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「じいじい、いなくなっちゃった」
ぽつりとチーがつぶやいた後、しばらく何の音もしなかった。
部屋にいる者もただじっと、小さな精霊が何かをする音が聞こえるのを、待っていた。
それから、がさがさと辺りを移動する音が遠くなり、また近くなった。
「チーきょうはここでねよおっと」
チーは、寝床の準備を始めたようだ。
ぱふん、ふわふわ、ぱふん
チーのお花ベットは眠くなると現れる仕様だ。
「よいしょ、よいしょ」
ベットによじ登っているのか?
「ふー」
満足そうな吐息がきこえる。
ベットに上がるのは大仕事なのか?
どんなベットなのか気になる、精霊達だった。
次に、大きな声で唐突に歌を歌いだした。
おはな~おはな~おはなのベット~、ふわふわふわりんりん
おはな~おはな~おはなのベット~、ねたらあす、
おはな~おはなのベット~、もっふもっふ~♪
「あっ!…………………………………………いいや」
歌ったり、ごそごそしたり、意味不明の言葉をつぶやいたり。
チーのすきなもの~おはな~おはなのベット~♪
もっふもっふ~おはな~おはなごはん~それから~……
「よいしょ、よいしょ」
「あ、チーあしたもがんばろおっと」
「ね~よおっと」
そ~れ~か~ら~♪
ごそごそごそごそ
そ~れ~か~ら~♪
「じいじい……ぐぅ」
す~す~
すきなもの最後は、じいじい、らしい。
「音声、このまま維持します」
鏡を調整していた青年が上司に告げる。
その声で我に返ったようで、皆一斉に動き出した。
鏡に映ったり、邪魔になったりしないように後ろの方で、鏡の映像を確認していた青年達は椅子から立ち上がり、礼をしたままでいる。
上位精霊達を見送るためだ。
銀嶺とはすでに挨拶を済ましているらしく、上位精霊達は彼らに労いの言葉を掛けて部屋を後にする。
「隊長、また泣いてるんですか」
「うるさいわね!わたしは小さい子と、動物の話がだめなのよ!」
隊長と呼ばれている男性は鼻をかみながら、部屋を出て行った。
はじめはチーの様子にほのぼのしていたのに、ひとりになった精霊を思うと皆、ちょっぴりしんみりしてしまったようだ。
しかし、ひとりぼっちの小さな精霊が、明日も頑張ろう!と言っているのだ。
大きな精霊も頑張らねば!
銀嶺はこれからの準備のために、積極的に動くつもりだ。
チーに会うまではそんなことは考えられなかった。
そして、自分が御大と呼ばれる身の上であることを、はじめて感謝した。
チーのためにできる、最善とはなんだろうか?
小さな孫の事を思うと、嬉しいやら心配やらいろんな感情があふれだして、なんだか胸の辺りがぎゅっとする。
だか、それらは同時にわくわくと心踊るような、じっとしていられない何かを訴えかけてくる。
これからチーと何をしよう?
そう、二人で一緒に考えていけばいい。
早く次に会える時間が来ないかと今からそわそわしてしまう。
チー、じいじいも大好きだよ。
「やれやれ……おっと」
礼のため曲げていた腰を伸ばした二人の青年は行儀悪く椅子にドサリと座わりかけて、あわてて座り直す。
銀嶺さま、御大と呼ばれる上位精霊がまだ室内にいたのた。
ひそひそと声をひそめる。
「またこんな時間か」
「もっと時間経ってるかと思たわ」
銀色の髪の狐耳の精霊がつぶやくと、黒髪の狼耳の精霊が
同意した。
ちなみに黒髪が「あかん」発言で頭を叩かれたうっかり野郎である。
「濃い時間やったからなぁ」
黒い尾をゆるくふりふり、しみじみと呟く。
「確かにそうだが……お前!報告書、簡易で至急だろ!なにやってんだよ」
狐尾をピンと立てて同僚に注意する銀狐。
黒尾がとたんにへんにゃり垂れる。
「へんな音が聞こえるねん」
「それを書けばいいだろ」
なにを当然なことを。二人の仕事はまさにそれだ。
異変や特異など見つけて報告。
「これ見てみぃ」
メモに殴り書きされたようなそれを見る銀狐。
そこには、
ふにゃりん、ぽよぽよ、ぴっかーん、にかにか……
などの何かを表現することばが汚い字で書かれている。
「なんだこれは?」
「だから、へんな音言うたやろ」
しまいには机に突っ伏す黒狼。
「まだチビが映ってる時は良かったんや。けど、音声だけになったとたん……」
説明を聞いて、狐尾もへにょりとした。
こうして、二人の戦い?は始まったのだった。
サブタイ「チーと…」は「チーとじいじい」でした




