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銀嶺の方からはあちらの様子が映し出したされていたのだか、小さな精霊の方からはこちらは見えていないようだった。
年代物の鏡ゆえに、実際に使用しないと微調整が出来なかったのだ。
二人の交流の邪魔をしないように、慎重に作業がされていたのだか、どうやら調整が終了したようだ。
銀嶺が「じいじい」と呼ばれて感動のあまり固まっていると
「わ、わ、わ、ほわぁ~」
と小さな精霊が声をあげた。
そして、視線を下から上へと動かし、銀嶺としっかり視線を合わせた。
どうやら、じいじいを認識したらしい。
小さな両手でぷにぷにほっぺたを挟むと、うっとりと銀嶺を見上げている。
「じいじい?」
問いかけに銀嶺が頷くと
「はわぁ~。きれい、きれいねぇ~」
と大きな瞳をうるうる、きらきらさせてため息をついた。
だか、銀嶺が(小さな花)と呼ぶときょとんとして、ぶんぶんと勢いよく首を振りだした。
「首がもげる」
またもやうるさい独り言が聞こえるが、この部屋にいる皆の共通認識だ。
「あの、あのね。チーはチーなのよーー」
鏡の方へ乗り出すように訴える。
ほんとうに、一生懸命に。
銀嶺は椅子から立上がり、美しい髪が床を這うのも気にせず、膝をついた。
なるべく幼子と顔が近づくように。
「わかった。じいじいはそなたをチーと呼ぶことにしよう。チーちゃんで良いかな?」
「あい!あい!やったー、やったー」
チーはじいじいに名を呼ばれて嬉しさのあまり、くるくる踊り出した。
すると、背中の小さな羽が皆に見えた。
肩甲骨のところに、ちょこんとこれまた小さな羽がついていて、ぱたぱたと動いていた。
チーにぴったりといえばぴったりな羽なのだか、はたしてこの羽で飛べるのか、それとも飾りなのか?
もはや小さな精霊は不思議生物としか思えない。
次から次へと表情が変わり、ちょこまか動くその様子に心が和むやら、はらはらするやら皆の興味は尽きなかった。
「じいじい~」
「チー」
「あい!えへへえへへ」
やったーやったー
何度も呼びあっては、小さいのがきゃっきゃ、きゃっきゃ笑い声をあげて楽しそうにしているのを、いつまでもチーの気の済むまで見ていたかったのだか……。
「銀嶺さま、そろそろ」
密かな声で終わりを告げる声がする。
銀嶺は思わずため息をついてしまった。
こんなに喜んでいる小さな精霊に別れを告げなければならない。
しかし、急に映像が途絶えてしまうよりはずっと良いのだ。
「チー」
周りで聞いている者達がはっとするほど、やさしい声で名を呼んだ。
「じいじいは、チーと少しの間さよならしなくてはならない」
にこにこ笑顔全開で、うんうん頷きなから聞いているがわかっているかどうか、いささかあやしい。
銀嶺も心配になったのか幼子にわかりやすいようにと、言葉をかえた。
「チー、バイバイだ」
身ぶり付きで教えると、チーは両手を振り回して
「バイバ~イ、バイバ~イ」
とやっぱりきゃっきゃっ喜んでいる。
銀嶺はなんだか胸がつまって、チーに呼び掛けようとしたとき
プツンと映像が途絶えた。
「バイバ~イ、あれ?あれれ?」
音声だけ残っていたらしく、チーの困惑する様子が伝わってきた。
「じいじい!じいじい?あれ?あれれ?」
「じいじい、いませんかぁ、チーだよー」
すこしのあいだ、そこら辺をうろうろする音が聞こえていたが
、やがてあきらめたのか音が途絶えた。
「じいじい、いなくなっちゃった」




