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第七話『ボコり』

 線路沿いの細い道。蛾などの虫が集まる少し暗めの街灯は、その道を照らすには十分とは言えない。線路と住宅街に挟まれた道は、延々と続いているのではと思う。

 ―――ヤツの行動範囲で線路沿いと言ったらこの道しかない・・・

 俺は焦っていた。今龍也が女を襲ったりなんかしたら、大変なことになる。頭が変わってすぐにそんな事件が起きたら、今は小さい噂でも、あっというまに広まる。

 今の頭は能無し。

 その事実は、今まで俺がやってきたことの全てを否定することになる。抑えてきた馬鹿共が、恐れる者がいなくなったことをいいことに、また暴れだすことになる。真面目君達に危険が及ぶ。しかも、それは頭をそんなヤツに譲った俺の意志にもなる。今まで以上に無法地帯になってしまう。

 スクーターのガソリンメーターが下に傾いているのに気付いて、舌打ちをする。今ガス欠になったら洒落にならん!

 左側の住宅街が一瞬途切れて、駐車場が現われた。そこに止まっている一台のママチャリを見つけて、慌ててブレーキを掴む。

 荷台のフレームが上に折り曲げられた、シルバーのママチャリ。籠には下品なマークが描かれたステッカー。

 ―――龍也のチャリ!

 隣にスクーターを止めて、耳を澄ましてみると、少し声がする。少し幼さの残る、女の声。この女を狙っている可能性が高い。声が聞こえる方に向かって走りだす。数十メートルも走ってない内に、息苦しくなると同時に胸の辺りが痛くなり始めた。

 ―――ま・・・だ・・・ヤニが・・・抜けてねぇのか・・・

 思考を回転させるのもめんどくさい。あぁ死にそう。なんで俺がこんな目に。マジ誰か殺してぇ。

 遠くなっていく全身の感覚。それでも女の笑い声が近くなっていくのがわかる。に、してもだ、この声は毎日聞いている声ですね、うん。

 ぼやけた視界を意識的にはっきりさせると、見慣れたワンピースとブーツカットのクラッシュデニムパンツ、綺麗に思える程のストパーをかけた茶髪に、細い眉毛と垂れ目の女が、携帯で電話しながらこっちに向かって歩いている。

 はい、悠海ですね。妹です。あのマセガキこんな時間にこんな暗い道一人で歩いてやがる。そして、その背後をニヤニヤしながら歩いているのは―――龍也。

「龍也!」

声にならない声を絞りだして叫ぶ。喉が痛ぇ。

 声に驚く悠海と龍也。だが、とりあえず悠海はシカト。横を通り過ぎて、そのまま、龍也を、殴り飛ばす。

「―――っ!」

声になっていない呻き声をあげながら龍也は倒れた。そのまま龍也の身体の上に乗っかって、また顔面に一発。

 衝撃による痛みも、血が頭に昇っているせいでさほど感じない。また一発。

 龍也は両手を顔の前にかざして、意味のない抵抗をしている。その状態の龍也の胸ぐらを左手で掴み、上半身を起こさせる。

「てめぇ!今何しようとしてた?!ぁあ?!」

 近所迷惑なのもシカトして怒鳴り声をあげる。

「ゆ・・・悠樹さん・・・なんで・・・」

龍也はやっと俺だと気付いたのか、目を見開いている。

「なにしてんだって聞いてんだ?!ぁあ?!」

もう一発顔面に。

「ちょ!お兄ちゃん?!」

電話を慌てて切った悠海が、俺の右腕を掴んで止めようとした。

 荒い息を少し落ち着かせながら、龍也を解放してやる。力が抜けているようで、胸ぐらを離すと頭からコンクリートに落ちた。

 よく龍也の服装を見ると、春休みなのにも関わらず、俺がくれてやった学ランを着ていた。

「脱げ!」

眉間に皺を寄せたまま、声を張り上げる。龍也は苦しそうにこちらに視線を向ける。

「上着を脱げ!」

もう一度促す。すると慌てて上着を脱ぐ龍也。

「帰るぞ、悠海」

 上着を力任せにひったくって、悠海の腕を掴んで元来た道を引き返す。

「ちょ!お兄ちゃん!」

 戸惑う悠海の声も聞こうとせず、俺は悠海の腕を離さずに歩き続けた。



「悠海、お前どこに行ってた?」

 スクーターを停めた駐車場に着くと同時に切り出す。

「買い物」

下を向いたまま答える悠海。馬鹿かコイツは?荷物を持たないで買い物から帰ってくるやつがいるか。

「また男の所か?」

悠海は俯いたまま、蚊が鳴いたような声で肯定した。 悠海は俺の一つ下の妹だ。私立の中学に通っている。中学時代の俺とは正反対の真面目な妹・・・ではなく、こいつには、いや、こいつにも普通じゃない節がある。

 ―――男遊び。

 そう、こいつは男遊びがひどい。何股かけているのか知らんが、いつも違う男を連れて歩いたり、男の家に平気で泊まってくる。しかも、ヤンキーに憧れがあるらしい。見かけた時に隣を歩いているのはヤンキーばかりだ。今時の中学生らしいのからしくないのか・・・

「お兄ちゃん、なんであの人ボコったの?あたしを襲おうとしたから?」

 話を無理矢理変えて、少し嬉しそうな笑みを浮かべる悠海。・・・殺すぞこいつ。

「それもあるけどな・・・ってか気付いてたのか?」

「当たり前じゃん。ずっと尾けてきてんだもん。気付くって普通」

 はい、おかしいですよねこの人。何襲われそうになってんのに、そのまま暗い道を楽しそうに電話しながら歩いてんの?ホントに殺しますよお嬢さん?

「・・・お前さ、夜中に出歩くときは明るい道を歩け。いいな?」

 今時の若いヤツに夜中出歩くなだの男遊びするなだの言ってもしゃあない。せめて、それくらいはと思う注意をしておく。細かいことはお母さまのお仕事です。

 スクーターの座席を開けて、半帽のヘルメットを取り出して、代わりに学ランの上着を丸めて突っ込む。

「ほら。ちゃんと付けろよ」

マセガキを後ろに乗せて、家に向かう。あぁ、妹思いの優しい真面目君ってとこですか?

「お兄ちゃん免許取らないの?」

はい、ごめんなさい。無免許です。真面目じゃないです。ハァ・・・

暴力シーン全開でしたワラ なるべく残酷にしないようにしましたが・・・如何でしたでしょうか? 話は変わりますが、初評価・感想いただきました!ありがとうございます☆彡返信させていただきましたので、そちらも御覧ください! 他の読者様も、評価・感想くださると嬉しいです。。

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