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お茶会をまずは乗り越えましょう


「クリスティーナ様、このお菓子、本当に美味しいです」


 ミュリエルがクッキーを頬張りながら、嬉しそうに笑う。


「あら、クリスと呼んでいいのよ。貴方には愛称で呼ぶ事を許すわ」

「わぁっ、ありがとうございます、クリスさまっ」


 にこにこ、にこにこ。

 中の上の顔立ちといったけれど、訂正。

 笑顔が本当に可愛いなぁ。

 思わず、頭を撫で撫でしたくなる懐っこい笑顔だ。

 可愛い物好きのお姉様も、ふふっと微笑んでいる。

 

 ミュリエルは最初こそ恐る恐るといった感じだったけれど、もともと素直で明るい性格なんだと思う。

 私が笑顔で話しかければ、どんどん緊張が解れていって、その分笑顔の魅力が増していく。

 

 侯爵令嬢たる私が気に入った子なら、当然、伯爵令嬢以下のご令嬢達も、ミュリエルを無碍には出来ない。

 このお茶会の主役はルーリル=バーレンダ伯爵令嬢だけれど、一番身分が高いのは私とお姉様だ。

 なので、本心はともかく、みんな男爵令嬢のミュリエルに優しく接しだす。


 すると、どうなるか。


「ミュリエルはドレスが縫えますの? 素晴らしいですわ」

「えっと、お母様が、裁縫が得意だったんです。でもわたしは、お母様みたいには縫えなくて」

「刺繍も得意なのでしょう? そのハンカチはご自分で刺繍を?」

「はいっ、刺繍は、何とか出来るようになりましたっ」


 含みのある笑顔とは違う、ミュリエルの心からの笑顔に、ご令嬢達が落ちた。

 最初は貼り付けた笑みを浮かべていたご令嬢達が、今では普通に笑っている。

 さすがヒロイン、懐っこい。 

 

 私が気にいった事を示す行動はとったけれど、さすがにこのお茶会の一日でご令嬢達の心を鷲づかみするとは思わなかった。

 まぁ、いま一番ミュリエルが笑顔を向けてくれているのは私だけれどね。


 ミュリエルと仲良くなっておかないと、この先、未来で色々大変なのだ。

 そう、未来。

 決して遠くない、来週からの学園生活を思うと、ミュリエルと仲良くなっておく事は必須といえる。

 なぜなら――。


「まぁ、ミュリエルはお洋服が買えませんの? それなら、わたくしの服を差し上げてもよろしくてよ」


 お姉様の言葉に、場が凍りつく。

 まさに、ぴたっと皆の動きが止まった。


 そう、悪気なく悪意なくお姉様がミュリエルを傷つける可能性が高いから、側で見ていないとまずいのだ。


 お姉様には着ていないドレスが山ほどある。

 頂き物だったり、購入したのはいいものの、着る機会がなかったり。

 ほぼすべて赤系だから、どのドレスを着てもあまり変わらないから余計だと思うけれど。

 だから、試着しただけで一度も着る事のないドレスが衣裳部屋に沢山眠っているのだ。


 でもこれ、妹の私だからわかっているけれど、初対面のミュリエルには解らないですから。

 お姉様としては、未使用のドレスをプレゼントするつもりなのでしょうけれど、言葉が足りない。


 整いすぎたキツめの顔立ちもあいまって、


「わたくしのドレスを恵んであげてもよろしくてよ。お古だけれど。オーッホッホ!」


 って脳内で意訳されちゃう。


 お古なんて、よほど仲良くなければ喜ぶ令嬢はいませんからね?

 いえ、仲が良くても屈辱じゃないかしら。


 ちなみにミュリエルは正確には洋服が買えない訳じゃない。

 買おうと思えば買えるけれど、節約しているのだ。


 乙女ゲームの設定と同じなら、平民として暮らしていた経験のある彼女は、働きもせずに無闇にお金を使うことに抵抗があるはず。

 彼女は、つい最近まで市井でアルバイトをしていたはずだから。


「お姉様。お姉様はドレスを仕立てても、一度も着ないでそのまま衣裳部屋に沢山おいてありますものね。

 使わないままでしまわれているよりも、ミュリエルに着てもらった方がドレスも喜ぶでしょう。

 それと、一緒に王都のドレス専門店にお誘いしませんか?

 いつもはデザイナーを屋敷に招いていますけれど、たまには皆で選ぶのも新鮮ではないかしら」

 

 着たことのないドレス、という点を強調しつつ、別の提案もしてみる。

 お古じゃないんですよーというアピールだ。


「まぁ、クリスティーナ。それはいい案ね。きっと楽しい時間が過ごせると思うわ」


 ふふっと上品に笑うお姉様に、ご令嬢達もふふっと笑う。

 凍り付いていた場がほんわかと緩んだ。

 

 ふぅ、危ない危ない。

 お姉様は、見た目だけは私と同じだ。

 本当に見た目だけ、容姿だけだ。

 両親ですら、黙っていたら私達の見分けがつかない。


 容姿で唯一の違いは、口元のほくろだけなのだ。

 1mm程度の小さなほくろは、お姉様は右に、私は左にある。

 小さすぎて、本当に良くみないと分からない。

 それに淑女たるもの、扇子は常に持ち歩き、口元を隠していますからね。

 見えるはずがない。


 同じ容姿でほくろの位置だけが左右で違うのは、たぶん乙女ゲーの絵師が神絵師だったせい。

 一枚の絵を左右反転させてドレスの色を変えれば、ね?

 二キャラ分になるでしょう。

 有名イラストレーターに予算内でイラストを発注する為に、苦肉の策だったんじゃないかなと思う。


 ちょっと釣り目気味の紅い瞳と、長い銀髪縦ロール。

 整い過ぎた容姿は人形めいた美しさと、冷たい印象を周囲に与える。

 貴族の令嬢らしくあまり感情を大きく表に出さないせいか、酷薄そうにも意地悪そうにも見える。


 そんなお姉様が何かを言うと、悪いほうへ取られがちだ。

 お姉様にはそんなつもりは欠片もないのにね。


 なので私がしっかりサポートしないと駄目。

 全く同じ容姿とはいえ、性格はまるで違うから。

 

「クリスさまっ、王都のドレス専門店は、わたしなんかが行かれる場所なのですか?」

「もちろんよミュリエル。ドレスはオーダーメイドと思われがちだけれど、既製品からセミオーダーまで幅広く扱われているの。

 ミュリエルに合うドレスも、きっと見つかるわ」


 オーダーメイドは一点物で高くつくけれど、セミオーダーならミュリエルも気後れしないんじゃないかな。

 侯爵令嬢である私がセミオーダーや既製品を手にとれば、皆それに習ってセミオーダーや既製品を手にとるでしょうから、ミュリエルが恥をかくことはないはず。

 実際に皆で本当に行くかどうかは分からないけれどね。


「ミュリエル、このお菓子は食べた事があるかしら? 色とりどりで、貴方に合いそうよ」

「ルシアンティーヌ様、今日はじめて食べました! すっごく美味しいですねっ、それに可愛い!」


 お姉様が示したマカロンを、ミュリエルは小さく愛らしい雰囲気で頬張る。

 ふくっと膨れたほっぺたは本当に栗鼠みたいで可愛いけれど、それ、貴族のご令嬢としてはちょっとはしたない。


「一つずつ食べた方が、長く美味しさを味わえますわ」

「クリスさま、言われてみるとそうですねっ。一個ずつ食べることにします」


 にこっと笑うミュリエルの口元に、生クリームがくっついている。

 あぁ、この子も間違いなく天然ね。


 私は、ハンカチでミュリエルの口をそっと拭いてあげた。

 そうして皆で本当にお茶会を楽しんでいると、屋敷のほうから声がかかった。


「随分と、楽しそうだね」

「お兄様、いらしてたのですか?」


 ルーリル=バーレンダ伯爵令嬢が立ち上がり、声のしたほうを振り返る。

 そこには、ルーリルの兄、マーベリック=バーレンダ伯爵子息が笑顔で佇んでいた。


 彼は妹のルーリルと、私達に軽く挨拶をすると、そのまま少し話して屋敷の中へ戻っていった。

 ちらっと、お姉様をみたような気がするけれど。

 ヒロインであるミュリエルに、特にこれといった関心を持った様子はない。


 ……攻略対象者でも、ヒロインを見ただけで恋に落ちるとかは無さそうね?


 彼、マーベリックは八人の攻略対象者のうちの一人だ。 

 それも、正解攻略対象のうちの一人でもある。

 バーレンダ伯爵家の次男だからか、十七歳だけれど、婚約者がまだいない。

 そして、恋人もいないはず。

 乙女ゲームだと、泣きながらその場で俯くミュリエルを慰めるキャラだ。


 ほら、私がさっき前世を思い出すきっかけになったお姉様の言葉ね?


『平民が、どうしてこのお茶会にいるのかしら』


 この言葉に対して現れる選択肢で、泣きながら走り去るのと、その場で泣くのが合って。

 ショックで動けずにその場で泣いていると、マーベリックが颯爽と現れて助けてくれるのだ。


 ちなみに、走り出した場合は門の外に飛び出した瞬間、馬車に轢かれかける。

 その馬車は王太子がお忍びで乗っている馬車で、王太子とのフラグが立つのだ。

 王太子には当然、婚約者がいる。


 フラグ立たせたら破滅エンドまっしぐらですよ、えぇ。

 ミュリエルは、私が前世を思い出して、痛みに思わず声を上げなかったら走り出そうとしていたから、ほんと、ぎりっぎりのぎりぎりで私は間に合った感じ。


 でも……。


 わたしは、隣で悠然と微笑む姉を扇子の影からちらりと見る。

 お姉様も実はど天然なのよね。


 ゲーム内でも、意味不明な選択肢が現れるなーとは思っていたのよ。

 でもきっと、高貴な言い回しとかなんだろうと、スルーしてた。


 けれど十五年間、生まれたときからお姉様と一緒に育って来た今ならいえる。

 ゲーム内の意味不明な発言の数々は、すべて素だったのだと。


 さっきの、平民がどうしてお茶会にいるのかって言う言葉も、嫌味で言ったんじゃない。

 ミュリエルは所作も何もかも貴族としては覚束ないし、服装もドレスじゃなかったから、本当に平民だと思って言ったのだ。


 ゲーム内での、ヒロインに対する嫌がらせとも取れる発言もおそらくそう。

 もともと生まれのせいか幼い頃からの教育の賜物か、王立学園での成績は悪くない。 

 完璧な美貌を持つ姉は、とても美しい。

 ただし、『黙っていれば』


 ゲーム内では分からなかった事だけれど、悪気なく悪意なく、ほんわかふわふわ。

 見た目はクールだし、お姉様を理解していなければ、そうは見えない高嶺の花に見えるところが救いだけれど。


 でも美女だからこそ、逆ハーを防げる確率がぐっと下がりそうだと思うのは私の気のせいですか?


 さっきも、攻略対象のマーベリックはミュリエルには特に反応していなかったけれど、お姉様のことは気にしている感じだった。

 

 ゲームなら選択肢が現れて、正解を知っている私は上手く逃げれる。

 でも、現実は非常だ。

 選択肢なんて出てくれない。

 出てくれたとしても、私はお姉様じゃないから、その選択肢を選ぶ権利がない。


 お姉様が私の思惑通り、攻略対象の男達から逃げ切って、無事に公爵子息レーゼンベルク様を選んでくれる確率は、どの程度だろう。

 ものすっごく、低い確率な気がしてきたわ。


 基本、悪意のないお姉様は、パーティーでダンスを誘われれば断らないし、お茶のお誘いもひょいひょい付いていく。


 そんなお姉様に婚約者は苛立ちを募らせているようで、最近、お姉様は彼がほんのり苦手なのだ。

 非常に不味い状態である。


 本格的にフラグが立つのは、学園に入ってから。

 学園では、ミュリエルは学園寮に入るはず。


 私とお姉様は、王都の別邸からも通えるけれど、学園寮の中でも一、二を争うスイートルーム紛いの部屋を与えられている。


 ゲーム内ではほぼ使わずに、別邸から通っていたはずだけれど、私は寮に住もう。

 その方がミュリエルと一緒にいられるし、選んじゃいけない攻略対象を迎撃するのにも便利だと思う。


 お姉様も、私が頼めば一緒に寮に住んでくれるでしょう。

 二人一緒に目の届く範囲にいてくれることが、破滅回避に一歩近付くことだと思う。

 

 そうと決まれば、お父様によくよくお願いしておきましょう。

 ついでに、ミュリエルの部屋も私達の部屋の近くになるように根回ししちゃいましょう。

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