第1話 朝起きたら、メシウマされる側のDQNになっていた。
朝起きたら、メシウマされる側のDQNになっていた。
僕は、元は、多分、普通の男子高校生。
特に変わった事はないし、学校行って、部活行って、友達と帰って、アニメみて、漫画読んで、
好きな音楽聴きながら、勉強する。
ただただ、それの繰り返し。
毎日それなりに幸せな日々を送っていた。
一方、DQN側は
祖父が亡くなろうものなら、葬式には出ないくせに、遺産を全額と土地、まだ住んでる人がいる実家を自分のものにしようとしたり。さらには一緒に暮らしていた兄の嫁を襲おうとしたり、DQNの歩きスマホが原因で人とぶつかったのに慰謝料を請求したり、ヤクザの知り合いが居ると嘯いて、カラオケ店で店員を口説こうとしたり。etc。
僕が知っているだけでもこんなところ。
最低な人間だ。
まぁ、DQN側に非があるので、慰謝料を払う羽目になったり、相続する金を減らされたり、家を追い出されたり、嘘がバレて他の店員にぼっこぼこにされたり。
何一つ成功せず、メシウマーな状態である。
めげずにそんな事を繰り返しているのが信じられない。多少なりとも更生しないものなのか。
ちなみにクラスメイトには嫌われている。むしろ、いじめに発展しない辺り、出来たクラスメイト達である。そのせいで助長されて更生しないのかもしれない。
そして、そんな奴に、
僕はなってしまったのである。
夢だとしてもなんて最悪な夢なのか。
壁に頭を打ち付けて、目覚めるしかない!!!っと
頭をガンガンやった所で、隣の部屋から壁ドンをくらい、今に至る。
どうやら、これは、現実らしい。
とにかく、学校に行って、
僕の体がどうなっているか、確認しなくては。
中身がDQNになっていたらと、血の気が引く。
今まで僕が積み上げて来た信用なんか、気にもしないで酷いことをしている様子が見て取れる。
とりあえず、今何処か確認して、学校に向かおう。
自分を見なきゃ安心出来そうにない。
そうそうにベッドから起き上がり、机の上にあったDQNの財布らしきものとスマートフォンを手に取り部屋を出る。
「おはようございます。タカヒト様、今日はお早いお目覚めでございますね」
ヒィという言葉を飲み込み、恐る恐る声のする方を覗く。こじんまりした、しわしわなおばあさんがにこにことこちらを見ていた。
「あ、ぁ」
「・・・?あらぁ?本日は学校ですよ。制服にお着替えされないのですか?」
おばあさんは、ちょこんと、首をかしげる。
「おはよう、ご、ざいます。ね、寝ぼけてしまっていたみたいです」
「?、それなら良いのですが、先程大きい音が鳴っておりましたが、大丈夫でございますか?」
「だ、大丈夫、大丈夫」
僕はくるりと踵を返し、元いた部屋に戻る。
だ、誰だ、あの人!DQNは家を追い出されて、一人暮らしじゃなかったのか??
と、とりあえず、制服だ。制服と、鞄くらい持っていくか。
部屋を見渡すとクローゼットが目に入る。
開けると、見慣れた制服がシワなく掛けられていた。サクッと身につけて、鞄を持つ。
これで、怪しまれないだろう。
・・・、多分。
鞄を抱えて、ゆっくりと扉を開ける。
・・・あのおばあさんは、居ないようだ。
このまま、見つからないように部屋を出よう。
壁を背にして廊下を進む。
良かった、突き当りが玄関みたいだ。
そそくさと、廊下を抜けて玄関のドアに手をかける。
「タカヒト様?もう出られるのですか? 朝ごはんの用意が出来ておりますが・・・」
さっきのおばあさんがパタパタと近づいて来た。
「っ、今日は大丈夫、うん、お腹空いてなくて。用意して貰ったのに、ごめんなさい。じゃあ、僕今日は急ぐので」
早口で話しながら、家の外に出る。
とりあえず、外に出れば勝ちだ。
どうやら、マンションだったみたいだ。
一応、部屋番号を覚えておくか。
エレベーターを見つけたのだが、隣に非常階段があったのでそちらを使って下まで降りる。
とりあえず、今どこにいるのか把握したい。
鞄に入れたスマホを取り出す。
パスワードがかかっている。
「まぁ、そうだよな」
手がかりになりそうな物がないか、鞄の中を漁る。
ノートが1冊と小さなペンケース。ハンカチとティッシュ。財布。
財布の中になにか入ってないか?
クレジットカード、万札が6枚と千円札が数枚。
あとは、病院の診察券。保険証。
保険証かぁ、ベタに誕生日とか入れてみるか。
んー、やっぱ駄目か、一応、逆からも入れてみるか。
あ、開いた。
えぇー。
開いた画面を見て、息を飲む。
女の人の裸体が待ち受けになっていたのだ。
しかも、この子、多分、クラスの子だ。
引きつった怯えた笑顔をしている。
人に見られたらどうする気なんだ?
待ち受けを別のものに変えようとすると写真の一覧が表示された。
待ち受けにいた女の子が襲われている写真がそこにあった。
気持ち悪い。
性的な目で見るとかじゃなくて、恐怖と痛みに歪んだ顔が最悪な事実を物語っていた。
素早く待ち受けをかえる。
地図を開こうとして、あることに気づいた。
・・・僕には妹がいる!
学校より先に、家に行かなきゃ、もし、僕の体にDQNが入っていたら!
この子のような事が妹に及ぶかも知れない!!
嫌な想像に血の気が引く。
素早く地図アプリを開き、学校とは逆方向をひた走る。
◇◇◇
ぜひぜひ言いながら、家の前に来るとちょうど妹が家から出るところであった。
「瑞樹!無事か?!」
「ひゃ!あ、の、ええと?誰ですか?何で私の名前・・・」
「そんなことより、襲われてないか?怪我とかしてないか???」
「え??し、してないですけど」
「ふぅー、そ、そうか、良かった」
良かった。本当に良かった。
まだ、本性を隠しているのか?
ふと、家の表札が目に入った。
父親の名前、母親の名前、妹の名前。
・・・僕の名前がない?
家から追い出して、表札変えるには早すぎないか?
「・・・あの、すみません。変なことを聞くかも知れませんが、」
瑞樹はびくりと体を震わせた。
「は、はい!何でしょうか」
「この家に■■■と言う人はいますか?」
「■■■?居ないですけど・・・」
少し考えた後、首を傾げながら瑞樹は答えた。
い、ない?
僕が居ない?
そんな、馬鹿な。
じゃあ、DQNは、タカヒトの中身は一体どこにいるっていうんだ。