貴方の死を望みます~スノードロップ~
「貴方が死んでくれたらいいのに――」
私は窓の外を眺めながらつぶやく。
私はとある難病にかかっている。完治する確率は限りなくゼロ。症状の進行が速いか遅いかしかない。そんな病だ。
余命三カ月を言い渡されながら一年以上も生きている私は、結構運がいい方らしい。最も、病状の進行が今更遅くなっただけだと言われると、何ともいえないのだが――。
「おい、未来、元気か?」
空気も読まずに唐突に話しかけてきたのは、聡介。こう見えて親同士が親友だったところから始まる腐れ縁だ。
「うるさい、突然入ってこないでよ。着替えてたらどうすんの?」
「大丈夫、お前の小っちゃい胸なんて見られても困らねえだろ」
「あほっ! お前は乙女心を勉強してから出直せや」
私たちの会話はこんな感じで始まって、こんな感じで終わる。腐れ縁の幼馴染なんて、大概そんなもんだ。
「あっ、そうだ、俺プリン買ってきたんだった。ほら、この前食べたいって言ってたやつ」
「へ、――な、何よいきなり」
「ほら、前にテレビでやってて食べたいって言ってただろ」
「べ、別にこんなんで買収されないからね」
あいつは鈍感でデリカリシーのないことをよく言うくせに、ちょっとしたことをよく覚えていて、優しいんだか優しくないんだかよく分からない。
それから二時間くらい部屋で雑談したり、DSをしたりして過ごした。やっぱりいつも通りだ。
「じゃあ、俺帰るな」
「あっ、うん。またね」
いつも唐突に言われるその一言は、死刑宣告みたいに残酷だ。
今別れたら、もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。そう思うと、別れたくなくなってしまう。
でも、私はいつも通りに振舞い続けてしまう。自分でもバカだと思っているけど。
あいつがいる間は見せないようにしようと努力していた咳が止まらない。もうすぐ本当に駄目かもしれないと思うと、寂しい。
私はもうすぐ死んじゃうと思う。それでもあいつは普通に生きて、恋をして死んでいくのだろう。私のことなんか頭の片隅にすら意識することもなく。
あいつの人生には私は必要ないのだ。――それが悔しい。
いっそのこと、一緒に死ねたらいいのに。
私は枕元の写真を見る。私とあいつが一緒に写っている写真を。
手元に持っている花はスノードロップだった。あの花は結局、「希望」も「慰め」もくれないポンコツだったのだろうか。
もし、できるのなら、あいつと一緒に死にたい。
神様、お願いします。あいつを殺してください。
そして、私と一緒に死なせてください。
いつまでも、二人で一緒にいられるようにしてください。
私はいるのかすら分からない神様に祈った。