の造りが違い、行く人々が私達の顔を二度見する。
とんでもなく酷い顔だから二度見しているのでは無く、外国人だから二度見しているのだと信じたい。
月下城の城壁は思わず目を引く純白でこの月下城のシンボルとも言えた。
この白い壁に落書きなどしようものなら莫大な罰金を支払うことになり、誰もこの壁に落書きどころか汚そうとはしなかった。
白の周りを狭い間隔で兵士が巡回しているので見つからず落書きなどをすることや月下城内に入ることは不可能だ。
「わぁ…すごいわね。」
「本当ね。」
ボーッと眺めていたが、その白い壁は壁以上でも以下でも無くただの壁だ。
建築の仕方も帝国とは全く違うがそこに面白さなどを見出せる建造物マニアではない普通の女の子が眺めるのは1分が限度だった。本当…何が凄かったのだろう。さっきの自分の発言を訂正したい。
「そろそろ…帰ろうか…。」
「そうだね。」
考えつく所は一緒。カオル達にバレる前に帰ろう。そしてカオル達と改めて行く時全力でもう月下城は見たく無くなったと言うしかない。
二度もこの建物を眺めるとかどんな苦行だろうか。
さっさと踵を返そうとした時ギイイイと言うあまり気分の良くない音と共に月下城の門が開いた。
何かイベントでもあるのだろうかと開いた門の隙間を少し離れた所から凝視しているとヒュッと何かが門から飛び出し、こちらに向かってきた。
「えっ!?何、何、何?」
追いかけられている気分になり思わず走り出す。謎の物体から逃げるために。サラに関しては私が声を上げる前に走り出していた。
「待ってサラ、置いてかないで!!」
「エルリカーー、私貴女の事忘れない!!」
「忘れないで!」
走りながら喋っていたため自然と減速し、私は謎の物体に体当たりされその場に倒れ込んだ。
「グヘッ。」
変な声を出して私は全身の痛みと戦った。
「やっぱり私エルリカを見捨てられない!」
サラは回れ右をすると私に体当たりした謎の物体をバシバシと叩き出した。
「人殺し!人殺し!エルリカを返してよ!」
「待って?私まだ死んでな…。」
「人殺し!人殺しぃぃぃぃ!!」
まだ私は死んでいないのだが、サラはそんな事にも気づかずまだ謎の物体を叩いている。
「痛い!叩くでない!」
謎の物体が声を発しサラは叩く手を止める。謎の物体だと二人が認識していたものは布付きの大きな笠を被った人物だった。
しかし、叩くなと言っている謎の人物だが言葉が早かった上に声を荒げていたためサラにはそのヒスイ国語が聞き取れず、なんか喋った!?状態だった。
何か喋った事に驚きだったサラだが何を言ってるか聞き取れなかった為また叩き出した。
「人殺しー!人殺しー!」
「だから、叩くでなーい!!」
謎の人物も謎の人物でサラの発するサファイア帝国語がわからない為自分が何を言われているのかわかっていなかった。
さっき一時的にだが叩く手を止めてくれた為伝わったのかと思っていたのだがまた叩かれさっきの言葉が伝わっていない事に気づいた。
「サラ…その人叩かないでって言ってるわよ。」
まだ痛みのせいで起き上がれず地面に這うようにしている私の通訳でサラはやっと叩くのを止めた。
「えっ?あらそうだったの?」
急に突撃してきた謎の人物が悪いが馬乗りになって叩いていたサラもお咎めなしとはいかなくなったような気がする。
「貴様、わらわが誰かわかっておるのか!?」
むくっと立ち上がった人物は思いの外小さく私やサラの肩辺りまでしか背がなかった。
「月下城城主、パール家長女、スィ・パールじゃぞ!」
両手を突き上げブンブンと振る姿はどこからどう見ても可愛らしい幼子にしか見えなかったが口調と自分が悪いのにここまで威張れる態度からして城主であることは間違い無いだろう。
「なっ……。」
サラも顔が青くなった。自分が叩いていた人物が月下城城主と気づいたのだろう。
「なんて言ったの!?」
サラは視線をスィから私に変え通訳を求めた。えっ?わからなかったの!?てっきり反応からわかっているものだと思い込んでいた。
「この子は月下城の城主のスィ・パールさんだそうよ。」
「ヘェ〜…城主なの。こんな小さい子が……へっ!?」
サラは最初は納得しかけていたが、途中でそのおかしさに気づいた。
「この子、城主なのぉ!?」
「そうじゃ。わらわこそ月下城、城主でありパール家唯一の御子。」
ふんすーっと鼻息荒く腕を組んでスィは私達を睨みつけた。
パール家はヒスイ国王家の分家にあたり、その他の重要な都にも王家の分家が領主となり国全体を王家一族で納めているそうだ。
「私やエルリカだってサファイア帝国の貴族よ!国際問題にしてやるー!!国際問題ー、国際問題ー!」
「私達一応お忍びなのよ。」
サラを落ち着かせようとするがスィも負けじと反論し、喧嘩は収まる気配はなかった。
「属国の王家の分家なんてすぐ潰してやるーー!!」
「無礼者めが!潰される前に打首にしてやるわ!!」
サラの家の権力やスピネル侯爵家の権力でもヒスイ国王家の分家を潰せないし、たかが属国の王家の分家が宗主国の貴族を簡単に処罰できないのも知っている。
そのためこの会話は何の意味も成さないのだ。
「二人とも…一旦落ち着きましょう?」




