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第六話『初日夜』

 月の光が窓から差し込み、自室の青いカーテンを透かしてベッドを照らしている。小学生の頃から使っているベッドは身体に合わなくなっていて、寝返りをするたびに悲鳴をあげる。

 月明かりに照らされながら、俺はベッドの上で眠れずに白い天井を見上げていた。

 ―――疲れた。

 そう、疲れている。慣れない生活を送ったおかげで、四肢を動かすのが億劫だ。母の嘆きをシカトして、夕飯に呼ばれてもベッドの上から動けなかった。それくらい疲れている。なのに全く眠れない。

 理由は二つ。楽しみにしていた真面目な生活だが、思った以上に疲れた。しかも想像していた状況と違いすぎる。あの環境で俺は理想の生活を送れるのか?不安が、胸の内で、駆け巡る。

 もう一つ。龍也だ。俺は大してなにも考えず、あいつに俺の制服を譲った。それは実質中学の頭、いや、県内の頭をヤツに譲ったことになる。今日見たあいつは、県内のトップの姿じゃない。ただの調子こいた悪ガキだ。あの程度のヤツが県内の猛者を抑えることなどできない。      ため息を吐くと同時に、肺が息苦しくなる。ニコチンを身体が欲している。

 ―――煙草・・・吸いてぇ・・・

 中学卒業と同時にやめた煙草が恋しい。こういう時は煙草を吸うといつも気持ちが落ち着いた。こういう嫌な予感が全身を駆け巡り、イライラと不安が腹の中で暴れている時。煙と共に全てを吐き出すと、少し楽になる。完全にニコチン中毒者だと自覚してしまう瞬間でもあるが。

 思えば、俺は求めて中学の頭や、県内のトップに昇り詰めた訳ではないが、ちゃんとその責任は全うしていた。そもそも、降り掛かる火の粉を全て吹き飛ばしていったからその座を手に入れることになった。決して、悪いことをしていた訳ではない。むしろ良いことをしていると思っていた。今では悪かったと自覚しているが・・・

 一度思考を止めて、母が机に置いていったコーヒーと軽食を盛り付けた皿に目をやる。そして冷めたコーヒーを手に取り、一気に飲み干す。少し苦いが、それくらいが今の気分にはちょうどよかった。

 カツアゲされている男子生徒や、ヤンキーにちょっかいを出されて困っている女子生徒(真面目な子だけではなかった)。

それらを目にしたり、噂を聞いたら、即座に行動していた。

そうしたら自然と中学の頭という扱いになり、知らない番号から電話がかかってくるようになり、呼び出しが続く毎日。

でも、決して屈しなかった。

覚えのない因縁をつけられて、頭を下げたくなかった。

呼び出されてボコられても、決して謝らなかったし、手を出すことを諦めなかった。

そうして手にしたのが、県内トップの座だった。

ヤンキーと呼ばれるなら、ヤンキーらしくあるために、努力した。強ければ、真面目なヤツラが手を出されることはないと思っていたから。上に立てば、そういう行為を止めさせられると思ったから。俺は、弱者を助ける為に、強者になること、即ち、ヤンキーのトップになって恐怖政治を行うことが正義だと思っていた。

 ダルい身体を起こして、ダボGとスカジャンを羽織る。髪の毛をワックスとスプレーでオールバックに固める。

 時刻は0時ジャスト。春休みだから駅に行けばいくらでもヤンキーには会えるだろう。

 静かに階段を降りて、玄関でスニーカーを履いていると、母がリビングから出てきて、ため息をついた。

「結局、こうなるわけ?」

なんだかんだ言っていても嬉しかったんだろうな。今は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「学校始まるまで我慢してくれよ」

 少し苦しい思いを胸の内に留めて、笑ってみせる。もう心配かけたくないから、遊びに行くように見せる為に。

「・・・怪我しないように。事故らないように。あと悠海ゆみが連絡つかないから、探して来るように」

 ・・・待て。待て待て待て。またかよあいつは!

「わかった」

ため息混じりに答えて、外に出る。スクーターに火を入れて、駅に向かった。



 駅に着くと、昼間とは全く違う街が見れた。駅前に並ぶ居酒屋の前で、顔を赤くして談笑しているスーツを着くずしたサラリーマン達。駅の前やコンビニの前に座り込んでいるスウェット姿の若者。

 その中でも一際目立っている、単車数台を駅近くのあまり人気がない駐車場でたむろしている、いかにもヤンキーの集団に目を向ける。

 ―――あれは・・・

 見知った顔がいることに気が付いてスクーターを走らせ近づくと、上下黒のスウェットに身を包んだ金髪のニキビ面が俺に気付いた。

「斎藤さん!おひさっす!」

ニキビは年に似合わない低い声を張り上げた。周りのヤンキー達もこちらを見た瞬間、慌てたように頭を下げはじめる。

「ちわっす!」

「お久しぶりっす!」

 知らない顔のヤンキーに挨拶されるのはなんとも言えない気分だが、慣れてしまった自分もなんとも言えん。

「うっす。お前、龍也知ってるよな?」

妖怪ニキビに視線を向ける。以前、こいつは龍也と一緒に居るところを見たことがある。

「はい!最近連絡とってないっすけど」

 なぜ姿勢を正しながら答えるんだニキビ。

「なんかあいつの噂聞いてねぇか?」

全員を見回す。

「あ・・・」

一人、反応した。土方用のニッカポッカに身を包んだ茶髪。

「知ってんのか?」

 少しガンつけながら問い掛ける。

「・・・なんか、斎藤さんが頭譲ったことをいいことに調子こいてるって・・・」

少し気まずそうにニッカ君は答えた。

「例えば?」

すかさず続ける俺。やっぱあいつ・・・

「どうも片っ端からその辺の地味なやつカツアゲしてたり、女あさってるとか・・・」

 よくやったニッカ君。

「呼べ」

少しドスを聞かせる。

「え?」

妖怪人間ニキビが突然話を振られた為にまた姿勢を正す。

「今すぐ龍也呼べ!」

「は・・・はい!」

ニキビは慌てて携帯を取り出した。

 周りのヤツラは、なんかすっげぇとかやっべぇとか半端ねぇとか騒いでいる。マジうぜぇけどそれどこじゃない。あいつはシメないといけない。これが俺の最後の仕事だ。

「斎藤さん!なんかあいつ今忙しいっつってますけど!どうも女襲うつもりらしいっす!やばくないっすか?!」

 なにぃ?!

「場所は?!」

「線路沿いっぽいっす!電車の音聞こえたんで!」

 それだけ聞いた俺は、慌ててスクーターを走らせた。



シリアスです。全然笑えない感じに仕上がりました。次回に続きます。評価・感想等お待ちしております。また、小説家になろうで「はじめての×××」という企画が運営されております。神越は今回の参加は見送ってしまいましたが、是非そちらも御覧になってください!

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