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秘奥全書と暁天の魔術師  作者: 血塗れメアリの侍従長&黒い白鳥の比喩
Bパート
8/8

B-4 ワンダ

 せめて地面に魔方円を書きたいが、相手はそんなことをさせてくれるほど素人ではなかった。

 飛び退くと、もともと俺がいた場所の地面は抉られていた。あの恐竜のような生き物は当たり前のように物理法則なんてものは無視してくる。速さがおかしいのだ。まるで録画したテレビを早送りで見ているような感じ。あの巨体で出せるスピードじゃない。

「時の魔術か?」

 サラリーマン風の男は微笑むだけだ。

 時の魔術はとても高度な術だ。だが、あり得ないことはない。時間遡行は今の魔術では不可能とされているが、時を早めるのなら簡単だ。俺は出来ないが、出来る魔術師はごまんといる。

 俺は二、三歩後ずさって距離を置く。さて、どうしようか。正直なところ、あの恐竜とはまともにやったら勝てないだろう。だったら、本体を狙うしかないか。

 俺は隠していた拳銃を取り出し、銃口を男に向けて、引き金を絞った。放たれた銃弾はその男の目の前で弾かれた。やはり、結界を張っているようだ。

「うわー、本物の銃かい? 物騒なもの持っているなぁ」

 やけに芝居がかった口調で言われると、ダメ元で放った銃弾がとても惜しくて仕方がなかった。つまり、イラッときた。

 とりあえず、足で地面に魔方円を書く。簡易的なもので、大した力はない。召喚をするにはサイズと精度が足りない。

 仕方がないので、今さっきとは違う魔方円を足で書いておく。これは設置型の罠のようなものだ。

 俺はまた、恐竜に向き合い、一挙一動をしっかり捉えて、つけいる隙を探す。恐竜の攻撃はおかしいほどに素早く、そして人を一撃で砕けるくらいの攻撃力を兼ね備えている。

 俺はなんとか恐竜の攻撃は避けていきながら、魔方円を地面に描く。まだまだ数が足りない。後、二十は描きたいところ。

「ぐずぐずするな、やれ!」

 サラリーマン風の男は急に吠え出す。大麻が切れたんじゃないか。よくは知らないけど、大麻の依存症患者は、禁断症状として短気になるらしいからな。もしくは元々そういう人だったか。

 恐竜の動きがより活発になる。俺はなんとか恐竜の攻撃をあしらいながら、地面に魔方円を描く。恐竜の動きは早いが単調だ。見切ってしまえばかわすのは容易だった。

 俺はタイミングを見て、恐竜から距離を置く。もちろん恐竜も俺を追いかけてくるからあまり離せなかったが十分だろう。俺は地面に最後の魔方円を描く。それは特別で、描くのに少し時間がかかる。

「は……」

 なんとか描き終えて顔を上げると恐竜が目の前まで迫っていた。恐竜は足を上げ、必殺の一撃を俺に放つ。

 走って逃げなくては。全力疾走。目の前に迫っている死の恐怖に足がすくんだが、こんなところで止まってはいけない。

「えっ……」

 気が付くと俺は今さっきいた場所からかなり遠くのところにいた。

 明らかにおかしなことが起こっている。俺の足はそんなに速くない。

 まさか魔術か。恐竜に時の魔術をかけているのだと思っていたが、恐竜付近の空間に時の流れが早くなる魔術が使われているのか。それは都合がいい。

 どうやら奴はまだ、時の魔術を完全には習得していないみたいだ。辺りの空間まで加速させるのは体力の消費が激しいし、何よりも近づかれたらなんのアドバンテージもない。

 この恐竜と闘うときは離れれば離れるほど自分が不利になる。

 そうと気が付いたら、後は簡単だった。俺は恐竜に肉薄する。近付けば、俺のスピードも速くなるから、もう恐竜の物理法則を無視したスピードには苦しめられない。

 腰からロープを取り出して、恐竜に登る。奴の足は、ちょうどロープを引っかけやすい突起のようなものが沢山ある。きっと関節だ。

 よじ登る。奴の頭のところまでいくと、首を振って抵抗を始めた。なんとか耐えて、頭に魔方円を描く。描き終わると、その魔方円は青白く光出す。準備は終わった。

 俺は恐竜から飛び降りる。高さは四メートルくらい。しっかりと衝撃を流せばなんてことのない高さだ。無事着地をきめる。こんなことでミスをする俺ではない。

「終わった……」

 安心感と達成感。

 俺はスタンガンを取り出し、スイッチを入れる。それを地面に落とすと、恐竜は感電して死んだ。


#


 鳥が電線に止まっていても感電しないのは、電気が少しでも抵抗の少ないところを進もうとするからだ。俺は無数の電気を増幅する魔方円と地面を電線並みの伝導体にする魔方円地面に描いた。そして、恐竜の頭も同じく伝導体にする魔方円を描いた。

 増幅された電気は、恐竜の体を通って頭に向かう。恐竜だけが感電する。

 俺は恐竜が絶命したのを確認してから、サラリーマン風の男の下へ歩く。彼は恐竜が殺られるなんてことを想定していなかったのか、茫然自失としている。

 ゆっくり彼の目の前まで行き、リボルバーを構える。

 軽い引き金と、間の抜けた発砲音。

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