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積み重なる檻と、猛ってはやがて枯れていく"商品"たちの阿鼻叫喚。
「おかげさまで、資金集めが捗るよ。この調子なら、"計画"も予定よりずっと早く進められそうだ」
闇市ベルベセラを悠々と歩きながら、人間を標的とする吸血鬼テロ組織、赤薔薇同盟の若き幹部――――クラウス・クリスハンスは、歓迎すべき新入りのほうを振り向いた。
「本当、兄さんの采配ありきだよ」
「......」
「いいよ。僕だって、兄さんの決断がどれだけのものを失うことになったかは分かってる」
「...逆だよ。クラウス」
リハルトが、重たげに口を開いた。
「失ったから、ここにいるんだ。僕は、あの夜...」
「気にすることない。僕に顔を覚えられてないなら、みんな死んでもいい下っ端の団員ってことだよ。まあ、兄さんが僕のところに来てくれるなら、僕はどこに欠員が出たって構わないけどね」
「......」
本館から運営館、暗い廃棄場へ。
クラウスがステッキに灯した光を頼りに、兄弟は闇市を巡廻する。
「この先は、市のほうが独自に用心棒を雇ってるらしいよ。赤薔薇に任せちゃえばいいのに、ちょっとのところがチキンだよねぇ、バルツの会長さん」
「......」
「そういえば、今日はあの子がライアス坊ちゃんのところに行ってるんだっけ。いいの?兄さん、前にあの子に手をツケようとした奴のことさ、もうカタチもまともに残らないくらい...」
「...心配ない。条件次第では、あの子は僕ら兄弟も軽く捻り潰す」
「は...?それってどういう...」
そのとき、兄弟は人の気配に足を止めた。
「誰?」
クラウスが呼びかけると、相手は暗がりから姿を現した。
「――――」
17、8ほどの、美しい少女だった。
黒い髪。
白い肌。
不思議な表情を灯した、ルビーの瞳。
一瞬のことだった。
その面影が、兄弟の恋心を震わせたのは。