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第三話『ギャル』

 埼玉県北部から、東京都の豊島区にある池袋駅までを走っている私鉄線。窓から視界に入ってくる風景は、時にスーパーやデパート等が目につくも、住宅街が圧倒的に割合を占めている。数年前までは空き地が多く、草木が無駄に生い茂った野原しか見えなかったらしいが、そんなことは微塵も感じさせない。

 今度は車内に視線を移す。本格的に学生達が通学していないせいか、朝のラッシュ時の割に人は多くない。さすがに座席は満席で、立っている人の方が多いが、サラリーマンのおっちゃんの新聞紙が顔に当たったり、目と鼻の先でガムをクチャクチャやられる程ではないので助かった。

 ふと、車両間を行き来するための通路が視界に入った。通路の中では、同じか少し上ぐらいの歳に見える女の子が二人、煙草を吸いながら座り込んでいた。服装は、うちの中学からも何人か受験していた、某有名公立高校の制服。なぜ有名か?そこまで偏差値は悪くないのに、入学するのはギャルとヤンキーばかりだからだ。

―――ギャルが!電車の中でヤニなんか吸いやがって!

短めのスカートを履いてるくせに、あぐらをかいて下品な笑い声をあげている。肌は日焼けサロンで焼いているのだろう、春に入ったばかりなのに真っ黒だ。君たちだけ夏を先取りか!

 突然だが、俺はどうもこのギャルという人種が苦手だ。見た目で全ての人の性格が決まるわけではないが、主にギャルの方々の性格はテンション高めのくせにダークなのだ。口が悪い上にネチネチと陰口を言い合って楽しむ。人の悪口で、なぜあそこまで楽しめるのかわからん。

 去年のちょうど今頃、俺が最もヤンキー活動を盛んに行っていた時、なぜか各中学のギャルに人気が出始めた。駅前をぶらついていると、こっちは顔も名前も知らないのに、馴々しく声をかけてくる。翌日、学校に行くと、覚えのない噂話が広まっていた。

―――斎藤悠樹は、喧嘩は強いがあっちは下手。

 待てと。俺は自慢じゃないが女と関係を持ったことなんかないぞと。しまいには、同じクラスのギャルが、

「ね、教えてあげようか?」

とか言ってくる始末。結構です。全力で結構です。

 普通の男だったらまず喜んで食い付くところだったのだろう。だが、俺は普通じゃない。その辺にいるギャルに誘われたってなんも感じない。

 そう!俺は!!髪は三つ編み・肌は色白・眼鏡はあってもなくてもいい・的な学級委員の女がタイプなのだ!!

 別に変な趣味があるわけではない。ただ、そういう真面目な女の子と、学級委員を共にがんばりながら芽生えていく恋を楽しみたい。そう!純愛をしたいのだ!!


「あのぉ」

 一人妄想にふけっている時、少し高めのダルそうな声が聞こえてきた。そこで意識は現実に引き戻され、視界にはさっきのギャル二人が目の前に・・・

「あのぉ・・・斎藤悠樹さんですよねぇ?鬼人の」

どうやら俺に話し掛けているようだ。

―――待て。待て待て待て。

乗車ドアの窓に映っている自分の姿を見る。うん、完璧だ。完璧な真面目悠樹だ。

「違いますぅ?目元が似てるんですけどぉ」

「だから違うってぇ!こんなキモい七三なわけねぇじゃぁん」

切れるな俺。耐えろ俺。

「でもホント似てんじゃん?背も同じくらいだしぃ」

おい、声高子(こえたかこ。名付け親、俺)しつけぇよ。

「あぁ、たしかにそんな背高くないほうだよねあいつ。の割に喧嘩強いとかどんだけチビマッチョなんだしぃ」

お前は声しゃがれてんな。じゃぁ声しゃが子。お前殴っていいか?

「ほらぁ!この人もチビマッチョじゃん?!ねぇ、やっぱ鬼人さんですよねぇ?」

だからギャルは嫌いなんだ!いきなり話振って来やがって!がんばれ俺!お前はできる子のはずだ!

「ち・・・違います・・・人違い・・・です」

―――できるじゃん俺ぇ!できる子じゃん俺ぇ!今のは完璧ギャルにびびった真面目君じゃねぇ?!

「あっそ。ほら、茜違うって。行くよ」

「えぇ〜・・・ん、行くぅ・・・」

 行った・・・行ってくれた。なんでバレたんだ?

―――目か!目元が似てるって言ったよな!そっか、眼鏡をかければいいんだな。今日みたいなのはもううんざりだし、眼鏡を明日からかけよう!フフフ、これで更に完璧な真面目君に―――

「あのぉ?」

―――またか、声高子!どうする?!さすがに今は眼鏡なんか持ってないぞ!

 困った俺は名案を思い付いた。

両手の親指と人差し指で二つの円を作り、それを・・・


目に当てた。


「・・・なんでもないです」

声高子こと茜と呼ばれたギャルは表情を歪めて逃げるように車両間通路に引き返した。


―――ハッハッハ、勝った!!!

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